一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)では、2023年度通期(4-3月)の通信機械生産・輸出入の概況をまとめました。
I.概況
2023年度の日本経済は、実質GDP成長率(2次速報値:6月10日)が前年度比1.2%増と3年連続のプラス成長となりました(1-3月期は年率換算で1.8%減、2四半期ぶりのマイナス成長)。個人消費は低迷が続いていますが、半導体の供給制約の緩和等に伴う輸出の増加やインバウンド需要の回復等から外需がけん引してプラス成長となりました。
この中で、2023年度の通信機器市場では、企業活動が活発化したことからオフィス向けのビジネス機器は回復していますが、前年度の需要増に対する反動で減少した機器もあります。携帯電話は需要が低迷し事業撤退もあって減少し、さらに通信インフラ関連の投資が抑制されたことから国内市場は減少しました。輸出も世界的な経済低迷によってほとんどの機器で減少しました。
(1)国内市場動向
2023年度の国内市場金額(=国内生産金額-輸出金額+輸入金額:部品除く)は3兆5,948億円となり、前年度比では2.9%減と減少しました。デジタル伝送装置や基地局などの低迷によってネットワーク関連機器が7年ぶりに減少したことから、国内市場全体では4年ぶりに減少しました。
(2)国内生産動向
2023年度の国内生産金額は3,891億円、前年度比では20.0%減と3年連続で減少しました。供給制約の影響が回復した有線端末機器が増加していますが、国内メーカーの事業撤退が続いた携帯電話を含む陸上移動通信装置が大きく減少して、国内生産も大幅に減少しました。
(3)輸出動向
2023年度の輸出総額は3,228億円、前年度比では9.8%減と3年ぶりに減少しました。トラフィック増に繋がるネットワーク関連機器の輸出は、円安効果もあって増加しました。一方で契約数飽和や経済低迷によってスマートフォン出荷台数の減少が続く中国を含んだ世界市場が落ち込んでいることからスマートフォン生産用部品が減少し、輸出総額で減少しました。
(4)輸入動向
2023年度の輸入総額は3兆5,825億円となり、前年度比では0.8%減と4年ぶりに減少しました。携帯電話では、買い替えサイクルが延びているために輸入台数は減少しましたが、海外メーカー製の高価格帯モデルが堅調なことから輸入金額は増加しました。しかし国内の通信インフラ機器への投資が減少していることから、輸入総額で減少しました。
II.国内市場動向(生産動態統計と貿易統計からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表1-1、図表1-2)
機種別の2023年度の実績は以下の通りです。国内需要が低迷しているために端末機器とネットワーク関連機器がともに減少したことから、前年度比では4年ぶりに減少しました。
①端末機器:2兆5,148億円(前年同期比 0.5%減)
②ネットワーク関連機器:1兆800億円 (前年同期比 8.1%減)
生産動態統計と貿易統計から「国内市場規模=国内生産金額-輸出金額+輸入金額」として、国内市場規模を算出しています(海外メーカーの輸入額も含みます)。
図表1-1:国内市場(機種別、年度別) | |
図表1-2:国内市場(機種別、四半期別) | |
III.国内生産動向(経済産業省「生産動態統計調査」からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表2-1、図表2-2)
機種別の2023年度の実績は以下の通りです。
①有線端末機器
455億円(前年度比3.5%増)。うち電話機16億円(同12.5%増)、ボタン電話装置150円(同4.1%増)、インターホン288億円(同2.7%増)となりました。ボタン電話装置は、供給制約の影響が回復したことから需要が伸び、国内生産が増加しました。またインターホンも供給制約の影響から回復したことで、国内需要のほか、海外向けの出荷も好調なことから国内生産は増加しました。
②移動体端末機器
1,015億円(前年同期比30.6%減)。うち陸上移動通信装置819億円(同25.3%減、携帯電話含む)、海上・航空移動通信装置195億円(同19.4%増)となりました。携帯電話は需要が低迷している上に、国内メーカーの事業撤退などによって国内生産は大きく減少しました。海上・航空移動通信装置は海外での需要が回復したことで国内生産は増加しました。
③有線ネットワーク関連機器
1,251億円(前年度比15.4%減)。うち交換機(局用と構内用)128億円(同32.5%減)、デジタル伝送装置366億円(同36.9%減)、その他の搬送装置757億円(同6.8%増)となりました。交換機(主に構内用)は、部材費高騰を価格転嫁したことなどからシステム小型化・低価格化の要求に合わず需要が低迷、国内生産は減少しました。ネットワークインフラ機器への投資が低迷しているためデジタル伝送装置の国内生産は減少しましたが、PON・MCなどを含むその他の搬送装置は好調で国内生産は増加しました。
④無線ネットワーク関連機器
933億円(前年度比17.6%減)。うち固定通信装置251億円(同14.5%減)、基地局通信装置683億円(同18.7%減)。固定通信装置は、携帯電話基地局のバックホール需要があったものの、防災行政無線向けなどの需要が減少しました。基地局通信装置は、5G SA基地局やミリ波対応基地局の設備投資が進まず、国内生産は低迷が続いています。
⑤ネットワーク接続機器
298億円(前年度比2.5%増)。供給制約の影響が回復し、ネットワークトラフィック増への対応によって需要が引き続き好調なことから、国内生産が増加しました。
⑥ 有線部品(有線機器用リレー、中継器用など)
248億円(前年度比7.8%減)。世界的なスマートフォン市場の低迷によってスマートフォン生産用部品の需要が減少し、国内生産が減少しました。
図表2-1:生産総額(機種別、年度別) | |
図表2-2:生産総額(機種別、四半期別) | |
IV.輸出動向(財務省「貿易統計」からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表3-1、図表3-2)
機種別の2023年度の実績は以下の通りです。
①電話機及び端末機器179億円(前年度比17.2%減)
内訳は、携帯電話138億円(同18.0%減)、コードレスホン2億円(同37.9%減)、その他39億円(同13.2%減)となりました。携帯電話は米国以外には増加していますが、米国向けが減少したことによって輸出は減少しました。携帯電話の輸出額が多い国は、米国、香港、UAE、台湾、ベトナムとなっていますが、1月~3月の一時的な単価では、米国37千円、香港6千円、UAE 93千円、台湾34千円、ベトナム55千円となっており、香港に向けて廉価版中古品や、UAEやベトナムに向けてハイエンド版中古品などが輸出された可能性があります。
②ネットワーク関連機器1,611億円(前年度比0.6%減)
内訳は、基地局103億円(同63.7%減)、データ通信機器1,466億円(同12.4%増)、その他ネットワーク関連機器43億円(同23.2%増)となりました。ネットワークトラフィック増に対応するネットワーク機器の輸出は伸びましたが、海外の通信事業者による設備投資が抑制されており、基地局などの通信インフラ機器の輸出は減少しました。
③部品(有線系・無線系の合計)1,438億円(同17.5%減)
新型コロナ禍後から回復していたスマートフォン生産の世界的な低迷によって、中国や米国向けが大幅に減少し、部品輸出は3年ぶりに減少しました。
図表3-1 輸出動向(機種別、年度別) |
図表3-2 輸出動向(機種別、四半期別) |
(2)地域別の詳細動向(参照:図表3-3、図表3-4)
地域別の2023年度の実績は、アジア向けが1,605億円(前年度比8.1%減)、うち中国向けは598億円(同22.2%減)。北米向けが1,016億円(同24.7%減)、うち米国は985億円(同25.5%減)。欧州向けは471億円(同23.8%増)、うちEUは379億円(同25.4%増)となりました。米国向けは、携帯電話や基地局で大幅に減少したことから輸出が減少していますが、3年連続で中国向けの輸出を上回っています。
(3)地域別構成比
1位 | アジア | 49.7% | (前年比 +0.9%) |
---|---|---|---|
2位 | 北米 | 31.5% | (同 -6.2%) |
3位 | 欧州 | 14.6% | (同 +4.0%) |
その他地域 | 4.2% | (同 +1.3%) |
図表3-3 輸出動向(地域別、年度別) |
図表3-4 輸出動向(地域別、四半期別 |
Ⅴ.輸入動向(財務省「貿易統計」からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表4-1、図表4-2)
機種別の2023年度の実績は以下の通りです。
①電話機及び端末機器2兆3,857億円(前年度比1.2%増)
内訳は、携帯電話2兆3,738億円(同1.2%増)、コードレスホン49億円(同1.5%減)、その他70億円(同4.7%減)となりました。携帯電話は、買い替えサイクルが延びていることから需要が低迷しており、海外生産された国内メーカー製や海外メーカー製の輸入台数は減少しましたが、海外メーカー製のうち高価格帯モデルが堅調な上に円安影響もあって輸入金額は増加しました。コードレスホンは、海外工場での部品供給不足も解消して生産も安定しています。
②ネットワーク関連機器1兆238億円(同4.2%減)
内訳は、基地局329億円(同47.0%減)、データ通信機器9,633億円(同1.8%減)、その他ネットワーク関連機器275億円(同8.5%増)となりました。基地局は、通信事業者の投資抑制が続いたことから国内の設備投資が進まずアジアや米国からの輸入が大幅に減少しました。一方で、データ通信機器(うちスイッチング機器及びルーティング機器)やその他のNW関連機器はネットワークインフラ投資やデータセンター設備投資などに向けて輸入が増加しました。
③部品(有線機器と無線機器用部品の合計)1,730億円(同7.1%減)
図表4-1 輸入動向(機種別、年度別) |
図表4-2 輸入動向(機種別、四半期別) |
(2)地域別の詳細動向(参照:図表4-3、図表4-4)
地域別の2023年度の実績では、アジアからが3兆3,808億円(前年同期比1.8%減)、うち中国は2兆6,781億円(同2.5%減)。北米からは650億円(同6.0%増)、うち米国は586億円(同5.6%増)。欧州からは830億円(同34.6%増)、うちEUは794億円(同37.9%増)。
アジアからは、携帯電話は円安影響もあって増加しましたが、基地局やデータ通信機器が減少したことから輸入は微減となりました。欧州からは、データ通信機器(うちスイッチング機器及びルーティング機器)が大きく伸びて輸入が増加しました。
(3)地域別構成比
1位 | アジア | 94.4% | (前年同期比 -1.0%) |
---|---|---|---|
2位 | 北米 | 1.8% | (同 +0.1%) |
3位 | 欧州 | 2.3% | (同 +0.6%) |
その他地域 | 1.5% | (同 +0.2%) |
図表4-3 輸入動向(地域別、年度別) |
図表4-4 輸入動向(地域別、四半期別) |
VI.受注・出荷動向(CIAJ受注・出荷統計より)
(1)2023年度の実績
CIAJ会員の国内メーカーによる受注出荷の2023年度の実績は1兆1,695億円で前年度比-25.5減となりました。このうち、国内出荷は9,414億円の同比20.0%減、輸出が2,281億円の同比42.1%減とともに減少となりました。国内出荷は、通信インフラ機器などで設備投資が低迷しており、前年度の需要増の反動で出荷が減少した機種もあって前年度比で減少しました。輸出は、世界的な景気低迷からほとんどの機種の需要が低迷し、前年度比で減少しました。
※CIAJ受注・出荷統計=CIAJ会員の国内メーカーの受注・出荷額
(=国内出荷額+輸出額 =国内生産額+海外生産した輸入額)
(2)機種別動向
国内出荷と輸出を合わせた機種別の2023年度の実績は以下の通りです。
①有線端末機器 4,500億円(前年度比19.0%減)
事業所用コードレスは、部品価格や輸送費高騰を背景とする価格転嫁を反映して単価をアップしましたが出荷金額は減少しました。ファクシミリ(複合機を含む)は、国内と輸出とも前年度の需要増に対する在庫の調整もあって出荷は減少しました。特にファクシミリの輸出は、世界経済の低迷に加えて前年度の円安などによる大幅増の反動もあって減少しました。
②移動体端末機器 2,296億円(同比36.4%減)
携帯電話は、買い替えサイクルが長期化した影響などからスマートフォン需要が低迷しており、国内メーカーの事業撤退も続いたことから出荷台数と金額ともに大きく減少しました。その他の移動端末機器は、業務用無線などが好調で増加しました。
③有線ネットワーク関連機器 2,548億円(同比2.4%増)
ボタン電話は、構内用電子交換機からのシフトなどで出荷台数が伸び、部材調高騰を反映した出荷金額がアップしたことから台数・金額ともに増加しました。構内用電子交換機は、システム小型化に合わせたボタン電話へのシフト、クラウドサービスの拡大などによって減少しました。ボタン電話と構内用電子交換機の輸出は、世界経済の低迷から減少しました。デジタル伝送装置やPONは、ネットワークインフラ投資が回復傾向を続けていることから増加しました。ただしデジタル伝送装置の輸出は、前年度に円安効果もあって大幅に増加した設備投資の反動などから減少しました。
④無線ネットワーク関連機器 1,825億円(同比45.8%減)
固定通信装置は、地上系では防災無線関連の需要が減少しており、衛星系でも前年度の大型案件からの反動で大きく減少しました。基地局通信装置は、通信事業者による設備投資が抑制されて出荷は低迷しましたが上向きつつあります。輸出では、基地局通信装置をはじめとしてすべての機種が大きく減少しました。
⑤その他ネットワーク関連機器 394億円(同比9.7%減)
ルーターの出荷は低迷しましたが、LANスイッチは、通信事業者やその他民間向けにデータセンターなどでの需要が増加しています。
⑥通信機器用部品 132億円(同47.58%減)