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   「QMSを経営に活かしたいあなたに贈る」 QMS委員会

  「QMSを学ぶならQMS委員会のイベントをご活用ください!」

                      2016年11月30日発行 第76号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ CIAJ ━
≪ 第76号 目次 ≫

 ・はじめに


 ・QKMアクティブラーニング 第五弾
  『潜組織の成長に貢献する在原因分析アプローチ』の速報

 ・QMSサロン報告
  『QMS構築の理解と改善および運用ポイントを考える』
   〜QMSの有効性を高めるには〜

 ・ISO 9001関連の最新動向

 ・TL 9000コーナー 『TL 9000セミナー報告』

 ・知識活用型企業への道 『QMSにおける知的資産運用への取り組み』

 ・コラム 『人類の進歩』

 ・編集後記

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●はじめに ─────────────────────────────────── 早いもので今年も残り1カ月となりました。皆さんはやり残したことはありま せんか? 計画通りにできた方,出来なかった方,それぞれいらっしゃるかと 思います。ISO 9001:2015への移行は期限まで2年を切りました。慌てること なく組織の身の丈にあったQMSを再構築されることを願っております。 11月はイベント盛り沢山のQMS委員会でしたが,今年は昨日実施のQKMアク ティブラーニングをもって一段落です。年明けは,1月24〜25日に吉川先生に よるQKMアクティブラーニングのBSC2日間コース,2月3日にはヤマト運輸様 の羽田クロノゲートへの異業種見学会を行います。皆様には12月中旬以降に ご案内をする予定です。 また,QMS委員会の大仕事であるQKM e-ラーニング ISO 9001規格解釈コー スの2015年版リバイスは,レビューを重ねたコンテンツはおおむね仕上がり, 使い勝手を含むブラシュアップを行う段階まできています。 来年もQMS委員会にご期待ください。 それでは,メルマガ76号をお届けいたします。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●QKMアクティブラーニング 第五弾   『潜組織の成長に貢献する在原因分析アプローチ』の速報 ─────────────────────────────────── 昨日,QKMアクティブラーニング第五弾として,第四弾と同じく株式会社イノ ベイション代表取締役 山上裕司様をお招きし,「組織の成長に貢献する潜在 原因分析アプローチ」を開催しました。 タイトルは山上講師ならではのユニークなもので,テーマへの興味とともに, 今回は,24名の参加をいただきました。 ワークショップでは,これまでの原因分析手法ではなく,“潜在原因分析” というもので,スペースシャトルの障害分析の仕事に携わっていたボブ・ネ ルム氏が,業務を通じて考え出した手法です。山上氏は,この手法の認定ア フリエイトの資格を取得し,ライセンス契約を結ぶとともに,QMS委員会の 会員企業にとっても役立つ内容であるということで,今回のQKMアクティブ ラーニングで紹介いただくことになったものです。 一言でいえば,障害や事故が発生した場合に潜在原因を見つける手法です。 対象は,組織全体,部門,個人に適用できます。ISO 9001:2015の改訂の経 緯のひとつに再発防止が十分でないという評価もあり,この日の参加者の組 織における是正や改善活動の状況からもコミュニケーション,基本動作,知 識,など様々な問題点が報告される中で本題に入りました。 1986年に発生したスペースシャトル チャレンジャー号の爆発事故は,Oリ ングという部品の温度特性による硬化が原因で燃料漏れし,発射直後に爆発 に至ったという物理的原因がありました。 しかし,発射直前には,技術者はOリングが通常の特性になる外気温12℃に なるまで,発射を待って欲しいという要望を出していましたが,この提言は 受け入れられず,外気温の低い中でチャレンジャー号は発射され,結果的に 爆発という大惨事となりました。 物理原因はともかく,発射する判断,発射ボタンを押したのもヒトです。 従来は,ヒトに原因に押し付けてはいけないというのが一般常識でしたが, 「潜在原因分析アプローチ」はここに踏み込んだ手法です。 手順は, 1.小さな問題を重視 2.自ら取り組む 3.事実を集める(ヒトに聞く,モノを見る,カミ:手順書,記録を見る) 4.分析ツールを使わない(想像しない) 5.ヒトの声を聞く(批判はしない) 6.本音で組織の原因を話す 7.数字だけでリスクを算定しない 8.体験事例からの学習を予防に役立てる で行います。 組織で実践する場合は,事実を集める調査員は,事務局ではなく,ランダム に選択し,予見を持たない人が行うことにします。 そして,この事実を分析するのは,本気になって組織の改善をしようとする 人達を集めて行います。各部門からの自薦,他薦で思いと志のあるメンバで す。 最後に,受講者に対し,以下の5つの質問を出され,締めくくられました。 ・小さな問題を日常的に取り上げ,原因分析していますか? ・組織にて問題が起きた時,自分自身もその問題の一部として捉えています  か? ・大きな問題が起きた時,前向きに向かい合っていますか? ・私・組織は,失敗から学んでいますか? ・それは,どのように分かりますか? なお,米国での学習プログラムでもこの5つの質問が出され,ボブ氏からは, 「小さな問題から学習し,大きな問題からの犠牲をなくしてもらいたい」と いうメッセージが加えられていたとのことです。 今回の受講者アンケートの結果は,纏まり次第,会員専用サイトに掲載の 予定です。 また,QKMアクティブラーニングへのご意見,ご要望がありましたらQMS委員 会事務局宛にお知らせください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●QMSサロン報告  『QMS構築の理解と改善および運用ポイントを考える』   〜QMSの有効性を高めるには〜 ─────────────────────────────────── 11月18日に第20回「QMSサロン」を開催致しました。 QMS委員会フェロー 山本正様(MBA,Ph.D)をファシリテーターに迎え,前 回のQMSサロンに引く続き,JIS Q 9001:2015(ISO 9001:2015)規格内の使用語 彙の関連性をひも解き,QMSがどのように「組織の意図した結果を導くことが 期待できる」のかというアルゴリズムを読み解きました。 まず最初に,山本氏から,規格の読み方のアドバイスがありました。 JIS Q 9001:2015で “〜しなければならない(※1)”は200箇所程度あるが, 規格をただ逐条で解釈するだけでは,とりあえず実施になってしまうというこ とで,これではいけないということした。  ※1:〜しなければならない,〜なければならない,〜ければならない 前回のQMSサロンでは,規格要求事項の構造を包括的に理解するため,主要語 彙のクラスター分析も含め,箇条出現分析を行い規格の求めている姿を考察 し,箇条が何を求めているのか,逐条型では分からないことを導きました。 今回は,語彙の箇条毎出現数を使って,QMSの構造をより具体的に考えて,QMS をより理解し組織のQMSを改善し,運用するポイントを考察しました。 QMSを理解するにあたり,「QMS構築のねらい」は何かの問いかけがあり, 序文0.3.1に以下の一文が記載されていますが,この一文は,暗記して覚えて おいて良いレベルとのアドバイスがありました。 「システムとして相互に関連するプロセスを理解し,マネジメントすること  は,組織が効果的かつ効率的に意図した結果を達成する上で役立つ。  組織は,このアプローチによって,システムのプロセス間の相互関係及び  相互依存性を管理することができ,それによって,組織の全体的なパフォー  マンスを向上させることができる。」  (序文0.3.1より) 逐条型で要求事項だけを見てしまうと,読み飛ばされてしまいがちな序文に全 て言い尽くされているのだと再認識し,規格要求事項になっている箇条4以降 にばかり目を向けていると大事なことが抜け落ちてしまうと感じました。 「なぜ企業内の活動をシステム化するのか?」の問いに対しては, ”QMSを構築しそれをマネジメントすることにより,組織(企業)の全体的な パフォーマンスを向上させる期待が持てる。” からであり,そのために,  (1) QMSのシステムとして相互に関連するプロセスを認知・理解する。  (2) プロセス間の相互関係性と相互依存性を理解しマネジメントする。 必要があるとのことでした。 特に,(2)が役立ち,例えば,営業と設計の相互関係はどうなっているかを考 えると,現場情報を営業が知っている,この情報を設計にインプットする。と いう関係性,依存性があるのでそこをマネジメントするということでした。 そして,体系化,プロセス化できないものがあるので,コミュニケーションが あり,手続き化(文書化)できないものがあることが重要になってきて,企業 価値は何かといわれると手続き化できない部分であるという,やや難しい話も ありました。 次に,「どのようにQMSを構築していくのか?」の問いに対しては, ”プロセスアプローチの採用と,リスクに基づく考え方によるPDCAサイクルの 採用。” とのことであり,これによって,  (1) 組織(企業)の目的および戦略と整合性がある品質方針に従った結果を    導く期待がある。  (2) 好ましくない結果の(再発)防止。  (3) リスクの認知とシステムとしての対応。  (4) 機会の認知と利用の機会を視野に入れる。 が,期待できるということでした。 ここで,「QMSを構築する“ねらい”を整理する」ために,山本氏から参加者 に問いかけがあり,以下のコメントがありました。 「QMSは,システム化することで,問題を解決することが目的なのに,システ ム化することが目的になってしまうと方向性を間違ってしまう。手続き化して おかないと体系的にマネジメントできない。」 ややもすると,QMS活動の目的を勘違いしてしまうと,ハッとさせられました。 次に,語彙出現頻度分析を詳しく解説していただきました。 出現数が必ずしもその重要度を示すわけではありませんが,出現箇条と組み合 わせ理解することにより,規格の本質を引き出す手掛かりとなるとのことでし た。 そして,箇条4から箇条10をレーダーチャートの軸にして,PDCAの各段階でど の語彙がどのように出現しているかを図として表し,QMSのポイントを探りま した。 「計画(Plan)の視点」では,  ・語彙 “関係者”,“顧客”および“外部”の出現分布  ・語彙 “計画”と“妥当”の出現分布  ・語彙 “意図”と“一貫”の出現分布 「実行(Do)の視点」では,  ・語彙 “設計”の出現分布  ・語彙 “文書化した情報”の出現分布  ・語彙 “知識”,“能力”および“力量”の出現分布 「チェック(Check)の視点」では,  ・語彙 “確実にする”と“実施”の出現分布  ・語彙 “測定”,“検証”,“評価”および“妥当”の出現分布  ・語彙 “コミュニケーション”と“文書化した情報”の出現分布 「対応(Act)の視点」では,  ・語彙 “不適合”,“変更”および“是正”の出現分布  ・語彙 “不適合”,“監視”および“監査” の出現分布  ・語彙 “リスク”,“機会”および“改善”の出現分布 まとめとして,山本氏より以下のお話がありました。 QMSの構造を把握するため,各語彙の出現数を箇条によるレーダーチャートを 利用し整理してみました。またPDCAの枠組みを使い個別に見てきました。 語彙出現の箇条分析を行うと,これまであまり分からなかった規格の構造を 客観的に見ることができ,またより良く理解できるようになったかと思いま す。 ともすると,各要求事項ごとに対応する逐条型アプローチになりがちですが, 関連する箇条とのバランスをとりながら,その組織(企業)の目的と体質にあ わせ,その企業のQMSを構築する手掛かりになればと思います。 最後に参加者の感想として,以下が挙げられました。 ・とても面白かった。言葉がここにこんなにあったのかと感じた。 ・序文の重要性が分かった。 ・ISO 9001の意図の本質が理解できた。 ・顧客要求の枕詞が抜けると意図が汲み取れないことが分かった。 ・規格の読み込みがまだまだと感じた。会社で良いものが作れればと思う。 ・解釈するための道具として,語彙分析などが使えることが分かった。  解釈が正しいかより,どうやって活かすかが大切であることが分かった。 ・語彙で規格を読んでいるだけでは,解釈が違うところがあった。  QMSサロンに参加して気がつくきっかけになった。 ・社内で規定を作っていくときにも,語彙の分析が必要である。 ・工程監査のとき,文書管理やISO要求をみて実施している気になっていた。 ・語彙分析で数が多いから重要と言うわけではない。 ・要求事項(直接的に要求しているところ),shall(ねばならない)は一致  していないということが初めて分かった。 今回のQMSサロンは,今までの規格の読み方をガラリと変えてくれる内容で, 逐条型で理解したつもりになっていましたが,規格の意図の奥は深いと感じさ せられたサロンでした。 場を共有したからこそ得られる内容が多くありました。 毎回メルマガで,内容のダイジェストをお伝えしていますが,参加しているか ら味わえる面白さまではお伝えできないのが残念です。 是非,メルマガ読者の皆様にも,”場に参加するからこそ腑に落ちる” 感覚を 直接味わってもらい,自分の知識として持ち帰ってもらいたいと思います。 次回,第21回は,2017年3月に開催予定です。 QMSサロンは,自身の勉強目的のみならず,会員間コミュニケーション, リレーションを築くにも最適な場です。新たな参加者を大歓迎します。 皆様のご参加をお待ちしております。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●ISO 9001関連の最新動向 ─────────────────────────────────── 当月は,オランダ・ロッテルダムでISO/TC176総会が開催となっていますが, その情報は次回以降の報告となります。 今回は,前号で報告したTS 9002のその後と,新TC309についての報告をします。 <ISO/TC 9002の発行>  前号で報告したTS9002は,10/31に日本規格協会から以下の通り発行されま  した。   規格番号: ISO/TS 9002:2016   標題: Quality management systems       -- Guidelines for the application of ISO 9001:2015   標題仮訳: 品質マネジメントシステム−ISO 9001:2015適用の指針   発行年月日: 2016-10-31   対応JIS規格: なし   TC:    ISO/TC 176/SC 2   邦訳版:  邦訳版なし   関連URL: http://www.jsa.or.jp/store/isots-90022016.html  なお,JIS化については,現在も経済産業省と調整中とのことです。 <新TC 309の設立について>  ISOでは,新TC309(組織のガバナンス)の第1回会合が今月ロンドンで開催さ  れることになっていますが,関係する委員会との間に適切にリエゾンを設置す  ることが検討されており,提案文書ではTC176もその対象として上げられて  います。結果については,わかり次第,この場を通じて報告させていただき  ます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●TL 9000コーナー 『TL 9000セミナー報告』 ─────────────────────────────────── 1. TL 9000 セミナー報告 恒例となっています「TL 9000 セミナー」が11月21日(月)にクエストフォーラ ム日本ハブとCIAJ QMS委員会の共同で開催され,CIAJ会員始め60名の方に 参加いただきました。 7月発行のTL 9000要求事項ハンドブックR6.0の内容を中心に説明が行われまし た。 R6.0版はISO 9001:2015年版に対応しており,そのTL 9000特有追加部分と ISO 9001の要求事項の対比について具体的に解説がありました。 本セミナーは半年に一回,定期的に開催しており,次回は2017年6月頃を予定 しておりますので,機会を見てのご参加を歓迎いたします。 2.TL 9000要求事項ハンドブックR6.0 英和対訳版 本年7月に改版発行された「TL 9000要求事項ハンドブック  TL 9000:2016(R6.0)」の日本語翻訳が日本規格協会より11月15日に発刊となり ました。 当書翻訳委員会にはQMS委員会TL 9000WGからも参加しています。 ご質問等ありましたらいつでもご連絡を下さい。 3. クエストフォーラム紹介の動画 日本語字幕付きのクエストフォーラム紹介の動画が公開されています。 クエストフォーラム 紹介動画 http://youtu.be/5soYn8Herts TL 9000 紹介動画 http://youtu.be/kUEtfhqd9wM ぜひご覧下さい。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●知識活用型企業への道 『QMSにおける知的資産運用への取り組み』 ─────────────────────────────────── 今回の米国大統領選は差別的な発言でさまざまな話題を呼んだ共和党トランプ 候補が当選し,米国だけでなく日本の経済界からも戸惑いの声があがりまし た。(2016/11/9) 投票日の二日前に行われた世論調査では約90%の確率で,民主党クリントン候 補が勝利すると報じられていましたから,その戸惑いは無理からぬことです。 予測と反対の結果となったのは,“隠れトランプ”と呼ばれている人々の建前 と本音をうまく調査で捉えることが出来なかったことが一因だと言われていま す。 同様のことは,今年のイギリスEU離脱の国民投票(2016/6/23)でも起きてい ました。 さて実際の話,90%という高確率で報じられていた予想が当たらなかった例は 記憶になく,米国社会の深層にある不安定さにあらためて気がつかされる思い です。EUや米国の社会情勢が,その深層において従来の経験やデータでは予測 できないほど大きく変容してきていることを示すものなのでしょう。 一方,国内の選挙では開票率数パーセントの段階で当選確実が報じられる候補 がおります。また,その予測が間違っていたという経験もまずありません。こ れは国内が過去の状況から推定できるほど安定した状況にあることを示唆して おり,過去・現在の状況からおおむね将来を推定できる状況にあることを暗示 しています。 しかし,国際情勢は先行きが見通せない時代に入りつつありますので,今後国 内もさまざまな点で影響され,少なからず変化することを求められるでしょ う。 確率の世界では理屈の上では,99.9%の確率でも予想がひっくり返ることがあ ることを示しています。 自然科学など論理的に構築された世界の確率予測はおおむね推定どおりになる のに対し,社会科学ではその予測背景が大きく変化することがあり,今回の事 例のようになることをあらためて認識することになりました。 この予測をくつがえす“隠れた因子”の話は,ソビエト連邦の崩壊やイギリス のEU離脱などを予言したといわれるフランスのエマニエル・ドット氏のインタ ビュー番組(NHK 2016/10)では,エリート層と一般層との富の格差の拡大と 固定化があり,分断され取り残された層の“怒り”があると指摘し,今回の米 国大統領選でトランプ候補の当選もあり得ると予想しておりました。 この“怒り”がどの程度選挙結果に影響するかは,その時点では見えていませ んでしたが,結果が出て見ると相当深刻なものであることをあらためて確認で きました。 また,ドット氏は,トランプ支持層は一般的に低学歴層だと思われているが, 高卒以下の支持率36%に対し大学中退者層が39%と高卒以下の層よりも支持率が 多いことに注目していました。一般的に,高卒以下と大卒以上と区分するとこ ろを,大学中退という新たな視点を加え分析したところにユニークさがあり, データの取り方や区分観点を変えることにより,違う面が見えてくることを示 した良い事例だと言えます。 さて,この格差を生み出す背景には,労働力中心から知識力中心に向かう企業 の流れがあり,教育レベルによっては必要な専門知識を容易に獲得できないた め,必然的に賃金格差と階層の固定化が進み,結果として階層の断層化につな がったことが想定できます。 このように固定化された社会は多様性と競争力を失うため,例えば中国にみる 農民戸籍と都市戸籍による医療や教育の格差にみる,産まれで固定化された格 差のような極端な例だけでなく,例えば国内では母子家庭にみる貧困の連鎖に よる教育問題などは,格差の固定化へつながる懸念に対し日本社会として十分 に配慮しなければならないでしょう。 さて,このコーナーは政治や経済の話をするのが目的ではありませんので,知 識活用型企業がもつ固定化によるリスクへと話を進めて行きたいと思います。 ISO 9001に準じた品質マネジメントシステム(QMS)が目指すのは,企業目的 を効率的に達成するために業務活動を体系化しマネジメントすることに視座が ありますが,一般的には,業務の固定化のイメージが強いことも否定できませ ん。 また,知識活用型企業では,業務の手順化以上に知識・技能や経験のバラつき が業務の質に大きく影響するため,ともすると不具合の原因を個人に帰着させ がちです。 人間系が関連した問題の根本原因を個々人に帰着させることは容易ですが,な ぜその人がその業務を担当しているのか,必要な教育や訓練を行ったのか,必 要な情報伝達やコミュニケーションをタイムリーに行っているのか,またチェ ックをどのように行っているのかなど,真の原因をシステムとして追求してい かなければ,同類の問題は例え担当者を変えたとしても繰り返し発生すること が考えらます。 それゆえ,QMSはプロセスを軸にシステムアプローチを採用し,文書化した情 報を基盤にリスクや機会を視野に入れつつシステム的にPDCAサイクルをまわ し,継続的に改善を重ねる工夫をしています。 この仕組みは,組織の内部および外部の状況の変化に対応するための根拠を, 手順やシステムの改善として具体的に示すことができ,決して変化を避け固定 化するものではないことを理解しなければなりません。 むしろ,企業内で時々生じる形骸的な文書化や変更の放置などが,業務実態と 乖離した無駄な業務を続けるといった不思議な固定化を促進させるものなので す。これはQMSの問題というよりは,むしろ組織体質に関連する現象と言えま す。 そこで次の話として,“製品及びサービス”の質ではなく,組織の“質”とい う話題に進めます。組織の“質”に関連し現在ホットな関心を呼んでいるのは 何と言っても東京都の築地市場の豊洲新市場への移転問題でしょう。 この一連の報道を見ていますと,都庁の歴代の責任者は汚染物質対応である盛 り土に関しあってはならない地下空間の存在を“知らなかった”,“報告を受 けていない”,“引き継いでいない”などの発言を繰り返し,原因と責任の所 在がなかなか明確になりませんでした。 その上見積り金額に対する大幅な増額問題,極めつけは都合の悪い会議録の改 ざんと虚偽の説明をホームページに問題発覚後も掲載し続けていたなど,民間 企業では到底考えられない事態が連日報道されていました。 その社会的責任の欠如は目に余るものがあり,不誠実な組織という印象を与え ています。これら一連の問題の本質は,まさに組織の“質”にあると見ていま す。 顧客から信頼を得てビジネスしている民間企業と,税金でまかなわれている組 織との基本的な意識の違いがあるとしても,今までの状況を見ていると都庁で は“顧客重視”の姿勢がまず見えず,意識改革として小池新都知事が声高に “都民ファースト”と叫び続けるのも無理ないことだと思います。 余談ですがトランプ次期大統領がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に関 し,ごく最近メッセージを出しましたが,その中に“アメリカファースト”と いう言葉を使っておりました。これは他と協調しない独自の行為を主張する過 去に米国で行われたモンロー主義に通じるものを感じますので,少し気になり ます。 さて,パナソニックは接待を受けることを禁じた社内規程に違反したとして, 90人を超える社員を一斉に懲戒処分したと報じられていました。 (2016/11/5) この報道を聞いた時,あえて社内問題を公表したパナソニックの企業風土の堅 実さと,その勇気に感心しました。 なぜなら,いかにコンプライアンス強化を目指しているとしても,通常この手 の話は,ひっそりと社内で処分されるものなのです。それをあえて社外に発表 したことは,その企業の健全性を維持しようとする強い意図があり,社内への 強力なメッセージでもあったのではないでしょうか。 両組織の行動を見比べると,社会的責任といえば都庁など非営利組織が最も強 く意識すべきものなのに,現実は真逆の現象が起きております。その皮肉さを 感じると同時に,“たるんだ組織”と“緊張感ある組織”との組織的“質”の 違いを,まざまざと見る思いがしました。 組織の“質”というQMSになじみ深い話題になりましたので,質と量との関係 について最後にご紹介したいと思います。 「量的と質的と統計と」(寺田寅彦,寺田寅彦随筆集 第三巻,1948)では, 質的と量的との関連が述べられています。寺田氏はその中で「質的に間違った 仮定の上に量的には正しい考研をいくら積み上げても科学の進歩には反古紙 (ほごがみ)しか貢献しないが,質的に新しいものの把握は量的に誤っていた としても科学の歩みに一大飛躍を与えるものである。ダイヤモンドを掘り出せ ば加工はあとから出来るが,ガラスはみがいても宝石にはならないのであ る。」と主張されています。 (注;反古紙とは「書画などを書き損じた不用の紙。」  転じて「役に立たない物事。」;広辞苑) 科学の発展は測定することから始まったと言われ,品質保証関係でも測定でき ないものは改善できないとも言われてきました。それゆえ,QMSでは測定,監 視,パフォーマンス評価,監査など測定を起点としたPDCAサイクルが基盤のひ とつとなっています。 しかし,現実は業務の形骸化問題やパフォーマンスが上がらないなどの指摘が あり,規格への不満とともに職場では“無駄な作業が増えた”とか,“だれも 使わない文書類の山が築かれた”とか,とどのつまり“監査準備が大変だ”と か言った本末転倒した意見までも出る始末です。 このような状況では,QMSは工数をかけても無駄ではないかという組織の “質”に起因した“建前と本音”が微妙に読み取れるがゆえに,そのような考 えが定着してしまうと寺田氏のいうように,誠に反古紙ほどのQMSとなりま す。 このように見て見ると,QMSを有効的にするかどうかは組織の“質”が大きく 関連するのだと思えてきました。 “質的”に間違った意図で発したQMSは,いかに文書類や証拠を“量的”に積 み重ねたとしても,反古紙程度の役にしかたたないものになる可能性があるこ とを肝に銘じなければならないでしょう。 また,人間は自分が理解できる範囲しか理解できないため思考に壁を作り,都 合が悪い情報を遮断してしまうことにより思考停止を導くとした「バカの壁」 (養老孟司,新潮社)などの主張も参考に,QMSの実態を見ていく必要がある でしょう。 さて,企業目的を達成するために“QMSファースト”とあえて叫ぶつもりはあ りませんが,トップマネジメントのQMSへのリーダーシップの発揮と支援,お よび現場のさまざまな“壁”があるかと思いますが,事務局の皆さんの見識と 適切な指導が,今後起こり得る社会情勢の変化に対応する組織の“質”を向上 させ,QMSをとおして実現していくことが必要だと思います。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●コラム 『人類の進化』 ─────────────────────────────────── 最近,ハーバード大学の図書館の壁の落書きのことを知りました。 「いま眠れば夢を見られるけれど,いま勉強すれば夢を叶えられる。」 授業中の居眠り防止標語とも言えますが,この言葉がとても印象に残りまし た。 そこで,囲碁を趣味としている身として,対局で勝利するには,上達のために はどうするかに関する,古今東西の格言を集めてみました。 勝負事なので,中国の兵法書やビジネス書もそのまま応用できます。 囲碁以外の経営戦略,マネジメント手法,スポーツの分野も調べました。 もちろんISO 9001も含めました。 古典ではISO 9001と全く同じ意図の格言がありました。 「彼を知り,己を知れば百戦して殆うからず」(兵法三十六計)は, ISO 9001箇条4「組織の状況」で内外の課題を明らかにすることと同じ意図 です。 また「禍を転じて福と為し,敗に因りて功をなす。」(戦国策) はISO 9001箇条10「改善」の概念そのものです。 このような同じ概念がある一方,古代の兵法書,「孫子の兵法」, 「兵法三十六計」と現代のISO 9001,バランススコアカードでは大きな相違 があることを発見しました。 中国古典は直接的に戦法,作戦,布陣,リーダの心構えを説いています。 ISO 9001やバランススコアカード,TL 9000は直接的な対策ではない点で中国 の兵法者とは全く次元が異なっています。 即ち,ISO 9001の箇条9「パフォーマンス評価」で評価を行い改善に役立てる という概念と手法は中国古典には全く見当たりません。 さらに評価の視点に絞っている点でバランススコアカードが特に先鋭化して いると思います。ここに,大袈裟ですが人類の進歩を感じます。 古典に学ぶのも価値がありますが現在のマネジメントツールの恩恵も十分に 活用したいと思います。 最後に筆者が独断で選んだ格言ベスト5を紹介して筆をおきます。 1. いま寝れば夢を見られるけれど,いま勉強すれば夢を叶えられる。 2. 分析,評価して改善を行う。(ISO 9001:2015) 3. 意志力は筋力と同じ。鍛えることができる。 (出典:習慣の力 チャールス・デュヒッグ著) 4. 屈しているからこそ,伸びることが出来る,弱いからこそ強くなれる。  (出典:老子・荘子 守屋洋著) 5. 毎日運動することで脳細胞が生まれる。  (出典:脳を鍛えてブッダになる52の方法 リック・ハリソン著)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記 ─────────────────────────────────── 11月は毎年恒例の品質月間でした。筆者の組織では毎年,品質講演会の開催や 品質月間テキストの購入・回覧,ポスター他の掲示等,社員の品質マインド醸 成のための啓蒙月間と位置付けております。皆さんの組織でも様々な取り組み を実施されているかと思います。 57回目となる今年度のテーマ「あなたが主役みんなでつなぐ感動と安心を!」 でした。 −人と人とをつなぐインターネットが普及し,モノとモノとをつなぐIoTが注目  される中,最も大切なことは人と人との“心と思いをつなぐ”こと。 −営業・開発・設計・購買・製造・施工・サービス等の各部門に加えて,財務  ・人事・総務をはじめとする本社部門,海外の現地法人の方々に消費者も加  えて一人ひとり“みんな”が主役となって,心と思いをつなげることで,感  動と安心を届けよう。 −昨年度のテーマ「みんなでつくる」から一歩進んで「みんなでつなぐ」へ。 というメッセージが込められています。 つなぐことはQMSが強みとするところでは,と改めて思い至った次第です。 営業部門,本社部門,海外の現地法人との間でサプライチェーンをどのように 効果的につなげようか,購入品の品質向上のために協力会社とのつなぎ方をど う見直そうか,更には社内各部門のノウハウを中堅・若手にどうつないでいこ うか,品質方針・目標の全員への展開・浸透等。 いずれに対しても,QMSの機能の中で実現していくことが可能です。 品質月間に際して,皆さんはどのような気付きが得られましたでしょうか。 最後までお読みいただき,ありがとうございました。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ──「QMSを経営に活かしたいあなたに贈る」── * 配信追加は下記にお知らせください。  mailto:qmsmelg@ciaj.or.jp * 発行:一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会     QMS委員会メルマガ編集部  http://www.ciaj.or.jp/top.html  http://www.ciaj.or.jp/qms/(QMS委員会ホームページ) * 発行責任者:QMS委員会メルマガ編集部事務局(菅野 清裕) * 皆様のご意見・ご要望をどしどしお寄せください!  qmsmelg@ciaj.or.jp ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Copyright(C)2004-2016 CIAJ QMS committee All rights reserved.