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   「QMSを経営に活かしたいあなたに贈る」 QMS委員会

    「2016年スタート,今年も役立つ企画と情報を提供し続けます!」


                      2016年 1月29日発行 第71号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ CIAJ ━
≪ 第71号 目次 ≫

 ・はじめに

 ・QKMアクティブラーニング第二弾のご報告
   吉川先生による「バランススコアカードの基礎から構築まで」

 ・QKMアクティブラーニング第三弾のご案内
   〜ISO 9001:2015対応のQMS見直しに向けて〜

 ・ISO 9001関連の最新動向

 ・TL 9000コーナー 「クエストフォーラム 最近の活動状況」

 ・知識活用型企業への道「QMSにおける知的資産運用への取り組み」

 ・コラム 「整理法」

 ・編集後記


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●はじめに
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早いもので1月もあとわずか,暖冬と言われたこの冬は突然の強烈な寒波が訪
れ,沖縄本島でも観測史上初めて雪が観測され,西日本から北日本には大雪を
もたらしました。

そんな中,長崎では雪で立ち往生した列車の乗客のために,駅長さんが町おこ
し活動のリーダーに窮状を伝えたところ,コンビニ店から一般の方々など,幅
広いチャネルを活かして食べ物や毛布の支給をされるという心温まるニュース
がありました。同時にとっさの行動がとれることは素晴らしいと感じました。

会員企業の多くは,JIS Q 9001:2015が昨年11月に発行されたことで,QMSの見
直しや2015年版への移行に向けた準備が本格化することと思います。

2015年版では,ここ数十年とは本質的に異なる環境からもたらされる課題に立
ち向かう能力を与えるものと位置づけ,急激な変化や市場のグローバル化等に
対応できるように,QMSに関する基本概念や原則の見直しが行われました。
是非,こういったところにも目を向けたいものです。

QMS委員会では,昨年新設したQKMアクティブラーニングをより会員の皆様の
QMSの進化と定着化に役立つ存在となるよう注力して参ります。
皆様の多数のご参加と忌憚のない意見を頂戴しご支援をよろしくお願いいたし
ます。

それでは,メルマガ71号をお楽しみください。


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●QKMアクティブラーニング第二弾のご報告
  吉川先生による「バランススコアカードの基礎から構築まで」
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前号で報告した山上講師によるQKMアクティブラーニング「ISO 9001:2015年版
の“入れ方”」に続き,12月21日,22日の 2日間で,第二弾として横浜国大大
学院名誉教授の吉川先生による「バランススコアカードの基礎から構築まで」
を開催しました。

2015年度からは,バランススコアカード(BSC)の基礎学習であるとともに,実
践的なビジネスリテラシー教育としての効果も大きいことから QKMアクティブ
ラーニングとして開催することになり,これを機に,結果に拘り,より受講者
が演習の成果を得ていくことを目的として吉川先生と指導方法の見直しを行い
ました。

今回も従来どおりの少人数の中で,グループ演習主体のカリキュラムを吉川先
生の直接指導が受けられる恵まれた環境の学びの場に,品質保証・品質管理部
門の方を中心に企画,設計,経理,監査部門と幅広い業種の方にお集まりいた
だきました。

開講に当たっては,学習のねらいを説明すると共に,学習成果を得ることに拘
っていただきたい旨を伝えて講義を開始しました。そういった背景もあったの
か演習では,綿密に戦略を立て実践した結果,ほぼ計画どおりの進行でBSCを
構築したチームもあるなど,それぞれに真剣に演習に取組む姿が見られました。

全体を通しては,演習はやや難しいとの評価が多かったものの,全体には満足
されたという結果で,演習では,BSCの要となる戦略マップ,戦略目標の策定
よりも,ケーススタディの対象組織の理解をして改善に向けてのビジョンと戦
略を策定する部分に苦労されたという結果が見られました。

これは,若年の受講者が多く,普段からマネジメントがらみの業務に接してい
ないことや,後者で用いるSWOT分析に馴染みのない業務の方が多いことなどが
要因と考えられますが,一方で,ISO 9001:2015 では組織の状況を考慮すると
いう新たな要求事項が加わり,組織の状況から対応を見極めていく手法として
用いる場合があるなど,ISO 9001に関わる方々にとっても受講のメリットが増
したものと考えます。

演習の最後は,恒例の吉川先生から提供されたお酒,ドリンクを飲みながらの
懇親会を行い,日本的経営から導かれたBSCを日本的な意見交換を持って終了
となりました。

次年度も継続して開催の予定です。ISO 9001:2015 とも密接な関係ができた今,
ビジネスリテラシーの向上も図れることから若手の育成のカリキュラムとして
導入されることを是非ご検討下さい。

今回の受講者のアンケートは,以下の会員専用サイトからご覧いただけます。
是非,ご一読くださるようお願いいたします。

 <会員専用サイト(ID,PWが必要です)>
 http://www.ciaj.or.jp/qms_m/pdf/151222.pdf


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●QKMアクティブラーニング第三弾のご案内
   〜ISO 9001:2015対応のQMS見直しに向けて〜
───────────────────────────────────

株式会社イノベイション 山上様をお招きして開催したQKMアクティブラーニ
ング第一弾「ISO 9001:2015年版の“入れ方”」は前号で報告のどおり盛況の
うちに終了いたしました。

山上様にとっても受講者の熱心な姿は,楽しく学びの深い場になったとのメッ
セージをいただきました。

それから 2か月が経過した今,メルマガの読者の皆様にとっては,何といって
もISO 9001:2015 に対して,「どのようにQMS を見直すか?」「この要求事項
はどのようにQMSに実装していけばよいか?」「今のQMSのパフォーマンスをあ
げるのにはどうしたらよいか?」等々,2015年版への移行に向けたさまざまな
取り組みをされているのではないでしょか?

そこで,前回に引続き,山上様をお招きして,来る3月18日にQKMアクティブラ
ーニングの第三弾を開催することにいたしました。

第三弾は,2部構成で実施いたします。前半はISO 9001:2015がらみの内容でワ
ークショップを行います。テーマについては,年末に山上様との意見交換を行
いましたが,皆さんにとってどのようなテーマが良いのかを再度検討すること
といたしました。詳細についてはもう少しお時間をいただくことにはなります
が,大いにご期待ください。

後半は,皆さんの QMSに関する取組みで壁にぶつかったり,どちらを選択すべ
きかなどの難題に対して,山上様にアドバイスをしていただくオール Q&Aタイ
ムといたします。QMS委員会としては異例の企画ではありますが,早期に会員
企業の皆様の 問題解決が図れるよう山上様から後押しがいただけるというま
たとない場であります。
なお,質問は移行に特定せず QMS全般についてお受けいたしますが,ハウツー
的な質問はご遠慮いただきますことを予め承知おきください。

こちらもご期待いただくとともに,懸案をお抱えの皆様には是非ともご参加を
お願いいたします。

詳細は, 2月上旬を目処に準備が整い次第,募集案内にてご案内の予定です。


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●ISO 9001関連の最新動向 
───────────────────────────────────

前号の発行前後からは香港での総会が行われましたが,国内委員会の招集が2月
の予定となっているため,新着情報はありません。

ISO 9000:2015関連では,関係者にとってはバイブル的存在のポケット版がいよ
いよ 2月に日本規格協会より発売となります。

原文と訳文の比較により規格のより深い理解が可能となるため,移行関連の活
動が加速されるものと思います。


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●TL 9000コーナー 「クエストフォーラム 最近の活動状況」
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情報通信分野のセクタ規格であるTL 9000を推進するクエストフォーラムは,
毎年世界各地で国際会議を開催し,各企業の最新品質活動状況の紹介や参加者
によるディスカッションなどにより業界の発展に寄与しています。

昨年は日本で2000年の横浜会議以来の東京会議が開催されましたが,本年もア
ジア地区では中国深セン市で会議が開催される予定です。引き続きTL 9000WG
ではクエストフォーラムと連携し会員企業の皆様に有用な情報を提供していき
ます。

クエストフォーラムによる最近の活動の中からを 2つ紹介します。

1.ICTイニシアティブ

さまざまな活動を行っていますが,ICT分野の研究については最新の技術動向
をキャッチアップし,規格に取りいれるべく活動を行っています。

以下に例を挙げます。

Cell Tower Quality and Reliability 
無線タワー等無線設備インストレーションの品質及び信頼性

Cost of Poor Quality 
品質及び経営パフォーマンスのリンケージ強化

Network Function Virtualization (NFV)
ネットワーク機能仮想化に対するTL 9000規格への影響の評価

Network and Service Reliability Measurement
品質及びパフォーマンス測定のための共通メトリックスの開発

Product Development
クエストフォーラムの提供物の開発

QuEST Forum Academy(QFA)
クエストフォーラムによる教育・訓練プログラムの開発

Small Business
中小規模ビジネスにおけるソリューション

Sustainability
持続可能性を統合した包括的なフレームワーク

Wireless Handsets 
無線ハンドセットの測定法標準化

<クエストフォーラムウェブサイト>
 http://www.questforum.org/ict-initiatives/


2.TL 9000規格改定

国際規格ISO 9001:2015の発行にともない,それを活用する種々セクタ規格も
改版の準備がなされています。

クエストフォーラムにおいてもすべてのISO 9001規格要求を包含するTL 9000
規格の改定を進めています。ICT業界並びに市場の動向を見据え,いくつかの
TL 9000特有の要求事項に対して変更が検討されており,TL 9000要求事項ハン
ドブックの改版(R6.0)は本年9月に発行される予定です。

<クエストフォーラムウェブサイト>
 http://www.questforum.org/wp-content/uploads/2015/09/TL-9000-R6-RHB-Status-20150923.pdf


これに伴いその日本語翻訳が計画されており,QMS委員会TL 9000WGもその翻訳
作業に参加することにより皆様への有用な情報発信の機会を得ることとしてい
ます。


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●知識活用型企業への道「QMSにおける知的資産運用への取り組み」
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年の瀬は部屋を大掃除し,新たな年を迎えたいと思っておりました。そこで,
海外でも高い評価を受けているコンマリさんこと近藤麻里恵さんの“ときめき
片づけ”方法で整理してみようかと思い立ちました。

コンマリさんは,片づけとは“価値軸”を定めて行うことだとし,“ときめき”
という言葉をキーワードに使っています。

そもそも“片づける”とは
「整理する,物事を解決する,始末する」(広辞苑)
などの意味を含んでおりますから,段取りとしてはまずは始末し,それから整
理するということになるのでしょう。

しかし,今ではときめかなくなってしまったモノでも,何らかの思い出があり
容易に割り切れず,結果的に今回もうまく部屋を片づけることができませんで
した。

さて,“整理”を英語では“organizing”といいます。
その名詞形“organization”を通常“組織”と訳しますが,“整理された体系”
という意図を含んでいるかと推定できます。

その観点からみると,企業内にある諸活動を“体系的に秩序化する”ことが
その本質にあると考えることができます。

組織を体系化するためには,コンマリさんのように何らかの価値軸をはじめに
明らかにすることからはじめなければ迷いが出てうまく整理できません。目的
がないまま単純に諸活動を寄せ集めても,体系的に秩序化することはむずかし
いのです。

それゆえ,トップマネジメントのリーダーシップのもとシステムの目的を定め
ることは,スローガンではなく“システムの価値軸を定める”ことなのだと理
解しなければなりません。

一方,企業内には価値が明確にならず,また容易に体系化できない事柄が少な
からずあります。

特に知識活用型企業では,文書化が難しい経験知,技能を含む専門知識,物事
を理解する能力(リテラシー)など,見えない資源(資産)であるインタンジ
ブルズが重要な働きをします。

これらのインタンジブルズは文書化をとおしある程度は体系化ができますが,
つまるところ,個々人に帰属するものなのです。

インタンジブルズは直接マネジメントシステムに組み入れることは難しいため,
例えば教育訓練プログラム,業務活動を通じた修得,情報とコミュニケーショ
ンなど間接的なかたちでシステムに組み込む工夫がいるものです。

実際は,知識活動のプロセスの中でもかなりの部分で手続きが必要となります
から,まずは見えるものに対し体系的な秩序を構築し,それを受け皿としてイ
ンタンジブルズを取り込むことにより実態に近い“企業のかたち”を整えるこ
とができるでしょう。

余談ですが,“かたち”を作りあげられない状態を,“かたなし”といいます。
またかたちがなくては,“かた破り”と言われる独創性は生まれてこないもの
です。

ここで注意したい点は,“かたち”は“型”により示されることが多いのです
が,“かたち”とは“型にはめる”という意味で使っているわけではありませ
ん。

さて,企業活動にかたちを与える方法として,品質,環境およびセキュリティ
など多様な切り口でマネジメントシステムのフレームワークがこれまで提唱さ
れてきました。

その中でも,製品・サービスの質に関するフレームワークである品質マネジメ
ントシステム(QMS)は企業の主要活動に関連するため特に重要です。

その代表的なものとして国際規格ISO 9001がありますが,これまでの課題を解
決するため最近改訂されました。国内では JIS Q 9001:2015として発行された
(2015/11)ことは,皆さんご存じのとおりです。

JIS Q 9001は,QMS を構築するために必要な要素を要求事項として示してくれ
ていますのでとても便利です。まずは,この規格に準じ企業活動のかたちを整
えることが,“かたなし”のマネジメントシステムとならないためにも必要だ
と思います。

また,すでに QMSがあるならば,今回の改訂を契機にもう一度 QMSの価値軸を
見直し,かたちを再度整えなおし,リフレッシュしてみてはいかがでしょうか。

さて,リフレッシュという意味で年の初めの“書きぞめ”という習慣がありま
す。新たな年への期待や決意を書にしたため精神的にリフレッシュするという
わけです。子供のころ冬休みの宿題で仕方なくやった記憶があります。

そこで私も,書きぞめの代用として久しぶりに筆を出して「般若心経」(はん
にゃしんぎょう)の写経を行ってみました。これまで 200回以上も写経をして
みたのですが,いまだに出来栄えがひどくがっかりしました。

ご案内のように般若心経は,世の中のすべてを見通せる観自在菩薩(かんじざ
いぼさつ)さんが無限の時間をかけ深く悟ったことを,釈迦の弟子である舎利
子(しゃりし)さんに説明するストーリーになっています。

その説明の中でも,「色即是空」(しきそくぜくう)というとフレーズが特に
有名ですから,皆さんもご存じかと思います。

しかし,その続きに「空即是色」(くうそくぜしき)という倒置したフレーズ
が続くことは御存じない方もいるかもしれません。この二つフレーズでひとつ
の概念を示しておりますから,片方だけの理解だと“片手落ち”となります。

そこに示されている意味は“色すなわち形あるものの本質(実相)は空であり,
また空は空ゆえにさまざまな形として現れる”と解説書を読みながら素人的に
は理解しています。

この境地は菩薩さまが無限の時間をかけ,ようやくのことで悟ったものなので
凡人である私たちがすぐにその境地になることは難しいかと思いますが,“私
たちが感じ見ている世界は,主観的なものであり固定されたものではないのだ
よ,考え方をすこし変えて見れば違う世界が見えるものだよ”とおっしゃって
いるような気がします。

さてここで注目すべき話題はお経の内容ではなく,お経の中に多く出現する倒
置した主張表現です。すなわち,“逆もまた真なり”とした思考方式は,結論
がない主張です。

この手法は,受け手の思考を無限ループに放り込み,容易に思考回路が閉じな
いような主張になっています。受け手が自問自答し,どこかで“かた”をつけ
ない限り思考の蟻地獄から脱出できないのです。

仏教ではこの無限ループを抜け出すために修行し,運よく無事に迷路を抜け出
すことを“解脱”とか“悟り”というのだと思います。

一方,般若心経ではこの無限ループを抜け出せない凡人のために,次の呪文を
唱えれば救われるのだと万能薬の呪文を最後に示しています。なにも分からな
くとも,とりあえず呪文を唱えればよいわけですからとても助かります。親切
ですね。

さてここで述べたかったことは,マネジメントシステムはお経ではないという
ことです。“品質第一”とか“顧客第一”など,呪文をいかに唱えてもご利益
はありませんから,目的を実現するため,具体的で現実的な行動を導かなけれ
ば意味がありません。

QMS の規格要求事項を満たせばパフォーマンスが上がる,信頼感が増すなど何
らかの成果(ご利益)があるものと盲信する方もいるかもしれませんが,それ
を実現するのは企業自身です。QMS の要求事項を神棚にあげ毎日拝んでも,何
らの御利益もないことは自明です。

古来,宗教・哲学と科学は同じでしたが次第に分離してきました。科学には,
“どのようなことが起きたらその主張は否定されるか”を問う反証可能性が常
にもとめられています。逆に言えば,反証可能性がない主張は宗教だとも言え
ます。

その意味においてQMS には自らシステムの妥当性を問う,検証,妥当性確認,
レビューなど反証する仕組みが組み込まれておりますから,科学的なアプロー
チであると言えます。

それゆえ,システムの中で主張される手順,基準などで示された事柄は,常に
否定されるという緊張感を本来は持つものです。使っていない文書類が山積み
になっているような緊張感が乏しいQMS がはたして効果的に機能するかは,
皆さん自身がご判断ください。

科学的なアプローチとして,話は若干それますが仏陀釈尊は,「過去の因を知
らんと欲すれば,現在の果を見よ。未来の果を知らんとすれば,現在の因を見
よ。」という言葉を残しています。宗教的な観点では,「縁起」または「因縁
生起」という考えになります。

一方,宗教ではないQMS でも,過去の原因となった事柄を正確に理解し現状を
改善する必要がありますし,将来の姿(ビジョン)に対し,それを真に実現し
たいと念じるならば,将来の結果を導く現在の原因を理解し予防的な対応をし
なければなりません。

そして過去と将来をつなぐために,“今何をすべきか”という現在できる行為
を考えることが重要となります。

“今何をすべきか”を考えるとき,仏教はこの世の中は「諸行無常」であり,
因果により生じるものは絶えず変化しているものだと教えています。余談です
が情けがない「無情」ではなく,一定のものがない「無常」ですから勘違いし
ないようにしたいものです。

ビジネス環境は刻々と変化し無常ですから,そのコンテクストを理解し“今何
をすべきか”を考え自らも変化していかなければなりません。

今を考えるとき,17世紀の哲学者スピノザは,“見えるものと見えないものは,
不可分である”と主張し,“悲観主義は感情であり,楽観主義は意思の力によ
る”と述べ,見えるものと見えないものとは不可分であり,感情と意思は違う
と教えてくれます。

また,アランはその幸福論の中で“幸せだから笑うのではない。笑うから幸せ
なのだ”とここでも感情と意思を識別し述べています。

この論法で言えば,「QMS を行うから活動が良くなるのではなく,良くしよう
とするからQMS を行うのだ。また,システムの中で規定されている見える事柄
と,そこに働く人々の心の中にある見えない事柄とは表裏一体の関係にあり,
意思をもってシステムとして今何すべきかを考えるべきである。」といった言
葉に置き換えられるかもしれません。

QMS が役に立たないなどの感情論に流されることは容易ですが,QMS の運用に
関わる私たちは,それを役立たせようという意思をもち,過去と将来をつなぐ
現在を考えていきたいものです。

さて,過去を知り将来を見つめ現在の成果をあげた事例として,昨今の国内ス
ポーツ界の活躍が頭に浮かびます。世界的な成果を生み出しているスケート,
体操,テニスだけでなく,何と言ってもラグビーのワールドカップにおける歴
史的勝利が印象に残ります。

この日本ラグビーチームの予想外の活躍は,試合後,さまざまなテレビ番組で
特集され分析されていますので皆さんもご覧になったかと思います。

その昔スポーツの世界では“私頑張ります”と言った根性論(感情論)が中心
的だと思うのですが,昨今はコンピューターによる画像処理と解析技術が充実
したので,客観的なデータをもとに科学的アプローチが行われています。

しかし,今回のラグビーで特に驚かされたのは,自分が今何をなすべきかを信
念をもって語っていることです。これには感服します。

なぜその様なことができるのかを理解したく注目したのが“ジャパンウェー”
という言葉であり,その中で語られる“チームワーク”と“忠誠心”です。

これらの言葉は美しいのですが,ともするとスローガン的であり,また盲目的
な服従を要求する,いわゆる臭い言葉ですから当初は好ましい印象を持ってい
ませんでした。しかし,話を聞いているうちに選手たちがこの言葉に対し描い
ているピクチャーが,だいぶ違うことに気付かされました。

ご存じのようにラグビーは個人的なプレーに加えチームプレーが勝利の重要な
要素となっていますから,個々のプレーを鍛えるだけでなく,チームとしての
連携動作を整えていくことが求められます。

個人プレーはあくまでもチームプレーの要素であることを意識し練習を重ね,
試合中は個のプレーに集中するだけでなくプレー全体の状況を瞬時に把握し,
他のプレーヤーと連携し“今何をすべきか”をお互いに判断しているように見
えます。

この“主体性ある協調関係”とも言える哲学と行動はチーム全体に共有されて
いるようです。

一般的な傾向として主体性を求めると協調性は薄れ,逆に協調性を求めると受
動的になりがちですが,その主体性と協調性のバランスがとてもよいのです。
とてもクレバーです。

最近では隣の席にいる人でもメールでやりとりすると聞くと,企業の中で“チ
ームプレー”という言葉を聞く機会は少なくなってきているのではないでしょ
うか。

手続き型業務では,今何をすべきか手順を見れば分かりますから,流れ作業的
なチームワークは自然に形成されるでしょう。

一方,知識活動を求められる業務では,手続き化が難しいためチームワークを
整えるには何らかの主体的な協調性が求められます。

そこで,もうひとつの気になった言葉である“忠誠心”ですが,この言葉は使
い方によってはとても嫌な言葉です。ともすると,不条理な服従や盲目的な追
従を思い浮かべてしまいます。

しかし,選手たちの話を聞いているとジャパンウェーというスローガンに含ま
れる忠誠心とは,全く別物であることに気がつかされます。

まず,“スポーツ界の歴史を変える”という大きなビジョンがあり,それを自
覚した選手たちは,個人としては不条理なことであっても全体として必要なこ
とであれば,それを主体的に受け入れようとする覚悟を“忠誠心”という言葉
で示していることに気付きます。

それぞれの選手たちが語る言葉は違っていても,その根底には同じビジョンが
流れており,その覚悟が“忠誠心”という言葉に置き換えられていることに気
付かされました。

このような言葉を真面目に語ることができる選手たちは,恵まれた肉体と運動
神経そして何よりも強靭な精神力と意思を持った人々であり,一般人には容易
に獲得できるものではありませんから,何かしら仕組みで補完しなければなら
ないでしょう。

補完する仕組みのひとつとしてシステムが必要になるのです。

ビジョンを共有するためには全体目的を定め,個々の目標に展開するのですが,
全体の目的に対しこの目標がどのような貢献をしているかが分からなければ,
主体的で協調性あるチームワークを引き出すのは困難です。それゆえ,部分と
全体との関係性を理解する必要があります。

各要素が全体にどの程度影響及ぼすかを知る手法としては,例えば統計的手法
として回帰分析があります。しかし,この手法はそれぞれの説明変数(要素)
が他の説明変数から影響を受けないことが前提ですから,相互に作用する説明
変数を含む場合は適切でなく誤った結論を導く可能性があります。

実際のところ,インプットとアウトプットによるプロセス連鎖では,他の活動
から影響を受けない説明変数を見つけ出すことはできないでしょう。

仮に他のプロセスから何も影響を受けない活動があるとすれば,その活動はシ
ステムとしては無意味な活動だとも言えます。

他の説明変数から影響を受ける場合,統計的手法では相関分析など他の解析手
法がありますが,マネジメントシステムの中では,目的展開手法で,各組織の
目標に展開し依存性を吟味することになるでしょう。

そして,クリティカルパスを見つけ出すことが現実的でしょう。クリティカル
パスは,組織の内外状況の変化,目的の変更などにより変わりますからトップ
マネジメントとしては常に注目しておきたい事柄です。

クリティカルシンキングの手法では,目的展開には二つの視点があると言われ
ています。ひとつ目は“行為による目的展開”であり,もうひとつは“本質に
よる目的展開”です。

前者は目的を達成するためにどのような行為をするかを展開するもので,ごく
一般的に行われるものです。例えば,“利益率を 3%改善する”という目的に
対し,“市場不良率を 0.1%にする”とか“原価率を 1%引き下げる”など具
体的に行為目的を明らかにする方法です。

一方,後者は目的を達成するために本質的にどうすべきかを展開する方法です。
例えば,先の例を使えば“市場不良率を 0.1%にするために,設計部門と営業
部門および品質部門が連携して,チェックシートの内容の妥当性を見直す”な
ど,行為目的の裏付けとなる本質を問う方法です。

すでに,お気づきの方もおられるでしょうが,前述したラグビー日本代表のお
話は,この両者を組み合わせ語られていることです。個々の技能を磨くことは
行為目的の展開で,チームワークとか忠誠心という言葉は本質の展開だと見る
ことができます。マネジメントシステムを考えるときも,行為とその本質の展
開が必要だと個人的には考える次第です。

また,目的展開の最終的な意味合いは,もしこの目的が実現しとしたら,どの
様な世界が見えてくるのかを共有することです。ラグビーではこれを“スポー
ツ界の歴史を変える”という言葉で示されていました。

さて,話がとめどなくなってきましたので,このあたりでお話を閉じたいと思
います。

このメルマガを書き出した時点では大掃除の話をキッカケに QMSの掃除の話を
したかったのですが,結局は取りとめにない話になってしまいました。
参考になる部分が少しでもあれば幸いです。

整理がまだついていない部屋でこの原稿を書いている私は,結局は心が整って
いないのだと自戒しつつ筆をおきます。


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●コラム 「整理法」
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机の上が散らかり,資料の山,一体何がどこにあるのやら,作業している時間
より探している時間の方が多いというのが筆者の実態で,経験のある方も多い
と思います。

不要なものは捨てるべきですが,なかなか決断ができません。後で使うかも知
れないからです。資料に限らず,物でも同じです。そこで,判断基準として
「ときめきを感じれば残す,感じなければ捨てる」
という大胆な手法があります。前項冒頭でも紹介されている手法です。(1)

とはいっても,捨ててしまうのは何と言っても心配という向きには,捨てない
技術をマスターすることもできます。
「捨てないモノの数が増えてくると何かが見えてくる」
という,興味深い方法論もあります。(2)

捨てる,捨てないのどちらでも,書類の場合,無くて見つからない,あり過ぎ
て見つからないことが多々あります。これを解決するためにすべての書類を分
野別に並べるのではなく時系列に置いて行く手法があります。保有する文書を
時系列に並べ,ファイルの中味の整理は後で行うというアイデアです。(3)

整理する時,範囲を定め,継続的に改善してゆく手法は,品質マネジメントも
同じで,ISO 9001は,究極の整理法と言えるかもしれません。整理法も,品質
マネジメントも着実に継続することが最大の難関なので,じっくりと丁寧に取
り組みたいと思います。

参考図書
 (1) 人生がときめく片づけの魔法 近藤 麻理恵 著
 (2) 痛快「捨てない技術」    町田  忍  著
 (3) 超整理法          野口 悠紀雄 著


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●編集後記
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『一月は「いく」,二月は「にげる」,三月は「さる」』と言いますが,日々
やることが多く,思うように進まないことの裏返しとして使われることがあり
ます。第4四半期のこの時期は皆さんもそう感じられるかと思います。

そんな中,年明け早々に飛び込んできた,理化学研究所による113番目の元素
発見が国際機関から認定されたというニュースはアジア初となる快挙として大
きく報道されました。

元素を重さの順に並べた周期表の 113番目の元素を発見したとのことで,自然
界に存在するのは原子番号92のウランまで,それ以降は素粒子実験などに使う
加速器などによって人工的に作られるそうです。

2003年から合成実験を開始し,9年で3個の合成に成功。400兆回の衝突の末の
成果だそうです。まさに「やることが多く,思うように進まない」にくじけず,
「待っていれば,絶対に来る」と実験を続けた研究者の信念が実を結んだと,
頭の下がる思いです。

実は,ロシアと米国のチームも別の方法で作製したと主張していたのですが実
験精度などの理由により,理研のチームが最終的に認定されたとのこと。
検証の大切さを改めて感じました。

ここ数年は,ノーベル賞受賞など日本の科学技術が世界で評価されていること
が多く,科学技術者,エンジニアを目指す子供たちにとって,明るい未来への
良い刺激になっていると思いました。

では,今年も,QMS委員会のメルマガを,よろしくお願いいたします。

最後までお読みいただき,ありがとうございました。


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──「QMSを経営に活かしたいあなたに贈る」──

* 配信追加は下記にお知らせください。
 mailto:qmsmelg@ciaj.or.jp
* 発行:一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会
    QMS委員会メルマガ編集部
 http://www.ciaj.or.jp/top.html
 http://www.ciaj.or.jp/qms/(QMS委員会ホームページ)
* 発行責任者:QMS委員会メルマガ編集部事務局(菅野 清裕)
* 皆様のご意見・ご要望をどしどしお寄せください!
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