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━ CIAJ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 「QMSを経営に活かしたいあなたに贈る」 QMS委員会

 「総会特別講演では,持続的成長を可能にする不確実性(リスクと機会)に
  迫ります」


                     2015年 5月29日発行 第67号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ CIAJ ━
≪ 第67号 目次 ≫

 ・はじめに
 ・2014年度QMS委員会 総会/特別講演会/懇親会 開催のご案内
 ・ISO 9001関連の最新動向
 ・TL 9000コーナー「APAC BPC Tokyo(国際会議) 開催」
 ・QKM e-ラーニング 新環境への移行について
 ・知識活用型企業への道「QMSにおける知的資産運用への取り組み」
 ・編集後記

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●はじめに
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QMS委員会会員の皆様,こんにちは。

5月と言えば,「新緑の季節」「爽やかな季節」という印象がありますが,とり
わけ今年のゴールデンウィークは,全国的に天候に恵まれたため,過去100年
のうちでも出色の天気の良さであったようで,その後も良い天気に恵まれて,
5月としての気象に関する記録も塗り替えられるようです。

そんな中,10日を超えるようなゴールデンウィーク休みに恵まれた会社さんも
あったようで,近場,遠出とお出かけになり,リフレッシュをされた方も多か
ったのではないでしょうか。

リフレッシュと言えば,QMS委員会は6月の総会を境に新しい1年が始まります。
2014年度中にいろいろな試行や検討を重ねてきましたが,これらの結果を踏ま
えて新たな活動計画をお示しいたします。
会員の皆様には,ご期待いただくとともに総会にご出席いただきたいと思って
います。

加えて,総会特別講演会では,リスク思考の視点から,人間の本質を考察し,
「個のやる気を引き出す」マネジメントについてお話しをいただく予定です。
こちらは会員企業以外の方のご参加も可能です。

6月19日は,浜松町へ足をお運び戴き,新しいQMS委員会の活動,ビックな講演
会,会員相互のコミュニケーションで充実した一日を過ごされませんか。
(総会特別講演会,懇親会には事前の登録が必要です)

それでは,メルマガ67号をお届けいたします。


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●2014年度QMS委員会 総会/特別講演会/懇親会 開催のご案内
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既にご案内しておりますが,2014年度QMS委員会総会/特別講演会/懇親会
を開催いたします。

当日は,『持続的成長を可能にする不確実性(リスクと機会)のマネジメント』
と題して,スリーエムジャパン株式会社 大久保様による特別講演を行います。
ISO 9001の次期改正では「リスクと機会」という考え方が導入されますが,こ
れをさまざまな視点から考察し,どのようなアプローチが可能なのか一緒に考
えるタイムリーな機会になると確信しております。是非,多数の方のご参加を
お待ちしております。

また,ささやかではございますが,講演終了後には,講師ならびに会員相互の
コミュニケーションの場を設けております。
何かとご多用のこととは存じますが,万障お繰り合わせの上,ご出席賜ります
ようお願い申し上げます。

1. 開催年月日:2015年 6月19日(金)

2. 開催場所:情報通信ネットワーク産業協会 会議室B〜E
       東京都港区浜松町2丁目2番12号 JEI浜松町ビル3階
       http://www.ciaj.or.jp/jp/ciaj/annai/

3. 総 会:13:30〜14:30
  QMS委員会事業報告他 (会員企業のみ参加可)

4. 特別講演:15:00〜17:00 (Q&Aを含む)
 [テーマ]
    『持続的成長を可能にする不確実性(リスクと機会)のマネジメント』

 [講 師]: 大久保 孝俊 様
     スリーエムジャパン株式会社 チーフ・プロセス・オフィサ(CPO)
     コーポレート・プロセス・イノベーション及び品質保証本部担当

5. 懇親会:17:15〜
  講師にもご参加戴き,直接お話ができる絶好の機会ですので,奮ってご参
  加ください。

申込み期限は6/10(水)となっております。参加希望の方は,急ぎ,QMS委員
会委員を通じて申込みをお願いいたします。


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●ISO 9001関連の最新動向 
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前号では,2月に開催されたリトアニアのヴィリニュス会議の詳細情報がお伝
できませんでした。改めまして,ISO 9000/ISO 9001の改正に関連する主な情
報を報告いたします。

1. ISO/DIS 9001:2014の妥当性確認結果の報告

 1) 今回の調査では,403の回答者から3,639件のコメントが寄せられました。
   コメントのうち,981件が監査に関するもの,728件が一般的質問
   (general question)に関するものでありました。

 2) 懸念が表明されているのは,4.1, 4.2, 6.1と7.1.6 Organizational 
   knowledgeであります。
   これらはQMS委員会からコメントされた項番とも一致します。

 3) SC2議長からは,auditabilityについて考慮してほしいとの要請がされま
   した。

 4) 附属書SLによる問題か,QMS固有のテキストによる問題かが層別されてい
   ないので,直接的なアクションが取れないのではという指摘がされまし
   た。問題がありそうな箇所は特定できるので,それをどのように克服す
   るかはWG24で検討します。

2. ISO 9001に関する議論について

 WG24の投票の結果,ISO 9001の箇条3で用語を定義しないことになりました。
 その他用語の整合化としてさまざまな議論が行われ,主なものを以下に示し
 ます。

 1) 用語の開発はSC1で行う。用語関連の検討として,SC1のリーダーより
   ISO 9000の開発について以下の3点の紹介がありました。
  ・他の企画における用語の整合性,特にTC207との整合性は特に計画して
   いません。
  ・ISO 9001とISO 9000の詳細な発行日は今後議論します。
  ・result, output and outcomeの3種類は多い。今までの成果を踏まえ,
   result, outputで進める。なお,result, outputで進めるとして,どの
   ような違いがあるかを正確に説明してほしいという要請がされました。

  【補足】SC1/WG1/TG1の議論として,outputとoutcomeの用語の整合化は
   以下のように整理されました。
   outputとoutcomeは,基本的の上位概念のresultに置き換えた。但し,
   2.3.4.4の最後のビュレットのoutputについてはprocessとの繋がりが
   明確であるため,outputのままとしました。
   なお,英語を母国語とする人々の理解は次の通り。
   ・resultが最上位概念。この中にoutputとoutcomeがある。
   ・outputは,direct consequenceでexpectedされたもの。
   ・outcomeは,indirect consequenceで,expectedされていなかったも
    のを含む。(そのため,良い結果と悪い結果のどちらも含む。)

 2) opportunities and risksの順序の入替はせず,DISの通り,risks and
   opportunitiesとすることにしました。順序の入替を提案したのはUKで
   あり,EMSなどの場合とは異なり,QMSの場合にもriskよりも
   opportunityを考える機会が多いというものです。これに対し,附属書
   SLを変更するまでの正当な理由にはならない。品質保証を考えるのは
   riskへの考慮が重要であるという理由から,80%以上が順序の入替に反
   対しました。

 3) riskの定義について,SC1から意見照会がされました。DIS後のドラフト
   のように,ISO 31000に併せて"effect of uncertainty on objectives"
   にする案と,附属書SLの"effect of uncertainty"にする案が出されま
   した。議論の末,若干附属書SLの案の支持が多く,これをWG24の意見と
   してSC1に報告します。

 4) 7.1.6 Organizational knowledgeについて,分りにくい等のコメントが
   多数寄せられていることから,数名のグループで議論をしましたが,
   knowledgeの定義がしっかりしていないので議論が収束しません。
   重要なことは,organizational knowledgeを定義することであります。
   辞書の意味でknowledgeを用い,SC1にorganizational knowledgeの定義
   の開発を依頼しました。しかしながら,SC1では対応の必要が認められな
   いという回答でありました。最終的に分りにくさへの対応として,注記
   及びAnnex Aの充実化が図られました。

 5) Quality performanceは,ゴールウェイ会議での合意どおり,
   performance 又は performance and effectiveness of QMSを用いること
   としました。日本としては附属書SLからの逸脱回避,Performance of 
   QMSでは,製品,プロセスのperformanceへの意識が弱くなるとの意見を
   述べましたが,Performance of QMSにそれらは含まれており,この表現
   で理解できるとの説明があり,受け入れられませんでした。

 6) Process approach,PDCA cycle,Risk-based thinking,の三者の位置付
   けが,SC2議長のナイジェル・クロフトから序文の検討にあたり整理され
   ました。この規格の最も重要なコンセプトは,Process approachを促進
   するものです。この考えは,序文の0.1に記述されることとなりました。
   このことからapproachはProcess approachにのみ使用し,一部Risk-
   based approachと記述されているところはRisk-based thinkingに替えら
   れました。

 7) Documented informationは次のように使い分けることが再度確認され,
   規格内で使い分けが徹底されました。
  ・Maintain documented information:文書(記録を除く)
  ・Retain documented information:記録

 8) person/personal/peopleと同類の用語が使用されていることについて,
   原則として,personを用いることにしました。

3. ISO 9000に関する議論について

  SC1/WG1/TG1(Fundamentals)よりISO 9000関連で以下の報告がありました。

 1) ISO 9000では,2.1(General)及び2.2(Fundamental Concepts)については,
   流れは変えない程度に,所々大きな文章の見直しが行われました。

 2) 2.3(QMP)については,基本的には手を付けない方針が踏襲され,用語の
   使用の一貫性のための変更など,編集上の変更に留めました。

 3) 2.4(QMS)については,systemにThe outputs from one process can be 
   the inputs into other processes and are interlinked into the 
   overall network.を追加しました。プロセスアプローチに関する支援文
   書の文章をベースにしました。

以上の通り,DISからFDISに向けて,主なものだけでも多数の変更の議論がさ
れています。FDISが発行される時点では,この記事に記載した用語の整合化と
して変更される部分についても,是非,ご確認されることをお勧めいたします。

なお,日本規格協会主催でFDISの説明会(有料)が開催されるとのことです。


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●TL 9000コーナー「APAC BPC Tokyo(国際会議) 開催」4月14日〜16日
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15年ぶりにクエストフォーラムのベストプラクティス会議が日本(東京)で開催
されました。10か国,約200名の情報通信業界の関係者が東京に集まり,
「Active ICT
   :Open the Future with Virtualization, Sustainability and Quality」
をテーマにベストプラクティスの紹介がありました。

QMS委員会(TL 9000WG)からは,「TL 9000 WG Activities」として,
 ・WG設立の背景
 ・設立から現在までの10年以上にわたる要求事項,測定法ハンドブックの
  翻訳活動
 ・TL9000セミナーの開催
等,日本国内におけるTL 9000の普及活動などについて報告し,QMS委員会
TL 9000WGの10年以上にわたる日本国内のTL 9000普及活動に対して,クエスト
フォーラムのチェアであるFraser Pajak氏より功績を称えていただきました。

APACベストプラクティス会議
 開催日:2015年4月14日(火)〜4月16日(木)
 会場 :東京ウェスティンホテル(渋谷区恵比寿)
 日程 :4/14 基調講演,招待講演,BP発表,ネットワーキングディナー
     4/15 招待講演,BP発表
     4/16AM ワークショップ

なお,会議の詳細につきましては,別途報告させて頂きます。


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●QKM e-ラーニング 新環境への移行について
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5月15日に配信したメールでご通知しましたとおり,QKM e-ラーニングは新環
境への移行を完了し,現在サービス提供中です。

新環境では,画面デザインを刷新,より分かりやすい画面と操作性の向上,さ
らにセキュリティ強化を図っています。

主な変更点は次のとおりです。

1.iPadに完全に対応
 iPadの画面に最適化し,モバイル環境でもストレスのない学習を支援します。

2.画面イメージを刷新
 タッチパネルでも操作しやすいボタンなどリニューアルした画面デザインと
 しました。また,研修の進捗,受講履歴もいっそう見やすくなっています。

3.セキュリティ強化
 アカウントロック機能,パスワードポリシー強化を図りセキュリティレベル
 を上げています。

これまで通り以下のコンテンツを提供いたします。

1. ISO 9001:2008規格解釈コース(1プログラム) 受講期間60日

2. QMS基礎講座(4プログラム)  受講期間:各プログラム30日
  1) 品質管理概論
  2) 統計的方法
  3) 検査業務の進め方
  4) 管理図(見方と使い方)

従来どおりQMS委員会会員企業は無料です。

各コースの概要,受講申し込み要領,受講申込書は以下のホームページに掲載
しております。

 
 http://www.ciaj.or.jp/qms/7.html

さらに使いやすくなったQKM e-ラーニング。社員教育の一貫として,是非ご活
用戴きますようお願いいたします。


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●知識活用型企業への道「QMSにおける知的資産運用への取り組み」
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ISO 9001:2015の発行が迫っており何かと関心がそちらの方に向いてしまいま
す。特に今回の改定ではこれまでの“客観的事実に基づく意思決定”に加え,
“リスクに基づく考え方”(Risk-based thinking)が加わったことで,これ
まで以上に“不確かさ”への対応を意識することになります。

これまでのISO 9001に則し構築されたQMSでは,“客観的事実に基づく意思決
定”の原則から,過去に起きた事実をもとに生産性や安定性を改善・向上させ
てきましたが,リスクに対応するとなると客観的な事実と違い経験や見通しな
ど主観的要素が少なからず含まれることになります。それゆえ,何らかの混乱
が生じるかもしれません。

さて,QMSによりパフォーマンスを向上させるには,企業を取り巻く外部・内
部状況の変化,すなわちその企業が依存する文脈であるコンテクストとQMSを
うまく整合させることが求められているわけです。

コンテクストの変化によるリスク要素は,たとえば経営戦略,中・長期の事業
計画などで思考され展開されるのが一般的ですが,QMSも変化に対応すること
がこれまで以上に必要になるかもしれません。

一方,現実的な見方をすれば事実に基づいた事柄でさえ対応できないQMSにお
いて,想定されたリスクに対しどの程度の対応ができるのか疑わしい部分もあ
ります。

ISO 9001の改訂ドラフトによれば,リスクへの対応はこれまでの要求事項に展
開されており,特に新しいことを求めているわけではないということが述べら
れていますが,これまでQMSがリスクに対しうまく機能したのか疑問です。そ
れゆえ,“客観的事実に基づく意思決定”と“リスクに基づく考え方”との調
和について考えてみる必要がありそうです。

これまでQMSは過去の出来事を起点に,現在の状況を振り返りシステムとして
近未来に備える学習サイクルとしてのPDCAが中心です。もちろんこれまでも
PDCAサイクルのP(計画)の段階で想定されるリスクは吟味され計画が練られ
るわけですが,これは製品に直結した話題でありQMS全体のリスクを懸念して
いるわけではありません。

QMS全体に関するリスクはこれまでもマネジメントレビューで行われています。
しかし,QMSのマネジメントレビューでも過去から現在までの時間軸で起きた
出来事から懸念されるリスクに対処するのが主であり,戦略的に想定されるリ
スクに対応するアプローチは少ないかと思います。

これまでは20世紀初頭から始まる工業化社会の発展の中,科学的管理法やTQM
など分業とシステム化が有効に機能し広く普及してきました。しかし,知識を
中心とした脱工業化社会になるに従い,手続きを中心としたアプローチだけで
はうまく機能しない部分が目立つようになったと思います。

このような状況は,経済産業省の通商白書2004 『〜「新たな価値創造経済」
へ向けて〜』の中で,企業の将来を読み解くとき過去の業績や企業が所有する
有形資産だけでは十分に説明できなくなってきており,企業内にある知識とそ
の活用など見えない資産の(インタンジブルズ)活用が重視されているように
なったという内容からも推測することができます。

特に知識活用型企業では,文書類など形式知化できる範囲はごく限定的です。
研究・開発など高度な知識が求められる分野では,人々が持つ経験・技能・知
識,さらに創発性や主体性など直接的に見ることができないインタンジブルズ
が重要であり,蓄積されてきた特許など知的財産やノウハウまたは形式知化さ
れた知識,およびさまざまな情報と,専門知識を持つ人々のインタンジブルズ
がうまく融合することが,新たな価値を創出するためにこれまで以上に必要に
なったのではないでしょうか。

見方を変えれば,過去の出来事である客観的なものだけで行われるアプローチ
には限界があり,インタンジブルズなど主観的要素とQMS内の事実と組み合わ
せることにより,将来起こるかもしれない不確実性や不安定性にタイムリーに
対応できるようになるのではないでしょうか。

さて実際のところ,企業活動でリスクを意識せずに行動することは,まずない
でしょう。ビジネスは本質的に不確実で不安定なものですから,予測される不
確実性と不安定性を可能な限り事前に小さくすることがQMSの第一義の目的だ
と思います。

この点,国内企業の品質管理は過去から徹底的に行われてきたので,ISO 9001
に適合しているかどうかに関わらず品質の安定性への仕組みはできていると見
えます。

仮に,品質が悪い企業はISOの認証取得とは関係なく競争原理により自然淘汰
され事業継続が困難になるので,そちらのバイアスが企業に強力な影響を与え
ます。

それゆえ,品質が安定していることはごく当然であり,それに加え特徴的で,
安全な製品が市場から求められる時代では,技術的開発とともに,安全性,環
境対応さらには社会的責任が同時に求められるようになってきました。

そのため,QMSも品質だけでなく多様な側面から製品を評価することが求めら
れ時代になり,さまざまな要素を統合した包括的なシステムとしてQMSを運用
することが,リスクを軽減するために必要になってきたと思います。

このようなお話をこれまでのメルマガでお話をしましたが,これをふまえリス
ク特性についてもう少し考えて見る必要がありそうです。そのためには,まず
“原因は結果に先行するか”という一見して馬鹿げた問いから話を始めたいと
思います。

原因があるから結果が出るのは道理ですから,想定したリスク原因に対し何ら
かの対応を事前にすればリスクは軽減されると考えられています。

しかし,現実は完全因果の世界である数学や物理学と違い人間系が組み込まれ
たシステムなので,ちょっとしたことで大きく結果が変わる不完全因果の世界
になっています。それゆえ,原因となるものがより曖昧になるという発想です。

なぜこのような話題をあげるかというと,QMSの意図した結果を達成すること
を確実にするには,リスクを特定し一覧表を作成し評価し処置を決定しQMSに
統合し取り組まなければならないという主旨があるので(ISO/DIS 9001:2014
箇条6.1),これを実現できるのかフィージビリティ・スタディをしてみたか
ったからです。

まず,

1) リスクの重要性は刻々と変わる可能性がある。当初,想定していたコンテ
 クストが変化すれば,対応すべきリスクの内容も重要性も変化する。また対
 応しやすいリスクに目が向きやすい傾向があるのではないか。

2) リスクが起こす潜在的影響の評価は,現在価値で行うのか将来価値で行う
 のか。たとえば,コストカットは現在価値行われるが,教育・訓練は将来価
 値で行うものである。現在価値なのか将来価値なのか認識して評価しなけれ
 ば,リスク評価を間違えるかもしれない。概ね,将来価値よりも現在価値の
 ほうが重視されるであろう。

3) リスク認識の網羅性への疑問。顕在化しているリスクは評価されるが,顕
 在化できないリスクは,評価されることがない。

などなど,さまざまな考慮すべき点がすぐに浮かびます。

そこで,リスクと機会と聞くとSWOT分析手法が思い浮かぶので,これで少し整
理してみます。

ご存じのようにSWOT分析は,自社の強み(Strength)と弱み(Weakness),
外部環境にある機会(Opportunity)と脅威(Threat)の四つの要素で分析し
戦略を考える手法です。

まず,自社の“強み”と“弱み”とは,その企業が何らかの根拠により信じて
いる価値主張です。それゆえ本当に強みなのか弱みなのかは分かりません。

一方,外部環境にある“機会”と“脅威”とは,視点を企業外部に置き客観的
に自社の立場を見ようとするものです。競合他社,代替品の脅威など多様な要
素で評価することになりますが,現実に認識できる外部環境に限界があります。

しかし,さまざまな限界があるもののこのような方法で評価をしてみると自社
の特徴や状況がより具体的に見えてきますので,リスクを認識するには役立つ
手法ではないでしょうか。

一方でSWOT分析は,どこかの枠に無理やり位置付けする手法なので,強みなの
か弱みなのか,また機会なのか脅威なのかうまく判断できないものを無理やり
どちらかに識別してしまう危険性があります。たとえば,後から見ればせっか
くのビジネス機会だったのに,実績がないから脅威に位置付けた場合,チャレ
ンジする機会を逃してしまうことが考えられます。

明らかに強み,弱み,機会,脅威と識別できるものは,その判断に迷いはあり
ませんが,どちらとも判断できないものが困るわけです。この判断に迷う部分
にビジネスチャンスがあり,また思わぬ落とし穴もあるものです。

だいたいビジネスの世界では,49対51の世界をどのように判断するかがマネジ
メントの皆さんに求められる重要なインタンジブルズなので,リスク一覧表の
評価だけでなくこの部分をも大事にしていきたいものです。経験知がない人が,
リスクがないと判断してもベテランから見ればリスクがあると判断するかもし
れませんし,リスクが大きいと判断しても,挑戦してみたいこともあるわけで
す。

さて話がだいぶ脱線してしまいましたが,最初の疑問“原因は結果に先行する
か”に話を戻します。

原因が先にあり,結果はその後にあるという考え方に異存があるわけではあり
ませんが,評価時点で本当の原因を特定できるのかという趣旨の問題です。

経験的に見れば,評価時点では全く原因とは思えないものが,結果が出てレビ
ューしてみると原因の一つ,または主原因になることがあるということをお伝
えしたかったからです。すなわち,どのように評価しても本当の原因になる事
柄を事前に特定できない場合があることを念頭に置いていただきたいからです。

このようなことは,業務だけでなく皆さんも人生の中でもいくつか体験してい
るのではないでしょうか。あの時,あの人と偶然出会ってその結果こうなった,
たまたまあの場にいたのでこうなった,何の気なしに書店で見かけた本を読ん
だことにより人生が変わったなどなど,まるでテレビ番組みたいな話を経験さ
れたことがあるのではないでしょうか。

私個人としては,人生のターニングポイントになるようなことがいくつかあり
ました。このよう場合,その時は気にも留めず忘れてしまったことが,何らか
の結果または結論が出て振り返ると,それが本当の原因であったと知るわけで
す。

このように見ると,原因が先か,結果が先か次第に分からなくなります。その
出来事の発生は当然結果に先行するのですが,原因と位置付けされるのは実は
結果が出てからということになります。

ここで述べたかった要点は,仮にある時点でリスクと原因らしきものを特定し
たとしても,その後の状況変化や対応する姿勢および努力の仕方により原因が
変わってしまうことを述べたかったからです。対応次第でリスクが機会に転じ,
その逆に機会がリスクになることを常に心に留めておくことが必要だと言いた
かったからです。将来は固定されているものではないので安易にリスク一覧表
を作って安心してはいられないということです。

もうひとつ気になるのが,“ひとつの結果はひとつの原因で起きる”とする暗
黙の想定をしてはいけないと言うことです。

大きな問題になる場合,いくつかの要素があるタイミングで起き小さな問題が
想定を超えて深刻化することです。このような現象はシステム内では良く起き
ることです。ひとつの単純ミスがプロセス連鎖の中,増幅され深刻化されてし
まう現象です。

仮に個々のプロセスが正常に機能していたとしても,システムはプロセスの単
なる集合体とは違い相互に影響しあうため,ポジティブに作用すれば効果的に
作用しますが,逆にネガティブに作用すると連鎖的にさまざまなところに原因
となる出来事を生じさせてしまうことがあると言うことです。

たとえば,初期の段階で対応していればちょっとした手作業で終わったものが,
顧客まで行ってしまえば,企業への信頼を失い,経費も膨大にかかると言うこ
とになります。これはひとつの部門の問題では済まされなくなります。このよ
うな場合,原因は単純ではありません。複数の原因があると見るべきでしょう。
それゆえ1ヶ所だけに是正の手をいれても効果は限定的です。

さて,今回は“原因は結果に先行するか”というバカらしい疑問から話をしま
したが,個人的な見解として,問題の原因は,“ある”のではなく“作り上げ
てしまう”のだと主張したいと思います。

本来,QMSは認証取得が目的ではなく,その企業の業績向上に貢献することが
最終目的であり,それゆえ事務局の方々はご苦労されているかと思います。そ
のためには新たな原因を作りださないように,常にQMSの妥当性を確認し維持
と改善に取り組まなければならないでしょう。

最後に,日本の宇宙開発の父である糸川英夫先生が,皆が失敗を重ね成果が全
く出ていない時に,“失敗という成果をあげた”と評価し皆を元気づけたとい
う逸話から,物事は見方次第で変わるというお話で閉じたいと思います。


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●編集後記
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ゴールデンウィークの連休を利用して,家族で群馬の山間へニジマス釣りに行
ってきました。

子供にとっては,初めての釣りで,釣り堀で釣れる経験をさせるか,釣れなく
ても本格的な釣りに挑むかなどと考えながら,向かった先は観光釣り堀になり
ました。

観光釣り堀ということもあり,子供でも簡単にニジマスを釣り上げることがで
きました。自分で釣り上げたニジマスをすぐに塩焼きにしてくれる施設もあり,
目の前で焼きあがるニジマスを食べることは,子供にとって良い体験だったよ
うです。焼き魚が苦手な子供も,食わず嫌いであったことを気づいたようです
ね。

爽やかなこの季節に,仕事を忘れ,子供の成長やら喜ぶ様子をアウトドアで
楽しめたことは,私にとってはハッピーなリフレッシュになりました。

子供の釣への好印象を大事にしながら,渓流の釣り場へデビューはどこにしよ
うかを考えていることは言うまでもありません。

こういうリフレッシュの中で,経験していくことの大事さを感じてしまうのは
QMSに携わっている性かもしれません。

私自身,経験を積み重ねていくことが重要であることは大事にしています。
7月にはISO 9001のFDISが発行されますが,皆さんはDISまでの情報は理解され
ていますか?

本号では,QMS委員会ならではのDISからFDISで変わる主なものの情報が載って
います。読み飛ばされた方は,是非,ご一読ください。

最後までお読み戴き,ありがとうございました。


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──「QMSを経営に活かしたいあなたに贈る」──

* 配信追加は下記にお知らせください。
 mailto:qmsmelg@ciaj.or.jp
* 発行:一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会
    QMS委員会メルマガ編集部
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* 発行責任者:QMS委員会メルマガ編集部事務局(菅野 清裕)
* 皆様のご意見・ご要望をどしどしお寄せください!
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