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━ CIAJ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   「QMSを経営に活かしたいあなたに贈る」 QMS委員会

     「2015年がスタート,今年も役立つ情報を発信します!」


                        2015年2月2日発行 第65号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ CIAJ ━
≪ 第65号 目次 ≫

 ・はじめに
 ・<再掲>今年度第2弾の異業種見学会は“東京の酒蔵”です
 ・QMS戦略セミナー予告
   『QMSにおけるコンテクストの意義を考える
               〜組織の現状把握が変革の原点〜』(仮題)
 ・QMS戦略セミナー速報
   『バランス・スコアカード(BSC)の基礎から構築まで』
 ・ISO 9001関連の最新動向
 ・TL 9000コーナー「2015年4月開催 APAC BPCのお知らせ」
 ・知識活用型企業への道「QMSにおける知的資産運用への取り組み」
 ・編集後記

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●はじめに
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QMS委員会会員の皆様,こんにちは。

暦の上ではもうすぐ立春です。
東京では,日中は春の陽気になったり,雪が降ったりと季節が変わろうとして
いる様を感じます。

スポーツの世界では,今年も錦織圭選手が絶好調ですね。メルボルンで行われ
ているテニスの全豪オープンでベスト8入りしました。今年も活躍が期待され
ます。4大大会で優勝し明るい話題を提供してくれることでしょう。

QMS委員会の今年の話題と言えば,なんといってもISO 9001の改正です。
会員の皆様にとっては,改正版への移行などが目先にあり,歓迎できないもの
ではないかもしれませんが,規格の改正は何を意味するのでしょうか。
世の中が変わり,QMSも変わっていく必要があり,そのために世界中の英知
を集めてQMSがどうあるべきかの議論のうえで改正されているのです。

一昨年にはRisk based thinkingを先取して榎本先生によるリスクのセミナー
を開催し,昨年は規格改正の意図と動向を正しく認識できるようISO 9001エキ
スパートの山田先生によるセミナーを開催。この3月にはコンテクストの意義
にフォーカスして,QMSを司る推進事務局の活性化を併せて行うセミナーを
企画致しました。

会員企業にとってQMSがますます役立つ存在になるように,QMS委員会は
本質を追及し支援をするよう頑張ってまいります。

それでは,メルマガ65号をお届け致します。


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●<再掲>今年度第2弾の異業種見学会は“東京の酒蔵”です
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既に会員の皆様にはメルマガの前号や募集案内メールで通知しておりますが,
今年度の第2弾の異業種見学会は,東京の酒蔵である「小澤酒造株式会社」を
お訪ねすることになりました。

これまで,酒蔵は見学先の候補でありましたが実現できなかった経緯がありま
すが,このたび小澤酒造株式会社様のお計らいで実現の運びとなりました。

小澤酒造株式会社は,元禄15年(1702年)創業の老舗の酒造業者で,「お客様
との直接のふれあいを求めて積極的に酒蔵見学を行い,銘酒澤乃井を取り巻く
自然と酒造りに対する基本姿勢を訴えてこられ,越後杜氏から社内杜氏への移
行などさまざまなチャレンジをされ,全国の鑑評会で金賞を多数受賞するなど,
「銘酒」の酒蔵として高い評価を受けています。

また,時代の変遷の中で,お客様への満足と価値を与えるさまざまな工夫もさ
れておりQMSの視点でも多くの気付きが得られるものと期待しています。

今回は,経営者による酒造りに対する品質へのこだわりやこれまでのご苦労を
お話戴くとともに,酒蔵の見学と意見交換の場を設定戴き,匠の世界を感じる
見学会として企画を進めております。

募集案内は1月14日にメール配信済みです。


 日時  :2015年2月27日(金)13:00〜16:00
 見学先 :小澤酒造株式会社
      http://www.sawanoi-sake.com/company
 住所  :東京都青梅市沢井2-770(JR青梅線沢井駅下車徒歩5分)
 募集定員:30名

 申込期限:2015年2月10日(火)


ご参加を希望される方は,急ぎ申込みをお願い致します。


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●QMS戦略セミナー予告
  『QMSにおけるコンテクストの意義を考える
               〜組織の現状把握が変革の原点〜』(仮題)
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ご承知のとおり,次期ISO 9001はすべてのマネジメントシステム規格の構造の
整合性を向上するために,付属書SL(Annex SL)の共通構造を採用することにな
りました。

この結果,規格要求事項として最初に出てくるのが「組織及びその状況の理解」
(Understanding the organization and its context) です。

英文では context(コンテクスト)の単語が使われていますが,読者の皆様は
この意味・意図をどう捉えていますか?

現時点ではDIS段階ですが,規格は,組織がQMSを採用し導入する前提条件(す
なわちコンテクスト)を理解し,決定することを要求しています。

つまり,「現状把握」すなわち「コンテクストの理解」なくして,QMSの設計
も実施も定まらず,期待するパフォーマンスは得られないことを示唆していま
す。

この一見分かったようで具体的に理解しにくい「コンテクスト」。今回のQMS
戦略セミナーは,株式会社イノベーション代表取締役である山上 裕司様をお
招きし,この「コンテクスト」に焦点を当ててみたいと思います。

山上様は,講演活動において「組織の状況(コンテクスト)とMS」の関係を議
論され,またコンサルティングをとおしてQMSの現場を指導されています。
また,超ISO企業研究会のメンバーであり,JIS Q 9005/9006 改正検討委員会
の委員も務められています。

現在,講師の山上様とは開催に向けて以下の要領で準備を進めております。
是非,ご期待下さい!


 日時 :2015年3月24日(火) 14:00〜17:00(予定)
 場所 :情報通信ネットワーク産業協会(JEI浜松町ビル3階)
 テーマ:『QMSにおけるコンテクストの意義を考える
              〜組織の現状把握が変革の原点〜』(仮題)
 講師 :株式会社イノベーション 代表取締役  山上 裕司様

 募集案内は 2月下旬に配信の予定です。


この機会に多くのQMS事務局および管理責任者にご参加戴きたく,ご予定の程,
よろしくお願い致します。


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●QMS戦略セミナー速報
  『バランス・スコアカード(BSC)の基礎から構築まで』
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先週1月28日〜29日の2日間に横浜国立大学大学院の吉川武男名誉教授をお招き
して開催した『バランス・スコアカードの基礎から構築まで』の速報をいたし
ます。

BSCの基本と構築のための事例を含めたステップの講義と,少人数のグルー
プ演習で構成されています。演習の成果は,グループ発表を行い,吉川先生の
過去事例を交えた総評と,参加者全員での意見交換会で締めくくるアットホー
ムな2日間のセミナーとなりました。

今回の受講者は11名で,職種別にみると,品質保証:9名,経営管理:2名とい
う分布でありました。参加動機では半数の方がBSCを学ぶことでありました
が,吉川先生に指導されたいという方から,問題解決方法や論理的な思考をマ
スターするといった目的で参加される方など多岐にわたりましたが,ほぼ全員
がその目的を達成したとのことです。

演習においては,「深く考えることができた」「これ以上考えられないレベル
まで考えきった感がある」「充実した2日間であった」などのコメントもあり
真剣に向き合って戴いたと受け止めています。

このセミナーで何を学べたかについては,「全体的な視点で捉えることの重要
性」「戦略の大切さ」「タイムマネジメント」「分業」「説明力」「問題を整
理して道筋をたてて考えること」などのコメントがあり,マネジメントや実務
において必要なことを挙げており,実務にも寄与するこのセミナーならではの
コメントと理解しています。

今回のセミナーの満足度については,全員が満足であるという回答を戴いてお
ります。難しいながらも「面白い」「いい経験ができた」という声があるとと
もに,多くの方が「社外の方との交流ができたことがよかった」というコメン
トをされており,コミュニケーションを活かしながら演習をされた結果として
満足感のあるセミナーであったものと受け止めています。

昨今の企業活動は,目的を達成させ,価値を生み出さなければならない中で,
企業の各階層でマネジメントが必要となり,マネジメントに対する知識や技術
は管理者だけが知っていればよい時代ではなくなっています。また,最近では
与えられた課題を考え,成し遂げる力が弱いと言われています。

このセミナーにおける演習は,以上の内容を効果的に学んでいくことができる
ような要素を多分に含んでいることもあり,QMS委員会は,このセミナーを
継続していくことの必要性を重視しており,講師の吉川先生からも全面的に支
援をする旨の力強いお言葉を頂戴しております。

今回の参加者からは,受講すべき対象として7割の方が「部門に係わらず若手
全般」との回答がありました。
QMS委員会では,今後とも年1回の開催を予定しています。会員企業の皆様
には,引続きの参加をお願いいたしますが,特に,若手の皆様の選抜をして
戴くことを強くお勧めいたします。


今回の受講者アンケートの結果は,以下の会員専用サイトからご覧戴けます。

 <会員専用サイト(ID,PWが必要です)>
 http://www.ciaj.or.jp/qms_m/pdf/150129.pdf 


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●ISO 9001関連の最新動向
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1月8日に品質マネジメントシステム規格国内委員会(TC176)が開催され,
2014年11月に開催されたゴールウェイ(アイルランド)会議の報告を中心に
DIS 9000/DIS 9001についての審議が行われました。以下に主な内容を報告し
ます。

1. ゴールウェイ会議報告

11月17日〜21日にゴールウェイで,例年の総会形式ではなく,TC176のSC/WG単
位での会合が行われました。

1) SC1(基本と用語):
 ・DIS 9000の投票結果については可決され,約2,000件のコメントが寄せら
  れたことの報告がありました。今後の検討においては,WG24との協力・調
  整が必要なことが確認されました。

2) SC2(品質システム): 
 ・DIS 9001の投票結果については可決され,約3,200件のコメントが寄せら
  れたこと,その内の1,300件は用語の問題であるなどの報告がありました。

 ・中小企業のためのHandbookの代わるものとしてTS 9002の開発に着手しま
  したが,Handbookから規格(TS 9002(IS0 9001:2015適用の手引))では
  なく,Handbookという形で残したいというISO側の希望を受けました。そ
  のため,TS 9002の開発をキャンセルすべきか,両方同時に行うべきかに
  ついて,意見交換が行われましたが,最終的に投票を行うことになりまし
  た。

 ・定期見直し投票が行われたISO 9004,ISO 10005,ISO 10006,ISO 10007
  の4規格の対応については,ISO 9001の改正終了後に着手するものとし,
  それまでの間はメールで意見交換することを確認しました。

 ・WG24(ISO 9001改正):
  ・DIS 9001に寄せられた約3,200件のコメントについての処理を行い,各
   タスクグループレベルでDIS改訂ドラフトを作成しました。続きとして
   全箇条をとおしてのレビューが必要であり,この会議の続きという位置
   付けで,2月に実施されるリトアニア会議で,全体会合形式によりFDIS
   作成に向けて継続して審議することが確認されました。
  ・10月〜11月に会員企業の皆様にも参画戴いた妥当性確認プログラムの結
   果報告は1月末で,重要なコメントがあれば次回の検討対象となります。
  ・QMP(品質マネジメントの原則)は要求事項ではなく,ISO 9001に含め
   るべきではないということになり,Annex Bは削除されました。その結
   果,QMPは序文で触れること(タイトルのみ)として,ISO 9000を参照
   する旨を記載します。
  ・箇条3(用語)は,箇条2でISO 9000を引用規格とし,箇条3の用語をす
   べて削除します。但し,Annexに9001の用語で定義があるものについて
   はリストを作成します。

3) その他
 ・ISO 9000/9001のコミュニケーションは,SC1,SC2との協力が必要である
  ことを確認しました。

 ・TC176としては,Websiteによる情報提供を行うとともに,
  Executive Summaryなどの作成について統一感のあるメッセージを出せる
  ようWG23を含め連携していくことを確認しました。

 ・TC176のArchitectureについて,ファミリー規格の関連性を対外的にいか
  に説明し,理解してもらうかについて意見が交わされました。詳細過ぎ
  る説明でもなく,単なるリストでもない説明のコンテンツが必要である
  ことを確認し,ボランティアメンバーを募り検討することになりました。


2. ISO 9000/9001の改正に関する今後のスケジュール

以下の予定が示されました。

 2015年 2月 リトアニア会議(2/16〜2/20)
 2015年 7月 FDIS 発行
 2015年 9月 IS発行
 2015年12月 JIS公示【国内】


3. ISO 9001:2015への移行計画の指針(参考約)の公表

「ISO 9001:2015への移行計画の指針」の最終版がIAFから正式に発行され,
その参考訳が(公財)日本適合性認定協会(JAB)の下記Webサイトにて公表され
ました。JABでは,ISO 9001への認証・認定の移行要領についても,近日公表
されるようです。

 「ISO 9001:2015への移行計画の指針」(参考約)参照先
 http://www.jab.or.jp/news/2015/012200.html

 原文(IAF Informative Document Transition Planning Guidance 
         for ISO 9001:2015 ( IAF ID 9:2015 ) Issue 1)参照先
 http://www.iaf.nu/upFiles/IAFID9Transition9001PublicationVersion.pdf


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●TL 9000コーナー「2015年4月開催 APAC BPCのお知らせ」
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4月14日〜16日に東京でアジアパシフィック ベストプラクティス会議が開催さ
れます。

本会議でCIAJ QMS委員会 TL 9000WGから,WG設立の背景,設立から現在までの
10年以上にわたり行ってきましたハンドブックの翻訳,セミナーの開催,日本
国内におけるTL 9000の普及活動などを発表する予定です。

開催要領は,クエストフォーラムのサイトを参照戴ければと思います。

http://questforum.org/japanhub/2015%20QuEST%20Forum%20APAC%20BPC.pdf


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●知識活用型企業への道「QMSにおける知的資産運用への取り組み」
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年を重ねたせいなのか 1年がとても速く過ぎ去ってしまいます。時計で時を測
れば誰もが同じなのでしょうが,人の置かれている状況によりだいぶ違ったも
のとなると感じます。このように,私たちはこの世界を定量的(客観的)な意
識と定性的(主観的)な意識とを混在させ理解し暮らしていると言えるでしょ
う。その観点から昨年は事実主張(客観的な主張)と価値主張(主観的な主張)
という考え方をご紹介し,物事を捉えるためには客観性と主観性という双方の
見方が必要性だとお話しました。またその上でシステム思考をご紹介し,シス
テムが持つ本質とシステム原型といわれるシステムが陥るパターンについて見
てみました。

さて,私たちは個人的な価値観を含め多くの場面で主観的感覚をもとに行動し
ております。例えば,良い悪い,好き嫌い,暑い寒い,美味しい不味い,美し
い汚いなど日常的には主観性をもとに私たちは行動していることに気付かされ
ます。それゆえ,昨今話題の価値創造について考えるとき,客観的な要素だけ
でなく主観的な要素をも含め理解する必要がありますが,主観性とは曖昧で個
人的なものなので,そのバラつきも大きく扱いづらいものです。

一方で,企業のように多くの人々が協働し仕事をする場合,皆が理解し行動で
きるようにデータ,指標,図形,文書類などにより,できる限り客観的なもの
で示すようにしています。例えば,売上や業績は金銭的なものに変換され評価
されますし,組織行動の多くは日付や時間をもとに計画され進捗が管理されま
す。また,費用対効果など効率の評価は客観的なデータをもとに比率を使い示
されます。さらに,基準や手順書類は判断基準を数値化,または手続き化し客
観的なものとして示されます。このように組織的行動では多くの事柄が客観的
なもので示され,個人的な主観的要素を取り入れる余地はあまりありません。

ここで,個人行動と組織行動との関連を見ると,例えば,企業は客観的なデー
タや情報を使い組織行動を管理しサービスや製品を作り上げようとしています。
一方,それを購入する顧客側は,価格や特性だけでなくかなりの部分を主観的
な感覚で(例えば,“かわい〜”とか,“カッコよい”と,“好きとか嫌い”
とかで)製品を選択するでしょう。このように見ると企業が顧客の主観的感覚
を理解し,これを客観的な要求に適宜置き換え,最終的には顧客の主観に訴え
る何かを付加できるかどうかが企業の力となってくるでしょう。この主観的な
部分をすべて客観化することは無理なのですが,ベテラン,職人などと言われ
る人々は文書化できない事柄を,その知識・経験および技能で補っています。
ともすると,システム化の流れの中,主観的なものを軽視しがちですが,組織
的活動でも客観的なものだけで行動することはできず,個人技に頼る部分があ
ります。

さて,組織的活動では分業化し各業務内容を文書化することにより客観化が行
われてきました。また,これらを組み合わせシステムを構築します。ご存じの
ようにシステムとは,個々の業務の単なる集合体ではなく,それぞれの業務が
相互に関連し作用する構造を持つものです。ゆえに,個々の業務の羅列で完結
することはありません。

それゆえシステムとして効果的なものにするには,他の業務との相互依存関係
と相互作用を理解することが求められます。個々の業務改善はシステムでなく
ても行えますが,他の業務との相互結合性を改善することはシステム的な思考
でしかできません。改善は目の前のことだけに焦点が集まりやすいのですが,
システムとして思考することが必要だと言えます。

システムの有効性や特性を評価する場合,通常あまり注目されていませんが時
間軸上の概念が必要になります。その理由として,システムに参画する人々が
システムから影響を受けることは当然としても,逆にシステム自体も参画する
人々から影響を受けているからです。

このように説明すると,システムが参画する人々から影響を受けるのはおかし
いと思われる人もいるでしょうが,例えばプログラムだけで構成され他の要素
が入り込まない完全因果の関係であれば,そのシステムは誰が参加しても同じ
結果を導きます。

ところが,人間系が組み込まれたシステムとなると参画する人々の知識量,関
心事,気分など人間的要素で絶えず影響を受けます。例えば,その業務システ
ムに参画する人々の中に,必要な知識・経験または情報を持っていない人がい
たりすれば,バラつきが大きくなり,同じシステムでも異なる結果を導くでし
ょう。

このように,人間系が組み込まれたシステムは不完全因果の世界なので,その
要素である人間が変化すれば,アウトプットの質も他の組織との相互作用も影
響を受けてしまいます。仮に,あなたの組織の上司が変わっただけで,その業
務の質や効率が変化したり,他の組織との関係が変化するとすれば明示化され
た業務プロセスは変わらなくとも,システムとしては影響されたと言えるでし
ょう。

実際のところ人間系で構成されるシステムは完全因果の世界をつくることはで
きませんので,システムとして明示的に示せることはシステムの骨格だけだと
思います。実際のシステムのごく一部です。このように書くと,それではシス
テムは不要ではないかと早合点する人々が出てきますが,システムの中にはル
ーチンワークと言われる作業部分が多いので過去の経験から積み上げた効率的
なやり方や先人たちの経験や知識を追体験できる仕組みは貴重です。しかしそ
れだけではシステムは成り立たず,システムにある明示化できない部分をどの
ようにするかがシステムの有効性を決めるものなのです。

例えば,ベテランと言われる人々は現在のルールでは対応できない事柄に直面
しても適切に処置できるのですが,“マニュアルに書かれていることだけを行
え”と育てられた人々が多数となってきた場合,そのシステムは果たしてうま
く機能するのか疑問です。そこからは自ら積極的に業務に参画し改善していく
とする姿勢やリスクを負ってチャレンジする姿は生まれることはないでしょう。
変化が激しい世の中では教科書どおりに世の中が動く訳ではないので,人間系
が含まれるシステムでは常に教育・訓練と積極的な参画意識の醸成が不可欠で
す。

さて,システムと時間の流れに話を戻しますが,一旦QMSを組み上げてしまえ
ば細かな改善を加えれば長期にわたりシステムは効果的だと願っている方もい
るのでしょうが,残念ながらビジネス環境の変化が激しい状況ではそのとおり
にはなりません。また,システム内の構成要素である人間系や各経営資源が少
なからず変化するのであれば,もう一度システムを見直す必要があると思いま
す。このように考えると,システムにも寿命があるような気がしてきました。
システム寿命を短期的なものと見るか中長期的なものと見るかは,その企業の
特性と属する業界の環境変化のスピードと関連したものとなるでしょう。

例えば,競合他社の変化,アウトソーシング先の変化,顧客,取引先の変化な
どさまざまな外部環境の変化があり,これにうまく順応できないシステムであ
れば,そのシステムは既に寿命がきていると見なさなければなりません。寿命
が尽きているシステムの中では,現場の人々は賢くシステムを無視し始めます。
このシステムはうまく機能しない部分があると判断すれば足りない部分を個々
に補い始め,その場の処置で対応し始めます。その結果,システムは神棚にた
て祭られ形骸化して行きます。その場合,誰も言わないのでしょうがそのシス
テムは寿命になっていると判断してもよいでしょう。また,手順を積み重ね結
果的に使う側が何を行えば分からなくなってしまったり,何のためにこの手順
を作ったのかが分からなくなっているとすれば,これもまたシステムの賞味期
限切れサインです。

さて,賞味期限切れのシステムにならないためにはシステム要素のすべてを文
書化し,図面や記号または言語で示せる訳ではないことを理解したいものです。
例えば音響製品の場合,数値化されたものだけでは示せない特性があるもので
す。

例えば,楽譜は作曲家が創造したイメージの記号化された情報です。それをコ
ンピューターで正確に奏でたとしても音の羅列でしかなく感動する音楽になら
ないでしょう。音楽にするには演奏者が作曲家の思いを理解し卓越した技能で
それを音楽として表現し,初めて聞く人々に感動を与えるものとなるのでしょ
う。そこには音符の羅列では示せないものがあり,音符と音符の間にある見え
ないメッセージを理解できる能力が音楽家には必要となります。

企業の世界は芸術的な分野とは異なりますが,記号化された情報だけでシステ
ムが完成すると考えるのはあまりにも単純な思考です。仮に,さまざまな情報
類を読み取る能力(リテラシー)がそのシステム内にないとすれば,いかに大
量に情報が流入したとしても有効に役立てることはできません。そもそも情報
は,一般化されることにより情報としての価値は少なくなり(なぜなら,皆が
知っているため),貴重な情報は,情報と情報の間に埋もれ隠れているものな
のです。

QMSでも明示化され手順化された情報は,実際のところ業務基盤となるかもし
れませんが,一般化されるがゆえに本当の意味で企業の特徴を示すものではな
いでしょう。ここで述べたことは定量化への努力は重要ですが,定量化・記号
化する段階で,実際には記述できないものは重要かどうかに関わらずそぎ落と
され,企業の将来に重要な尖がった何かをせっせとヤスリがけし丸めてしまう
可能性があることです。一般化されたものは凡庸であり,安定化には役立ちま
すがつまらないものになりやすいものです。

その結果,皆が利用できる安全なものになりますが(だいたい,皆ができる低
レベルのものとなる),何の特徴のないつまらないシステムになるでしょう。
このようにシステムには,安定性と引き換えに何らかの能力や個性を無能化す
る働きも持つ場合があることを,頭の片隅において戴きたいものです。
企画・開発部門や設計部門などに見る知識創造は,極めて人間的で個人的な
活動ゆえにシステム化は馴染みません。それゆえ,システムとして支援できる
部分は作業的ルーチンワークの軽減であり,コミュニケーションや情報検索を
効果的に行える情報システムなどの支援システムと見るべきです。

(☆17世紀のデカルトは方法序説の中で,「一人の常識ある人間が自分の目の
事柄に単純に下す推論は,多くの異なった人々によって形成される学問より優
れている」と指摘しています。皆でよってたかって組み上げたシステムより,
場合によっては現場の常識ある一人の判断の方が勝っているかもしれません。
これはシステムの弱点を見抜いているかもしれませんね。デカルトは20世紀初
頭のF. テ—ラの科学的管理法の効用を知る由もなかったので適切な見解かど
うかは言えませんが,時と場合によってはデカルトの発言は正いと見えます。
皆さんはどうでしょうか。)

さて話を少し横道にそらしますが,次に“役立たないもの”の意義を少し考え
てみましょう。“古事記”研究の中で「中空構造」(河合隼雄)という研究が
あります。古事記に出てくる重要な神様たちは,物語の初は三柱で出てくるの
ですが具体的な話に入ると途端に一柱の神様は出てこなくなります。すなわち
中抜きされてしまうのです。

そして物語は二柱の神様のやり取りで進行します。このパターンを中空構造と
いうのですが,この抜け落ちた神様は,まるで主役リストに名前が出てくるの
に最初の一場面しか出てこない役者のようです。それでは,中抜きされた神様
は物語の中でどのような働きを持っているのでしょうか。古事記は1200年以上
前に書きあげられたものなので,文書力がなかったのだろうと安易に見てはい
けないようです。中空構造は古事記の中では繰り返されるパターンですから,
何らかの意図があったと考える人も出てくる訳です。それでは,中抜きされ役
立たずの神様の存在意義はなんでしょうか。

私の個人的な感想から言えば,最初に三柱の神様を示すことに結構深いものが
ありそうです。すなわち物語が話される“場”の広がりを三柱として最初に示
しているのです。そして,その場の中で話題の中心である二柱の神様のお話が
進行するのです。仮に,中抜きされた神様がいなければ,単なる二柱の神様の
やり取りになりますが,中抜きされた神様が最初に出てくることにより,その
世界観が示されているため話の全体の中の位置取りが見えてくる訳です。
システムも個々の業務や関係する組織とのやり取りだけでなく全体としてどう
なのかを理解するためにあります。中抜きされた神様の働きも無意味ではあり
ません。

このように,古事記の表記方法は“この世の中はそれだけではないよ”と最初
に言ってくれているような気がしますが,もう一つの注目点は三角構造です。
例えば,ジャンケンですが,グー,チョキ,パーの三つの要素を持っています。
グーはチョキに勝ち,パーに負けます。また,パーはチョキに負けます。この
三つの循環的構成要素は,どれも独り勝ちできないことを示しています。欧米
流ビジネス書の中でもWin-Winで共存繁栄を主張するものもありますが,その
言葉の裏には結局独り勝ちを狙っているのであり,その基本構造は二項対立的
な対立構造だと思っています。常に善し悪しが付きまとい強者が弱者を負かす
構造になりやすいと見えます。決着がつけやすいため意思決定などの手法とし
ては優れています。

一方,古事記では最初に中抜けされた神様を示すことにより,まずは全体の世
界観を示し,その上で二柱の神様のお話に注目するため,ある場面ではどちら
かの神様が勝つのですが,次の場面では逆転したりする世界観の中で話が進み
ます。たまたま,ここでは二つの神様の話にするけれど,それ以外の世界があ
ることを前提にしています。それゆえ,何かを全面否定するのではなく時間軸
の流れの中で全体と部分がうまくつながるのです。

さて,中抜きされた神様を入れた三角構造は,私個人としては多様性を考える
ときバランスが良い構造と現在は考えています。なぜならばジャンケンと同じ
ようにどれを頂点においても全体としてはバランスし循環する構造だからです。
話の流れでたまたまグーが勝つかもしれないけれど,次はパーが勝つかもしれ
ない世界です。

この三角構造はどれを頂点として見てもよく,多様な世界を示す最も簡潔な構
造ではないでしょうか。一方で二者択一的な構造はデジタル式に議論されやす
く,複雑な企業活動を見るとき何かを捨て去って議論される危険を感じます。

(なぜ私が三角構造を気にするかと言いますと,決して古事記の世界に執着し
ている訳ではありません。理論物理学の世界で宇宙の統一理論を研究する際,
その手掛かりとして対称性すなわちシンメトリーという考え方を使い成果を上
げているからです。複雑に見えるさまざまな現象を,シンメトリー性を基準に
考え解き明かそうとしている研究です。
その中でも最も単純なシンメトリーが三角形です。回転対称性があるため,ど
こを頂点に置くこともできるため,単純な構造ですが複雑な世界をうまく表現
できるのではと考えているからです。たまたまですが,古事記の中空構造と考
え合わせて考えて見ると二項対立的な思考では抜け落とされるものを,うまく
表現できるかもしれないと感じています。)

だいぶ遠回りをしたのですが,このメルマガで書きたかった本題であるQMSに
おける「リスクベースド・シンキング」に話を進めたいと思います。これまで
QMSは,最も基盤となる原則として“マネジメントへのシステム・アプローチ”
と“文書化”の二軸で構成されてきたと個人的には考えています。先に述べま
したようにプロセスの相互作用を考えることと,システムを構築するために必
要な事柄の文書化による客観性がこれに当たります。

そして,今回のリスクベースド・シンキングが加わることにより,先に述べた
三角構造が形成できそうだと考えたからです。ご存じのようにシステムは本質
的に安定化しようとする特性を持つため,当たり前ですがリスクを排除する働
きを当初から持っています。(システムは,生産性の向上や質の改善だけでな
くリスクを軽減する目的でも構築されていると言えます。)それゆえ,既に
QMSの中にはリスク対応は既に組み込まれていると言えます。

少なくとも国内企業ではTQMに見るように改善は当たり前であり,それなくし
て業界の中で生き残れないのは自明の理ですから,今さらながらリスクベース
ド・シンキングなどと言われると,何となく戸惑いを感じますし,がっかりも
させられます。
なぜ今さらリスクを舞台に上げるのか疑問になる方も少なくないでしょう。人
によっては,これでまた出版社やコンサルタントの儲け口ができたと見る人も
いますし,古い資料の上に「リスクベースド・シンキング」と表紙を刷り直せ
ば,何か新しい話になるのではないかと見る方もおり,これが妥当な評価かど
うかは分かりませんが一理ある指摘です。

そこで,私はもう少し好意的に理解したいと考えてみました。当たり前ですが
リスク概念は予防処置として既にQMSの中に取りこまれているものの,その困
難性もありQMSの中では特に関心が寄せられていない,いわば中抜きされた状
態になっているのではないでしょうか。

ここで前述した話が意味を持ち始めます。すなわち,“システム・アプローチ”
と“文書化”の原則と“リスクベースド・シンキング”という三角構造がQMS
の中に組み上げられます。これで,どの原則を頂点に議論を始めても良くなり
ました。例えば,リスクを頂点において,システム的にアプローチするにはど
うするのか,それを客観化し文書化できるのか。または,システム・アプロー
チする際に文書化できる部分は何か,またそれが生み出すリスクは何か,など
多様な評価が偏りなく可能となります。
私個人としては,リスクよりも価値創造とかパフォーマンスを三角形の頂点に
置きたいのですが,QMSの世界観から見ればリスクが妥当なのかもしれません。
また,四角形や五角形としても良いのですが考察すべき要素が多くなりすぎる
のでお勧めできません。単純な三角形が良いのでしょうね。

さて,三角構造をQMSへの思考に取り入れたとして,もう一つの軸があること
を最後にお話しなければなりません。それはシステムの本質である“時間軸”
です。イメージ的にはQMSの三角構造をシンメトリーに回転させるには三角形
の重心に時間軸をとおす必要があります。ここでむずかしいことを述べるつも
りはありませんが,QMSの三角構造は過去—現在—将来の時間軸を回転しなが
ら進んでいくようなイメージを描いて見てください。

リスクを考慮することは「将来」に思いを寄せることであり,改善は「過去」
を思考し現在を見る手掛かりをくれます。すなわち,リスクを加えることによ
り時間軸をとおしフィードフォワードとフィードバックがより鮮明に理解でき
ます。それによりQMSに参画する人々の思考も過去を起点とした受身的な姿勢
から将来に向かう積極的な姿勢を導くこともできるかもしれません。実際のと
ころ現在のようにさまざまな要素の変化が激しい時代では,過去だけに囚われ
ていては手遅れになり,いかに先読みし舵を切るのかが企業の将来を決めてい
くでしょう。そのためにはリスクベースド・シンキングを,通常のリスク対応
のリスクの特定,影響度分析,対応などの表面的な手法のお話で終わらないこ
とを願っています。

さて,新年に当たり勝手な思いを紙面の都合もかえりみず長々と書いてしまい
ました。お許しください。最後にデカルトの方法序説から「我思う,ゆえに我
あり」を引用し,「我リスクを思う,ゆえにQMSあり」という言葉で今回のお
話を閉じたいと思います。


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●編集後記
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今年は「未年」。羊は,群れをなすことから「家族の安泰」を表すとされ,
いつまでも「平和」に暮らすことを意味していると言われております。

一方,金融の世界の格言では,「辰巳天井,馬尻下がり,羊辛抱,申酉騒ぐ,
戌笑い,亥固まる,子は繁栄,丑つまずき,寅千里を走り,卯跳ねる」と言う
ものがあり,「羊」の今年は「辛抱」で,来年と再来年の「申酉」は「騒ぐ」
です。皆様にとっては,ISO 9001の改正に伴う移行作業が「申酉年」で大騒ぎ
にならないように願うばかりです。

今回の改正は,2000年版以来の大改正とも言われています。とすれば,次の大
きな改正は更に15年先の2030年かもしれません。そういう意味では,今回の改
正の中身をしっかり理解しておく必要がありますね。

認証機関やWebなどの情報に振り回されることなく,規格改正の意図がどこに
あり,皆様の組織のQMSの状況から課題がどこでどうすべきなのかを出発点に
QMSの見直しをされることをお勧めします。

また,時には,本号で紹介した“東京の酒蔵”などに出かけてみるのも一息
つけてよいのではないかと思います。ふとしたところに気付きがあることも
よくある話です。
ONとOFFをうまく使っていこうではありませんか。

今年も,QMS委員会のメルマガを,よろしくお願い致します。

最後までお読み戴き,ありがとうございました。


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