CEATEC JAPAN 2010 ウェブアクセシビリティセミナー 【NT-14:Part1】 改正したばかりのウェブアクセシビリティ規格 JIS X8341-3:2010 入門 /本日はCEATEC通信ネットワークセッションにご参加いただき、ありがとうございます。まもなく開演しますが、しばらくお待ち下さい。 要約筆記が必要な方は、前の席が空いておりますので、お移りいだだければと思います。 /皆さま、本日は多数ご参加いただき、誠にありがとうございます。 ただいまよりアクセシビリティセミナーを始めます。 まず、パート1として、「改正したばかりのウェブアクセシビリティ規格JIS X8341-3:2010 入門」ということで、情報通信アクセス協議会、ウェブアクセシビリティ基盤委員会委員長の東京女子大学の渡辺先生にご講演いただく予定でしたが、本日、先生は体調不良とのことで、本日はウェブアクセシビリティ基盤委員会の副委員長の梅垣さまがご講演いただきます。 梅垣さま、よろしくお願いします。 梅垣/こんにちは。 ウェブアクセシビリティ基盤委員会の副委員長の梅垣です。 この委員会には日本障害者協議会という障害者団体の委員会から参加しています。 今日も、その立場からも少しお話させていただければと思っております。 それで、「改正したばかりの」というところに勢いを感じていただけるのではと思っています。 出たばかりでして、その背景となる様々な情報を、皆さまにご提供し、パート1ですね。 パート2では、植木さんが……どこ?あれ?後ろにいますね。植木さんが更に技術的にも詳しい中身をご紹介いただき、合計2時間やらせていただきます。 非常に沢山の方に来ていただき、嬉しいなと思っています。 そんな話をしていると梅垣はいつも喋りすぎると言われるので、早速始めます。 さて、JIS X 8341-3が今日初めての方もいらっしゃるかも知れません。 簡単に紹介します。 実物も持ってきています。 これが2004年度版、よく使ってボロボロになっています。 こちらが新しい2010年版で、違いは分かりませんが、このようなものです。 この規格は高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器、ソフト及びサービス−第3部ですから、第1部と第2部があり、いま第7部まで、もうすぐ揃ってくる状況です。 その中のウェブコンテンツを扱うJIS規格です。 アクセシビリティですから、高齢者・障害者という方々がウェブコンテンツをうまく利用できるようにしましょう、そのためにこんなことをしましょう、そういう規格です。 インターネットに接続された通常のウェブコンテンツだけでなく、携帯電話やイントラネットで使うウェブシステム、アプリケーション、或いはウェブを使って設定するルータ、最近は無線のルーターもありますね、そういうものも全てウェブのコンテンツ技術を使っているので対象だと考えています。 2004年6月に初版が出て、2010年8月に改正されました。 アクセシビリティというのは、つい最近ですが、割としっかりと定義されました。 「共通指針」と呼ばれる規格の原則となるものがありますが、これが、どう定めているかを見てみましょう。 アクセシビリティというのは、「様々な能力を持つ最も幅広い人々の製品等に対するユーザビリティだ」と定義されました。 これはISOの国際規格と同じ内容になっています。 世界的にもアクセシビリティというのは、「こういうものである」と定義されました。 従来は障害のある人にどのように対応するかがアクセシビリティだと考えられてきました。 が、アクセシビリティの概念も、このようにどんどん発展してより幅広いユーザを対象にできるものになってきています。 例えば「注記1には障害者と正式にみとめられた利用者」とあります。 障害者は日本では障害者手帳を持つ人だけが「障害者」と呼ばれ、そうでない人は対象とされません。 人口比で5.3%くらいだと言われています。 だけども、他の国にいけば、このパーセンテージは変わります。 ですからいわゆる、国の定めた法律で障害者を定義するのではなく、もっと幅広い利用者を考えようというのが、この考え方の基本にあります。 この話について、更に進めたいと思います。 例えば、障害というのは、視覚障害や聴覚障害、肢体不自由など、いわゆる身体障害の3つの分類になっています。 視覚障害の場合は、全盲、全く見えない人は、Screen Reader、画面を音声化するソフトウェアを使い、音声を使って画面にアクセスします。 一方でロービジョン、これは、弱視とも言います。 一番分かりやすいのは、強度の近視でメガネをかけてもよくならない場合ですが、こういう場合は画面を拡大します。 日本では、世界的にみても障害に分類されていませんが、色弱、色の識別がしづらい人が、日本の男性の5%ぐらいいると言われます。 これは先ほどのアクセシビリティの定義で見たように、一般に障害者といわれる人だけでなく、ニーズのある人を考えようというわけです。 聴覚障害の場合も、聞こえづらい人と聞こえない人、それぞれ特性が違います。 今日は詳しい話はできませんが。 肢体不自由は操作しづらい、マウスを使うことがうまくいかない。 マウスを持つ手がない人もいます。 そういうマウスを使えない場合や、逆にマウスしか使えない、マウスの小さい動き、実際にはタッチパッドとかトラックボールなどを使いますが、マウスだけで文字入力もしたい、というニーズがあります。 さらに認知の障害として、知的障害や、最近、話題になることが多い発達障害、あるいは精神障害といった様々な分野があります。 このような障害に対する対応もより広く見ていきましょうというのが最近の流れになっております。 1つの例として、ロービジョン、弱視の方の特性について。 これは、ある本から取ってきたものです。 放送大学の教科書です。 視覚障害者というとScreen Readerを使うというイメージがあるかもしれませんが、視覚障害者の9割くらいは、だいたい見えづらさを抱えていらっしゃいます。 例えば、このように(左側)単純に画面がぼやけてしまう。今のこの画面自体もぼやけていますが。これは近眼と同じような状態です。 メガネを掛けている方なら、それを外せば、すぐに分かる状態です。 2番目にあるのはコントラストが下がるというものです。 代表的な病気として白内障があります。 白内障になると単にぼやけるのではなくて、網膜上のコントラスト比が低下することがあります。 そうするとコントラストのはっきりした文字でないと読みやすくないということがおきます。 また、3つ目。これは最近増えていると言われています。 いわゆる、網膜の病気でもって、視野がどんどん狭くなる。 網膜が剥離して視野が狭くなってくるものも大変増えております。 真ん中しか見えないという症状があります。 どのくらい見えないかは人それぞれですが、何かしら見えない。 一番右端、視野の中心部が見づらいという、わずらわしい症状があります。 こういった症状になると、自分の見ようとしたところの、まさに中心がうまく見えない状態ですから、非常にイライラします。 文字を読むのがつらいということが起きます。 1とか、2とか、4のケースは文字を拡大したり、コントラストをはっきりさせると、読みやすくなります。 一方、3のようなケースの方は、文字を拡大するとかえって読みにくくなってしまう。 でも、画面の全体がどうなっているかは掴みにくいというような、多様性がある症状を呈します。 もう1つ、これも例です。 加齢の問題についてお話しします。 年を取りますと、皆、段々と視力や視能力が低下してまいります。 左側のグラフは、生体情報システムという福田先生の本からとっていますが、通常視力を計る時は、5mの距離でランドルト環というものを見て、どっちが開いているかという検査をします。 距離を変えて計ることもできます。 距離を変えると、5mの距離で視力が1〜1.5あった人でも、距離を近づけていくと、例えば、60〜64歳の、これはあるデータの平均値ですが、30cmまで近づくと視力が0.1になります。 これは調整能力が低下するということを意味します。老眼になってくるので、近づけると見えない、離すと見える、こんな症状を平均的に示しています。 さらに根本にある焦点調節力のグラフが右側です。 これもたくさんのサンプルを集めて点を打っているものです。 8歳からずっと焦点調節力が低下していきます。 このグラフで見ると50歳くらいのところで下にはりついて、後は変わらないわけです。 この焦点調節力というのはおおざっぱに言うと、逆数をとると近点距離と言いまして、一番近くで焦点を合わせられる距離です。 10という数値は10pの距離でものをみて、焦点があうということです。 1だと、1mでないとものが見えない。 老眼になると新聞などを遠く離して見ているわけです。 もちろん老眼鏡、メガネで改善することはできますが、このような視力の低下があります。 したがって、障害者の問題と言いながら、やはり障害に加えて加齢の問題もあるわけです 先ほど紹介した白内障だと、80歳以上になると、70〜80%の人がなっています。 私も右目は、白内障になってきています。 会場の中にもいらっしゃると思いますが。 したがって少し眩しいわけです。 朝起きると、太陽の光が右はとてもまぶしいです。 糖尿病も国民的な慢性疾患として、非常に深刻な状況です。 中途失明の第一位になっています。 これは東京医科大学の先生の調べですが、年間3000人くらいが視覚障害者になっています。このような状況ですから、加齢による様々なな病気、特に白内障はある意味避けられない病気です。 こんな病気を通じて、歳を取る、そして歳を取って障害を負う、障害者にならなくても様々なな困難を抱えているわけです。 障害者は日本では5.3%ですが、国連では10%とか、アメリカでは20%とか言われています。 そのように実は、少なくないということです。 色弱の人は劣性遺伝ということもあって男性の5%います。 最近話題になっている発達障害の問題も、言葉で音を聞けば、ちゃんと理解できるんですが、文字を読むのが難しいというような学習障害を持っている方も結構いることが最近わかってきました。 例えば、高校に進学した人の2%に自閉症などの発達障害の傾向が見られるというようなことを、2009年に文部科学省は調べています。 こういった問題にも対応していく必要がありますし、65歳以上人口は23.7%を超えています。 日本の人口は減少に入っているそうですから、ますます加速していくわけです。 1年前の数字が22%台でしたから、どんどん今、高齢者は増えています。 別にそれが悪いとはいいませんが、増えているわけです。 50歳以上がもう50%に近づく勢いです。 焦点調節力が50歳ぐらいでピークを迎えているという話をしましたが、そういう意味ではウェブアクセシビリティは障害に特化した様々な技術もあるけれども、もっと幅広いユーザをカバーすべき問題もあるというわけです。 その話をしたいために、ここまでのご説明をちょっとしてみました。 そのようなウェブアクセシビリティですので、それがちょうどこの2年くらいの間にどのような活動を展開してきたかを次にお話します。 その後に、その背景もお話ししたいと思います。 JIS X 8341-3は、2004年に初版が出ていますので、2008年にはもう改訂しなければいけないということで、改訂作業を開始しました。 原案作成は日本規格協会の中にある委員会で行いました。 だいたい1年くらいかけて、改訂版を作りました。 その後、規格協会は規格が出来たら終わりとなっていて、その後、活動の場を2009年から情報通信アクセス協議会ウェブアクセシビリティ作業部会に移しました。 一方JISは、日本規格協会や工業標準調査会を通じ、2010年に公示され、その準備のために作業部会を使いました。 2010年からはウェブアクセシビリティ基盤委員会を立ち上げました。 この委員会で、JISを皆さんに理解してもらい普及したり、その一環でこれもやってるわけですが。 どう実装するか、どのような技術をうまく使えばいいかを、しっかりとドキュメント、文書化して皆さんに提供したりします。 私のWG3では試験に関してやっています。 基盤委員会は、様々なメンバーが集まっています。 今日、受付で配られたアクセシビリティのパンフレットにも書いてあります。 ウェブアクセシビリティの理解・普及に必要な様々な作業をやっております。 特に、実装と試験に焦点を置いて活動を展開しています。 http://www.ciaj.or.jp/access/web/ がURLです。 2004年版にどんな問題・課題があったかです。 どんな課題を感じていたかを話します。 2004年度版は、ご覧になった方はご存じと思います。 このように具体的な例が載っていて、「こういうのはよくない」とか「こうしましょう」というような、ある意味、ウェブアクセシビリティの入門書のような構成になっていました。 大変好評で、規格協会によると、出た年の売上ナンバー2だったそうです。 手前味噌ですが、これだけ読めば解る、非常によいテキストだったと思います。 しかし、いろいろな問題が出てきます。 1つ目、最初に言わなければならないのは、国際規格であった、W3C、これと日本のJISは少し内容が違っていました。 そのためにW3CのWCAGをやっている人たちからは国際協調をしてほしい、国際的にも一致して欲しいという話が、強く出ていました。 我々も、それは問題だと思っていました。 2つ目、基準が不明確で厳密性に欠ける、多様に解釈可能であるという面がありました。 その内容は、植木さんが紹介します。 どうやって実際にウェブアクセシビリティが出来ているか評価する方法がありませんでした。 運用面でも新しい技術に対応できないとか、規準が不明確なので、独自解釈が生まれてしまう。これは後で説明します。 そういう意味で品質保証みたいな考えが十分ではありませんでした。 欧州で取り組まれている活動を参考にして、試験の検討もし、そしてJISの5年ルール、5年たったら改訂できるので、改正作業に取り組んだわけです。 世界的な動向と日本の関係です。 アメリカの話は時間がないのでやめておきます。 WG3は、1999年に勧告していて2008年に出ましたので10年かかっていますが、WCAG 2.0になっています。 技術やテスト可能ということで、書き換えが行われています。 日本ではWCAG 1.0を使ってJIS X 8341-3:2004を作りました。 もちろんWCAG 1.0の内容は含まれていますが、独自に様々な要求事項を追加したので、植木さんが頑張ってくれて、これをWCAGのWGに取り込んでくれということで活動を展開しました。 その結果、WCAG 2,0ができたので、それをさらにJIS X 8341-3:2010版に一致するように取り込むことができました。 これとは別ルートで、欧州ではイギリス等が力を入れていますが、実際に調達に使う時に、どうやってアクセシビリティを評価するかという問題に取り組んでいます。欧州は様々な活動をして、その中で今、評価する枠組みも作っています。 ウェブアクセシビリティを試験するためのドキュメントを整備していました。 現在さらに標準化される段階まで来ています。 このような試験の方法を先進的に欧州では取り組んでいたので、日本でもうまく取り入れようということで、WCAG 2.0と欧州の取り組みを少し取り込んだものとして、JISを作ったわけです。 ここまでをまとめます。 2004年版の欠点を改良したい、適合性評価が可能になるようにしたい。 特に試験可能になって、Testableなものとして記述されましたので、客観性がある規準としたい。これはWCAG2.0ができたので、ダブルスタンダードを解消することで、欠点を直すことができる。また、2010年版のJISはWCAGと原則として一致している、原則が一致ではなく、原則として一致です。 一部書き換えがあるので、完全一致ではありません。 それと世界の動向もキャッチアップしたい、ということで改訂されました。 そろそろ中身に入ります。 古いJISと新しいJISの違いを何とか説明したいと思い、スライドを用意しました。 前回しゃべった時は、あまりウケなかったんですが……今日も時間がないので、どうしようかな……。 まず、「富士登山ガイド2004」というガイドブックがあります。これは富士山に行こう、みんなで登ろう、日本一の山、五合目まではスイスイというザックリしたガイドブックを手にしたとします。 そんなきれいなんだったら、ここに写真もあるし、是非行ってみたいと思うわけです。 皆さんは富士山をよく知っていると思いますが、人によっては、5合目までバスで行って帰ってくる人もいる。 ハイヒールをはいたまま、5合目から登ろうとするおねえさんもいるかも知れない。中には万全の装備で頂上まで登る人もいる。 どこまで登ったかはよくわからないけど、「私は富士山に行って来ました」と言うわけです。 富士山に行ったという意味では、どんなスタイルでどこまで登った人も「登ってきた」と。 だから装備が足りなくて、遭難しちゃったりする人も、いないとは限りません。 そんなわけで、「富士登山ガイド2010」というのを作ります。 こちらはいろんなことが書いてあります。まず、5合目まで? 8合目まで?山頂まで行くか、最初に決めることになっています。 「いやいや僕は5合目までで勘弁してください」とか言えるわけです。 実装技術は、例えば、登山ルートが4つあって、これはどこの駅からアクセスできるとか、どのルートが登りやすいかが書いてあります。 また、ハイヒールで行ってはダメですよとか、少し寒くなってきたら、ちゃんと上着、防寒をとか、いろんなことが書いてあります。 それから「試験」…と言うと大げさですが、頂上に行った人は、「俺は頂上に行ったのだから、記念写真を撮って、人に見せよう」と。 そうすると、自分は頂上まで行ったと証明できます。 或いはGPSを持っていって、頂上で確認して、ここは確かに富士山の山頂だと確認したり、5合目だったら、そこでスタンプを押してくると。 こういうことをやることで、実際に自分がどういう目標に対して、どのような技術を使って、どのように実際に、本当に行ったかをちゃんと証明できるようなガイドにする。 これによって、間違った装備で富士山に行ってしまう人も減らせる。 また、その人が本当に富士山の頂上まで登ったか、確認できます。 これが2004年と2010年版の違いです。 つまりどういうことかというのは、これからお話していくわけです。 2010年版はもちろん、2004年版と互換性・整合性があるように作られています。 若干の違いがありますので、それは植木さんのご発表でも話がでると思いますが、基本的には互換性・整合性があります。 だから、技術的に大きなどんでん返しがあるということは、ありません。 当然ですが、WCAG 2.0を含んでいると考えていただいていいです。 そうすると当然ながらWCAG 2.0の利点が我々のJISでも使えることになります。 それはテスト可能であり、技術に依存しない記述、つまり技術が変わっても長く使える。 より広い障害に、例えば、発達障害などにも配慮するような記述になっています。 達成基準がJISと共通ですから、WCAGのために作られた様々な技術資料やツールが利用可能になります。 もちろん、そのサイトは国際的にも認められる基準として適合することができます。 ただしWCAG 2.0にないものも少し含んでいます。 それが開発プロセスの規定と言われている箇条6、6章のことですが、それや、第8章箇条8の試験方法等は、日本で作ったものです。 実際に手に取られた方がいらっしゃれば分かると思いますが、2010年版はさっき紹介した2004年版とは違って、図が確かに1個もない。 全部文字で書かれています。 さすがに私も、全部文字というのはつらいなと思って。それも、これだけの分量がありますからね。 だいたいページ数は一緒ですが、2004年版は図がたくさんあって、新しいのは図がなくて同じくらいの分量なので、とても文字数が多くなっています。 技術非依存なので、例えば、HTML要素の名前なども、ほとんど出てきません。 非常に概念的な説明が中心になっています。 それは、なぜかと言うと、HTMLだけの話じゃないよねということです。 例えば、PDFとかFlash、Silverlightなども全て対象にしていますから、異なる技術で、言葉が当然変わってくる。 だから、共通の概念でもって記述しています。 テスト可能というのもWCAG 2.0の売り文句です。 テストをする時にちゃんとテストできるようになっています。 例えば、例外処理、「こういうときは、こういう例外になります」、「こういう場合はこういう特殊な対応をしていいです」というような記述がたくさん含まれています。 現実にはほとんどこれはないよねということも細かく書いてあります。 これはつまり、実際にその基準を満たしているかを評価する時に、いろんな例外があって、その判断に迷うということがおきないようにするということです。 だから、条件設定、例外事項がいっぱい書かれています。 これがおそらく、まわりくどいと感じられる理由です。 ただ、本文だけを見ればわかりにくくなったと思うのですが、そのかわりに様々な技術文書が公開されています。これはWCAGの文章ですが、これは先ほどご紹介した基盤委員会で、かなりの量を翻訳し、公開しています。その中身については植木さんが話します。 そういったものを、うまく使うことによって、分量はちょっと増えましたが、しっかりと評価できるような、試験が出来るような中身になっています。 どうしたら良いか迷わなくてすむようになったので、規格としての品質は向上したのではないかと考えています。 JIS X8341-3は、こんな構成になっています。 WCAG 2.0は、イントロダクション、ガイドライン、適合性、附録となっています。 附録を除けば3部構成です。 ガイドラインの部分が、WCAGのメインの規定が書いてあるところです。 これはそのまま翻訳して、JISの7章、箇条7といいますが、ウェブコンテンツに関する要件にそのままそっくり入っています。 だから、「骨」の部分は全く同じというわけです。 それから、レベル定義があります。 レベルA、AA、AAAというのがあって、これもウェブコンテンツのアクセシビリティ達成等級という名前で、等級として取り込まれています。だから、基本的にはその部分は同じです。 これ以外のところもほぼ、いろいろな部分でちゃんとカバーしています。 実際に、JISを作る時も翻訳したWCAG 2.0をもとに作っておりますので、ほんの一部、含まれていないものもありますが、ほぼ全部含まれているので、同じものだと考えていただいてもいいわけです。 ここでちょっと、JISの読み方の話をしたいと思います。 JISに慣れていない方は、言葉で最初に苦しまれるので、こういう話をします。 要求レベルみたいなものがJISにあります。 要求事項というのは、「…しなければならない」という文末で書かれています。 JISの文章を読んでいって、これは7.3.3.3の例ですが、「その方法を利用者に提示しなければならない」と書いてあったら、この文章は、要求事項です。これは守らなくてはなりません。 また、「…が望ましい」と書いてあると、これは、推奨事項です。これは、できればやってくださいというような内容です。 できなくても何か理由があれば、それはしょうがないとJISでは考えています。 「…するとよい」と書かれているのは、ほぼ任意です。 解決策の1つの例だったりしますが。 これ以外にも、たくさんの語彙がちゃんとJISで定義されているのですが、主に、これら以外の文末は説明や条件の文です。 例えばこの例で言うと、2つ目の文章「ただし…は除く」、これは条件文です。 「…しなければならない」の条件としてセキュリティまたはコンテンツの目的の場合は除くとあり、これは条件です。 また「注記」があります。 これは要求事項ではありません。 「備考」「参考」「例」だったりします。 注記になにか書いてあるから、その通りにしろ、という意味ではなく、参考にするものです。 「等級」もあります。 要求レベルを複数設定するためのJISの仕組みです。 デジカメのIPXの何番という等級があり、防水でも「雨でも大丈夫」「水に沈めても大丈夫」など、レベルを設定しています。 箇条は「章」のことで、細分箇条は「項」です。 言葉使いの問題ですが、ちょっと頭に入れておくと読みやすくなると思います。 WCAGの構造の紹介です。 特にガイドラインの構造です。 ガイドラインは、アクセシビリティ基盤委員会で翻訳して公開しています。 このガイドラインの部分は、JISとほぼ同じ内容になっています。 翻訳そのものが全く一致しているかというと、そうではないですが、本文は同じで、これは公開しています。 Understanding WCAG 2.0、これは、実際に書かれているガイドラインを理解するための補助文書ですが、これも飜訳版が出ています。 Techniques for WCAG 2.0も実装方法集という名前で出ていて、ここのウェブに行くと読めます。 WCAG 2.0は全て日本語で読めることになります。 この条件が整わないと実はJISも、難しいといわれる本文だけだとうまくいかないと考えています。 達成等級の話です。 等級はA、AA、AAAに分かれています。 AAが標準です。 AAAの中には、実装は難しいというものが含まれていますので、AAAの中からは必要なものを選んでやるのがいいと思います。 AAがいわば標準の目標です。 試験の話をします。 試験というのは、このJISの1つの大きな「売り」の1つです。 是非これを皆さんに知って帰っていただきたい。 ウェブアクセシビリティに物差しを持ってきてちゃんと測れるようにしようというもので、欧州では、様々な活動でこのような試験をするという考え方が出て来ています。 日本でも試験を使って国内調達の現状を何とか改善したいというのが、目的です。 例えば、平成21年にある東京都下の市で実際に行われたCMS、コンテンツ・マネジメント・システムというソフトウェアの入札要綱がこれです。 事業の背景(1)目的が記述されていて、「本市では……」と書かれていてアクセシビリティは十分じゃない、特にJIS X 8341-3に準拠できていないから、大きな課題だと、よいことが書かれています。 だいたいどこの自治体の調達仕様書を見てもこんなことが書かれています。 ここにコーディングしている方がいらっしゃれば、それにいつも振り回されているかと思いますが。 機能対応シートが付いていて、5個の要件が書かれています。 ある市のシートです、僕が作ったものじゃありません。 (1)に既設のアクセシビリティ支援ツールが利用できること。 二番目に作成者がチェックしたり警告したりする機能が必要であるとして、画像の代替テキストの有無とか、日付、時間等表記、全角英数字、半角カナとか、機種依存文字、ページタイトルと書いてあります。 3つめ音声読み上げソフトに対応するようにとあり、読み上げ順序の話です。 4番目にはスキップナビゲーションの話です。 5番目に初めてJISが出てきて、「必須」要件を満たすこと、とあります。 だいたいどこでも、こんな仕様書です。 この仕様書の何がダメか。 例えばこの入札に参加する趣の異なる2社を想定してみます。 XとかSは具体例じゃありませんからね。 Xから始まる会社をあまり思い浮かべないでください。 営業担当は、今の仕様書を見てこう考えます。 JIS X 8341-3とはあるが、これは5番目だ。 1とか2がやっぱり重要なんじゃないですかね。 支援ツールが使えるとか、警告表示とか。 大事な順に書いてあるんじゃないすかね、と。 そうか、じゃあJIS全部と言われるとコストの問題もあるから、1〜4まではマルが付けられる。 どの要求仕様にマルが付くかで入札されるので、営業担当は安心してJISのことは忘れ、アクセシビリティツールが使えること、いくつかのアクセシビリティの問題の警告が出ること、読み上げ順序とスキップナビゲーション、このJISのごく一部だけ実装して入札しようとします。 S社はマジメなので、「必須対応」だから全部やると考えます。 Sのほうがまっとうだと思いますが、いい加減なX社にマジメなS社は値段で負けるかもしれません。 どこに行ってもこういうこんなことが日本では起きています。 するとS社の担当は、まじめにやってると入札には勝てませんと。 だから、X社とS社、X社の対応がダメとは言いませんが、少なくともちゃんと差が付くことが必要で……だんだん関西弁になってきたな。 よい競争を生み出さないといけない。 そのために物差し、ちゃんと測定できる仕組みを作りましょう、というわけです。 そのために、このJISの中には「試験方法」が書かれました。 試験方法はページ単位の試験とサイト単位の試験、試験結果の表示が主に書かれています。 ページ単位の試験はWCAG2.0と同じ内容です。 いくつか変えていますが、基本的には同じ。 サイト単位になると、欧州でやっていた取り組みをまねしていまして、サンプリング、抜き取り検査をしましょうとなっています。 ランダムだったり、非ランダムだったりして、これは今日は詳しく説明しませんが、抜き取り検査をしましょうと。500ページ作業をしたら、そこから抜き取り検査をしてちゃんとできているか確認しましょうという考え方を導入しました。 このようなことをやることで、またさらに試験結果表示といって、試験した結果を、文章に残しますよと、品質管理しますよということです。 それによって良い品質なのか、そこそこの品質なのかを判断できるようにしましょうと。 JISには、もともと適合性評価という考え方があります。 これは品質管理の考え方です。 適合性評価というのは、実際にその要求事項が満たされていることをちゃんと実証することだ、と書いてあります。 書いてあります。これはJISのQの17000に書いてあります。 認証機関で認証するわけです。しかし、 我々が利用できる認証機関がないので、自己適合宣言して、「何とかに適合します、JISに適合します」と言うことができます。 これは実は結構大変。なぜかというと品質管理ですから。 そこまでできないと言われたらどうしようかという話になって、「準拠」とか「配慮」という表現を導入しました。 適合するには、適合性評価が必要です。 どんな活動をするか、今日は紹介しませんが、いわゆる出荷検査をするとか、いろいろな活動が必要です。 ここまではできないがJISを使いたい人のために、「準拠」とか「配慮」という考え方を導入しました。 ですから、さっき見せたような仕様書や契約書に、「JISに準拠してください」、「AAAで準拠してください」と書くことができる。 自分が作ったコンテンツが「AAでJISに準拠している」とか、「Aに配慮しています」と書くことができるようにしました。 これはJISの枠組みではなくて、基盤委員会の活動としてやっていることです。 適合性評価をして、適合するというのは、これはJISの本来の姿です。 だけど、そこまで行くにはちょっと距離が遠いので、「準拠」とか「配慮」というレベルを設けております。 準拠していれば、要求事項を全て満たしていると確認できるので、「準拠」というのが、当面の我々の目標だと思っています。 この表は、詳しくは基盤委員会のウェブサイトにありますので、ご覧下さい。 今度のJISではいろいろな軸、いろんな考えられるレベルがあります。 目標をどこにするか、「A」なのか「AA」なのか。「AAA」を目標にするというのはないと思いますが、「AA」プラスアルファという目標設定もできます。 実際に作ったページを「配慮レベル」なのか「準拠レベル」なのか「適合レベル」にするか、選べます。 準拠レベルにするには試験をしっかりしなくてはなりません。 配慮レベルは従来どおりで、とにかくJISに従って作りましたということです。 でも表現が違うので、どちらのほうが品質が良いのかわかる。 レベルもちゃんと設定されているので、より高いレベルになっているかはわかるわけです。 目標レベルは、目標の高さ。達成の確実さは、実際にできていることの確からしさと。 JISにはサンプリングする際のページ数とか、どれくらいの頻度で試験をすれば良いのか。ウェブというのは変わりますから。 それも書いてありませんし、試験結果表示もオプションでいろいろな表記ができるようになっています。 どれを選ぶかによって、品質が変わってくる。 すごくまじめに試験をしたのか、ざっくりと最低限の試験をしたのかわかるようになっています。 このようにいろいろなレベルがあるので少し取り組みをしたい人は、当面は試験をしないこともできるでしょうし、すごく良いものを作りたい、または高い品質をつくって、それによって勝負したければ、試験して準拠する、あるいは「AA」とか「AA」プラスアルファを目指すことで、より高いレベルであるとわかる。 これによって、自分が富士山の何合目まで登るかわかるし、実際に登ったことも証明できる枠組ができたのが、新しいJISの最大の特徴ではないかと思います。 新しいJISを使っていただくと、より広い、いろんなユーザのニーズに対応することができます。 古いJISに比べて、より広い様々な、高齢者も含めた様々ななニーズに対応できるものになりました。 公共調達では…。 今日はこの話をしていませんが、公共調達ではX 8341-3への対応が必須になっています。 先ほど見せた自治体の調達の仕様もそうですが、対応は必須です。 公共の仕事をされる場合は、このJISを使っていただくことが必須です。 どう使うか。 まずは、WCAG 2.0と一致していますよと。 だからWCAG 2.0をちゃんと理解することが、まず必要です。 そのために基盤委員会のホームページに行くと、JISの文書と、WCAGの文書が両方あります。 もちろん両方読んでいただきたいのですが、やはりWCAG 2.0の技術文書の翻訳が、おそらく一番価値があります。 すごく苦労してこれを植木さんがやってくださっています。 これを必ず読んでいただければと思います。 試験が可能になりましたので、調達とか、購買仕様に明記する必要が実際に出てきます。 ウェブで宣言することもできます。 調達の場合ですと、今見てきたような、アクセシビリティの様々なレベルを統一していくためには試験をして下さいとか、発注側と受注側で状況は違いますが、試験をしてくだい、準拠してください、AAにしてください、提案する時、我々はAAをやりますとか、Aをやった上でAAの一部をやりますとか、試験をやってちゃんと準拠できるように確認しますとか、言えるようになります。こうすることで、それぞれの企業さんがどこまで対応するか、どこまでやったか、何をやったかをハッキリとさせて、アクセシビリティにコストをかけて頑張ったんだったら、その頑張ったことが正しく評価されることが大事だと考えています。 そのためにうまく運用できるようにJISも作っていますし、そのJISを実際にどう使うかのいろいろなドキュメントの整備も行っているところです。 というわけで、私の話は終わりです。 どうもありがとうございました。