CEATEC JAPAN 2010 ウェブアクセシビリティセミナー 【NT-16】 情報アクセシビリティをめぐる最近の政策と具体化への動き /皆さま、本日は本日は多数ご参加いただきありがとうございます。ただ今より、アクセシビリティセミナーを開催させていただきます。「情報アクセシビリティをめぐる最近の政策と具体化の動き」ということで、情報通信アクセス協議会 電気通信アクセシビリティ標準化委員会委員長 東洋大学経済学部教授、山田 肇様にお願いします。 山田/ご紹介いただきました山田です。 今日は、1時間ほど、この10年ぐらい僕がいろいろ考えたり、やってきたことがどのように具体的に動き出したかというお話をしようと思います。 この席にはアクセシビリティの専門家の方と、非専門家の方がいらっしゃると思いますが、僕としては、CEATECで展示をされている普通の会社の方が突然聞きに来たと想定して、お話することにします。アクセシビリティの専門家の方から見ると、やさしい話をしすぎているところがあるかもしれません。 それから、梅垣さんと植木さんの1つ前のセッションをお聞きになられた方が大勢いらっしゃると思います。先ほどは技術の話をなさいましたが、僕は政治の話をします。技術については細かいことには言及しないで、政治の分野で情報アクセシビリティがどのように動いているかを中心に話します。 なるべくゆっくり話すつもりですが、興奮すると早くなるかもしれません。お許し下さい。 情報通信をフルに活用する情報社会、今そういう時代になっています。僕は大学で教えていますが、どうして受験したのかと聞くと、受験生の大半はインターネットで調べましたとなります。3年生の終わりぐらいから就職活動をしますが、申し込みはインターネットでするのが当たり前になっています。日常生活においても、レストランはネットで探して、クーポンを手に入れて、それでワイン1杯無料とか、2割引きとかでおいしい料理を食べるのが、皆様がたにとって当たり前の行動になっています。旅行の予約もインターネットで行います。1人1人の生活のみならず、企業間の取引も電子化が進捗しています。情報通信を利用できなければ、社会参加ができない時代になっているわけです。 ところがそれにうまく入れない人達がいます。それが、高齢者とか障害者に相当する人たちです。 ご承知のとおり、日本は高齢化先進国です。人口比率で22.7%が65歳以上です。2035年、今から25年後には、3人に1人、33.7%が高齢者になる時代が待っています。 一方で身体障害児・身体障害者の合計は「障害者白書」によれは366万人、人口比率では2.9%を占めています。外国では普通どこの国に行って質問しても、8%ぐらいの答えが多いので、2.9%というのは、とりわけ少ないものになっています。それは、世の中に障害者がいないのではなくて、認定の基準が厳しいためです。障害者と認定されていない障害者が多数存在するのがわが国の現状です。 例えば、情報を見て入手するとか、聞いて入手するとか、様々な情報を入手する機会があります。そのように情報を入手する、或いは情報を発信することを、「情報行動」といいますが、その上でどういうことが障害になるかを調べると、高齢者と障害者は非常に似通った情報入出力のニーズがあることがわかりました。 一例を挙げると、最近はSuicaをご利用ですから駅に行って切符を買う人は少ないのですが、それでも切符を買う人はいます。ところが、高齢者の人が切符を買うのに時間が掛かっている人がいます。銀行のATMだと、もっと時間のかかる人がいます。そういう人の中には、スクリーンやタッチパネルがよく見えないという理由の方がよくおられます。それは、車いすに行ってATMや自動券売機の前にいた時、天井からの光が反射してよく見えないというのと同じニーズになります。 そこで標準の分野では、高齢者と障害者を両方を1つの集団として扱って、それらの人を排除しない社会を実現していくために標準を作る。或いは政策的な課題の設定をして解決していくという、日本では「高齢者・障害者」という言い方が、非常に普通になっています。 情報通信分野では、そういう方々がどういうニーズを持っているか、それに機器・サービスはどのように対応しなければいけないかを、JIS X 8341シリーズ高齢者・障害者等配慮設計指針ということで、作成してまいりました。 1998年だったと思いますが、必要があるということを僕らが大きな声で叫びはじめて、その後、作成作業が行われて、2004年5月にパート1、第1部の共通指針、そのあと、同じ時に情報処理装置、これはパソコンや情報KIOSK、ATMや券売機に適用されるわけです。続いて、ウェブコンテンツ、電気通信機器、携帯電話、電話、FAX等です。事務機器、プリンターやコピー機に対する指針ができあがってまいりました。僕はこの作成の時に、原案作成委員会の委員長を務めるということで、一生懸命作りました。 できあがったところで、いろいろ調べて周りを見渡すと、日本がこういう標準をきちんと作った少ない国々の1つであることがわかりました。じゃ、世界にも貢献するために国際標準にしようということで、それを世界の場に持っていきました。 小さい字で見えないと思いますが、何が書いてあるかと言うと、第一部、共通指針をISOに持っていったところ、ちゃんとそれが原案として採用されて、2008年に国際標準になりました。第2部情報処理機器については今、現在、審議が行われています。第3部、ウェブコンテンツについては植木さんたちの話にも出てきたかもしれませんが、WCAG、Web Content Accessibility Guidelines2.0の中に取り込まれて、既に国際標準になっています。電気通信機器については、第4部ですが、ITU-Tに持っていきました。事務機械は2008年に国際標準になりました。このように日本はアクセシビリティの国際標準化に非常に大きく世界に貢献してきました。 そのように日本は非常に頑張ってきた、規格も作ってきたし、それを国際標準にするのにも努力してきたし、そのために僕もエディターになって、外国の人たちといろいろ意見交換をして、ISOの標準の成文を作ることをしました。そういうことをしてきたのに、実際に世の中を見ると、操作がしにくかったり、全く利用できなかったりするような情報通信機器やサービス、ひっくるめて「製品」といいますが、それがわが国の市場にあふれているわけです。それは一体どうしてなんでしょうか。 規格を作っても使わなければ、ただの紙なんですね。そういう悲しい状況になっている恐れがある、ということです。 では、それはどうしたら突破できるのか。ヨーロッパやアメリカの政府が、情報アクセシビリティを公共調達の基準としはじめたことが、この状況を突破する参考にならないか、考えました。 そこで、2000年から2008年くらいまでは標準を作ることに熱を入れていましたが、その実働は技術の詳しい人にお任せして、僕は政治の側に働きかけの対象を変更しました。これからの話は、ほとんど全部、政治分野で今何が起きているかの話になります。 アメリカでは、リハビリテーション法の508条に基づき2001年6月より情報アクセシビリティ製品を買うことが、連邦政府の義務になっています。 どういう義務か。連邦政府職員、或いは一般市民が連邦政府が用意した製品を使用できない状況が生まれた時は、調達を担当した者に「どうしてこれを買ったのか」と、照会できます。調達担当官は質問が来たら、回答する必要があります。納得できなければ連邦職員或いは一般国民は、裁判所に調達担当官を訴えることができます。 こうなると、アメリカ連邦政府としては、情報アクセシビリティ配慮製品を購入せざるを得ない状況になりますし、企業も、だったらそれに準拠する製品を作ろうと非常に熱心に努力し、準拠をアピールするようになっています。 ここに置いてあるパソコンは、基本ソフト、OSとしてアメリカのシアトルにある会社の製品が使用されています。その基本ソフトウェアでもアクセシビリティに対する設定ができるようになっています。例えば、文字を大きくするとか、白黒反転、実際には色全体を反転させるんですが、白黒反転させるとか。或いはマウスの移動速度を変えるなど、様々な機能がこのOSでも載っています。なぜそんなことをしているかと言うと、シアトルの超巨大企業で基本ソフト市場の90%を握っていたとしても下手をすると連邦政府に買ってもらえなくなるからです。 2001年6月からの義務化は、ドッグイヤーで動く、つまり、技術進歩がものすごく速い情報分野では、陳腐化してきています。2006年から改訂作業が始まり、2008年4月には改訂作業の原案が確定しました。僕はアメリカ連邦政府に言われたので、この委員会に参加して、日本の工業会の方々の意見を伺いながら、貢献してきました。実は今、パブリックコメント、こういう案ではいかがでしょうか?という意見を求めるプロセスが行われています。6月締め切りで1回目のプロセスがあり、今度の1月頃か2月頃に第2回目のパブリックコメントがはじまり、その後、最終調整して政府内で合意を取ります。 3週間くらい前に、担当の連邦政府の人に問い合わせたところ、2011年の終わりか2012年の始めに改訂技術基準が利用されるようになるだろう、とのことでした。 ヨーロッパでは、欧州委員会がアメリカの実例を眺めて、ヨーロッパでも公共調達で義務化しようと考えて、「欧州指令」の準備に取りかかっています。これは、欧州連合加盟国は、すべてその目的を達成する義務を負いますが、達成の方法や形式については、各国に任せることで、法律を作ってもいいし、慣行として守ってもいいということで、様々な方法で実現します。 欧州指令で各国に公共調達を義務化させるためには、欧州標準として、こういう製品は情報アクセシビリティの基準を満たしていると、識別ができる必要があります。その標準を作成する作業が、2007年の6月からスタートしました。最初の1年3か月くらいで、2008年の10月ごろには既に第1期の作業が完了しています。 第2期もすぐにとりかかると言っていたのですが、なぜか非常にグズグズしていて、まだ始まっていません。この前、欧州委員会に聞いたところ、「もうすぐ始まる」と言っていましたが、あやしいもんです。始まれば、1年半ぐらいでできます。同様に2012年頃には公共調達で利用されると思います。 そもそも、どうしてそういう利用できない製品がうまれるのか。 こういう図を用いると、それは容易に理解できます。この図はいわゆる正規分布の図です。横軸には身体機能の能力が書いてあります。真ん中に山があり、左右が低いグラフです。その尖っているところに、大勢の人がいる、という意味です。身体能力が非常に高い人は、世の中にほとんどいません。例えば視力だったら、1キロメートル先のライオンが見える人がいるそうですが、僕には見えないし、この部屋の中にもほとんどいないと思います。 一方で、身体機能の能力、例えば視覚が非常に低い、全盲の方も人口の割合から見れば少ないわけです。大抵の人は、視力が0.6だったり、1.2だったり1.5だったりして真ん中へんに居るわけです。そういう分布で、世の中にマーケットとして存在するわけです。 さて、ここにある企業が登場します。出来る限り大勢の人に利用してもらえるように我が社の主流製品を作ろうと考えたとします。 一生懸命製品を作るわけですが、当然のことながら1キロ先のライオンが見える人は、容易に使うことはできるでしょうし、視力0.8の人も容易に使うことはできるかもしれませんが、視力がだんだんに弱くなってきた、例えば、僕なんかは、メガネを外すと視力が0.1以下になって、パソコンの表示も見えなくなるのですが、僕にメガネが仮にないとすれば、そういう製品は使えないわけです。ですから、主流製品がカバーする範囲というのは、この正規分布の一番山の部分はカバーして、それよりもう少しだけ身体機能の能力が低い人のところまで達することになります。 良心的な企業なので、もっともっとサービスできる、カバーできる範囲を増やそうと努力をするわけですが、そのためには追加的な研究開発費が必要になります。お金がかかるわけです。一方で、そうやって製品を作ったとしても、製品を作ったことによって利益を得る人達の数はどんどん減っていきます。追加される市場の規模はどんどん小さくなります。結果的にこれ以上お金を掛けたらかえって損をするところが出るので、そこが限界となって、主流製品というのはすべての身体能力を持った人に使えるようなものは提供できないということになります。 それを使えない方々には、支援技術が提供されることになります。これはどうしようもない事実ですが、政府が介入をします。そして、我々はこういう要件を製品に要求しますという公共調達要件を宣言することになります。 公共調達要件は、一般的には、企業が普通に努力して限界だと思う限界よりもより左側、つまりより身体機能能力が低い人にも利用できるようなところに設定するのが普通となっています。「そんなものできないよ」ということでも、「ぜひやってください」と政府は言うことになっています。それは企業が「できないよ」と言った限界をより大きく、遠くまでする、グラフで言うと、正規分布の左側までずらそうという意思に基づいた政策です。 これは一見、経済学の合理性を無視したようなものです。でも、実は非常に合理的なものです。 企業の立場では、そんなカバーをする製品を作っても、誰も買ってくれなきゃ困ると言っていたのに、GDPの10%弱の市場での購入が保証されるということが大きなインセンティブになります。企業としては、「だったら開発しましょう」となるわけです。 政府の立場では、そんなことをすると公共調達のときに企業が高い値段で製品を持ち込むことになるので、調達コストは上がるわけですが、支援技術のための福祉予算は削減することができるわけです。 対象となる利用者の立場では、言うこともなく、利用可能な通信機器・サービスは充実していくという大きな利益があります。 これが短期的な利益ですが、中長期的にはもっといろいろな利益があります。 直接的対象ではないと思われがちな国民全体にも効果があります。聴覚障害者の方々は、テレビ放送に字幕を付けて欲しいということを非常に強くおっしゃっていて、それは当然の要求です。実はテレビ放送の字幕は、文字を覚え始めたばかりの幼児には非常に役に立ちます。字幕を付けて、子どもたちに、「おかあさんといっしょ」を見せていると、小さいうちから文字を覚えてくれます。 メールに音声読み上げがついていますが、携帯メールですが、それは、視覚障害者だけではなくて、ながら族も使っています。御飯を食べながら、テレビを見ながら、携帯を脇において、メールが受信したたびにチェックしているようなながら族が、音声を読み上げてくれるとすごく便利だと言って使っています。 もっと大事な話ではありますが、情報通信は、コストが著しく低減されていくものです。 よく20年前のスーパーコンピュータが今のパソコンと言いますが、こういうパソコンが確かに20年ぐらい前のスーパーコンピュータくらいの性能を持っています。では、20年ぐらいまえのスーパーコンピュータのような値段かというと、10万円くらいで今は買うことができます。 それは情報通信分野の非常に特徴的なことです。毎年、どんどん値段が下がっていく。結果的に使える機器やサービスがより安価に提供されるわけで、国民全体の利便が向上していくわけです。 さらに、このCEATECで展示をなさっている会社の方々に説明するつもりで、このプレゼンテーションを作っていますので、あえて3番目を強調しますが、高齢化先進国の日本で市場経験を積まれるということは、ICT産業としては競争力強化に役に立つわけです。 つまり、企業とか政府、国民のみんなが勝つwin-win-winの関係が構築されるわけです。 e-Japan戦略、これは2002年ぐらいの戦略ですが、その段階でアクセシビリティが義務付けられた官公庁・自治体サイトでさえ不備が頻発しています。2007年3月に公表されたすべての府省が守る情報システムに関わる政府調達の基本指針は、準拠するという意思がありません。そうこうしていると、先行者優位の市場ですから、これは最初に投入した製品が市場を制覇してしまって、2番手、3番手は絶対に追いつけず、そういうことが情報通信ではそういうのは当たり前です。特にアメリカのように既に義務化されて、アクセシビリティ配慮製品がシェアを獲得しはじめると日本製品が出せなくなります。 僕としては、調達の義務化が絶対必要だと思っていたところ、2008年の10月に声が掛かりました。内閣官房の電子政府策定ガイドラインの作成検討会というのができたよと。オンライン利用拡大行動計画に基づき、ユーザビリティ向上方策について、政府横断的なガイドラインを作るのでぜひ協力してほしいという話が来ました。 ちなみに、これが出てきた理由ですが、その前、5月に開かれたIT戦略本部の会議で、電子申請の利用率が報告されたところ、当時の福田総理大臣が激怒して、お前達が提供していると言っているのは、本当にこれっぽちしか使われていないのか、数年で倍増する計画を作れと仰って、このオンライン利用拡大行動計画というのができたそうです。あの人がそんなに指導力があるとは思いませんでしたが、この分野では指導力を発揮されました。 電子政府の手続きに応じたガイドライン、ユーザビリティガイドラインは僕に作れと言われたので、アクセシビリティを盛り込みました。各府省はそれに従って電子政府の構築をすすめなければいけない、ことになっています。 共通設計指針のページの中に、情報提供については、言葉使い、メニューの順番や必要な情報の有無に配慮し、必要な情報が容易に理解できるようにする。障害者・高齢者に配慮し、JIS X 8341シリーズやISO/IEC Guide71、みんなの公共サイト運用モデルに準拠するとの2点を盛り込みました。 このガイドラインは、各府省は使わざるを得ない状況です。というのは、このガイドラインの最初の要求が、ガイドラインにしたがって、どのようにユーザビリティを上げていくか、向上にかかわる基本方針を宣言して世の中に公表しなさいとなっています。もうすぐ公表されるはずですが、それが公表されれば、自動的にこのメカニズムが動き出して、JIS X 8341に準拠した設計がされるようになるはずです。棚上げにならないように監視しなければなりませんが、一応そうなっています。 でも、実際には棚上げになる恐れがあります。もっと何かしなきゃいけないと思っていたら、民主党に内閣が替わったあと、与野党が逆転した後、2009年の10月に総務大臣、原口さんがグローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォースを作りました。これは、もっと分かりやすく言うと、自民党時代のICT政策をガラッと変えたいので知恵を貸してください委員会です。 皆さんが目にする部会は、光の道をどうするかの部会で、もう1つはNTTの再編成をどうするか。 地球的課題検討委員会も設けられ、これは慶應の金子郁容先生が座長を務めています。人間中心のICT政策のため、あらゆる場面でICTの利活用の推進をしていく。とりわけ全ての人々にコミュニケーション権利を確保するために、情報リテラシーの向上、チャレンジドによる利活用の促進が書かれています。チャレンジドというのは、原口さんが大好きなことばです。彼はケネディ大統領に心酔して政治家を目指したそうで、彼は「チャレンジド」ということばを使ったそうで、原口さんも使っています。 「全ての人々に……方策を検討」というのは、大臣が自ら書かれたことで、こういうことをしたいので、君たちはその方針を考えてくれ、となりました。僕もこの部会の構成員になったので、あとのスライドで説明しますが、「こうすべきだ」と、強く主張しています。 何を主張したか。立法府で、是非、公共調達法を立法してくださいと強く主張しました。わが国にはこれがかけています、だからメカニズムが動かないと言いました。 この図は、部会でプレゼンテーションした時の資料、そのものです。立法府がまず公共調達の立法をする。公共調達では、「情報アクセシビリティに配慮しなければならない」とする。どういうものが条件を満たしていて、どういうものが満たしていないのかについては、技術標準の準備をする、政府と民間が努力して技術標準を準備する。実際のものはJIS規格として出来ているわけですが、その後、民間が準拠製品を市場に投入する。そして、政府はそれを購入する。 結果的に、ICTの特徴であるので、低廉な製品が市場に普及していき結果として国家全体として全員参加の情報社会が実現する方向に向かう。国民がそれで満足すれば国会議員の選挙では、その人たちを再選するでしょう。再選された議員は公共調達法を何年かに一回見直しをしてより強い条件を付けるようにして下さい。すると、六角形をぐるぐる周りながら、だんだん高いところに上がれる。 これは、国会も動かないといけないし、行政府、政府も動かなければいけないし、民間も動かないといけない。だから総合的政策だと訴えました。 その結果、地球的課題部会の中間とりまとめの段階で、2010年5月には、いろんなものの中に高齢者やチャレンジドへの配慮がなされる社会構築、という言葉が盛り込まれました。情報アクセシビリティの向上ということで、高齢者やチャレンジドを含め情報アクセシビリティへの配慮が不可欠であり、多様な展開をする。高齢者やチャレンジドを含め、誰もがICTを利用できる情報バリアフリー環境を整えるため、公的機関のウェブサイトのさらなる向上や、公共調達におけるアクセシビリティ確保に向けた取り組み状況を把握評価することにより、要件化を推進、という表現を盛り込めました。「要件化」を推進、これは公共調達法を準備するということなので、僕としては、長年言ってきたことが一歩前に進んだと思っています。 その後、原口さんが小沢さんを支援したので、クビチョンパになりまして、それでもこのタスクフォースは生き残ってます。10月5日にCEATEC のオープニングセレモニーに森田政務官が来て、彼はお医者さんであって、高齢者・障害者問題に非常に関心があるそうです。このタスクフォースのやってることは、よく理解したいし、進めたいと思っていると、その場の立ち話で仰ってました。原口さんがいなくなっても政策として実現するように、更に声を上げていきたいと思っています。 さらに、2009年の12月には、障がい者制度改革推進本部が作られました。6月に基本的方向について、ということで基本方針ができました。 これは、総理大臣が本部長の会議ですので、政府全体を拘束する意思決定が行われたわけです。その中には、情報アクセスコミュニケーション保障が明記されました。障害の特性に配慮した情報提供が行われるよう、関係府省が連携し、技術的、経済的な実現可能性を踏まえた上で……平成24年内にその結論を得ると、方針が定まっています。 この障がい者制度改革推進本部は、障害者団体等が参加されています。例えば聴覚障害の団体も参加され、先ほどの字幕放送等についても、いろいろな機会に発言されたとうかがっています。 僕自身は、この本部の会合には参加していませんが、本部事務局には頻繁に出入りし、総務省の動向やアメリカの動向も紹介しながら、こういう分野が必要であることは、いろいろ話をしてきました。これも先々週ぐらいですが、事務局にお邪魔した時は、さしあたり、障害者基本法を通すことが最優先課題なので、具体的課題についての政策展開は、その次の年、ここには平成24年とありますが、2012年になると思うとのことでした。 いずれにしろすでにスイッチは入り、政治は動き始めています。原口さんのタスクフォースだとか、障がい者制度改革推進本部や、電子政府策定ガイドライン作成検討委員会など、政治的に動いているわけですが、当然ながら技術の面ではそれをどう担っていくことは重要な課題となっています。今日は残りの時間で、Webと、「変身」カードの話をしたいと思います。 Webはなぜ焦点になるのか。梅垣さんや植木さんもお話されたように、とても重要なのは何かというと、あらゆる情報提供の基盤となりはじめたからです。情報KIOSKでも、クラウドコンピューティングでも、いつでも何らかの形で、駅前の大型ディスプレイ、モニタでもWeb技術が使われています。Webコンテンツは日々更新され、アクセシビリティも時には不完全になりますが、提供を続けていきながら修正していくことで改善されていく生き物のような存在です。 他の、例えば、この携帯電話を作ったら、アクセシビリティについてはこの機能になりました、でThe end。これに対してWebは、生き物として日々改善ができるので、重要なものとなっています。 この前のセッションで伺ったと思いますので、短くすませますが、それについてのWebコンテンツのガイドとなるX 8341-3のJIS規格の特徴は技術非依存と試験可能性です。 技術非依存というのは、特別なこの実装方法で作りなさいということが一切書いていません。どうしてそういうのを書かなかったかと言うと、技術はどんどん進歩するので、今の技術で世の中を固定するのは間違いで、技術については言及しないで基準を作ろうということになりました。 そうやって標準ができたんですが、従って実装するのが難しくなったので、付随する情報を提供する必要があるということで、情報通信アクセス協議会に東京女子大の渡辺先生を委員長として、梅垣さんや植木さんが副委員長になられたウェブアクセシビリティ基盤委員会ができて、解説や情報、テストファイルや実装方法等、様々なものを提供しているようになっています。 それだけでは、充分ではないわけです。なぜなら、そのことで公共サイトを構築しようと思ったら、公共サイトの運用責任者はたいてい広報広聴課長がやっていますが、広報課長としては、何をやったらいいかよくわからない、技術がないので、ベンダーに発注する際には「JISに準拠せよ」ということになりますが、それだけではどうにもいいWebサイトはできません。そもそも、選挙で当選した首長、知事であったり市長、村長であったりは、総責任者としてすべての市民が利用できる情報提供、情報収集の道具としてWebサイトを提供する義務があるはずです。或いは、提供しなければ選挙に落ちるはずです。 どのように基本方針を提示したら良いでしょうか。生き物としてWebが毎日更新されていくときに、しかも広報広聴課だけでページを更新するのではなく、100も200もあるいろいろな課で勝手気ままに情報を更新する時、日常の運用で何に留意してどんなアクションを取ったら公共サイトとしてのアクセシビリティがあるレベルを維持できるでしょうか。 そういうことを考えて、みんなの公共サイト運用モデルを総務省が作ったんですが、2005年版で古くなっています。JIS規格も改正されたので、2010年版を作ろうということで、運用モデルの改訂作業委員会ができました。また、僕が委員長をやっています。 僕が今一生懸命やっているのは、地方公共団体等がウェブアクセシビリティに実施すべき取り組みを明示する。地方公共団体等の職員等が理解し、活用しやすい構成内容に改良する。前は附属資料まで入れると300ページぐらいありましたが、20ページに減らそうとしています。JIS X 8341-3の2010年版と関連する基盤委員会等が提携する文書と連携をとって、技術については深く書き込まないで、むしろPDCAサイクルといいますが、自治体としてWebアクセシビリティを企画し、実施し、それを評価し、それによって次のアクションを取る、そういうものについての記述を多くしようとしています。 地方公共団体がそういうことをするのは、とてもいいことです。どんどん進めて欲しいですが、それは地方公共団体だけに留まるべきではないと思いますので、特定非営利活動法人として、ウェブアクセシビリティ推進協会、JWACを発足させ、理事長になりました。このJWACでは、日本のWebアクセシビリティの品質を維持・向上させていく事業、あるいはWebアクセシビリティの普及、啓発活動。あるいはさらに向上させるための調査・研究活動。あるいは諸団体との提携協力を実施して、世の中全体として、まずは自治体等、あるいは政府本体、霞が関が先行するかもしれませんが、民間もそれに追随していけるよう環境整備のために、お役に立とうと思っています。 さて、Webサイトというのは、通常は、1つのサイトでありとあらゆる人が利用します。全ての利用者が改造しないで、なるべく利用できるようにしたほうが良いし、どうしても利用できない場合は支援技術を接続し、利用するようにしようというのがWebの基本です。 例えば、電車の駅、これはすべての人が利用するので、誰でもが利用できる必要がある。でも、利用できない人がいる。移動に問題を持っている人は利用できないわけです。そのためには、エスカレーターやエレベーターを作って皆が使えるようにしようということです。 ところが、情報通信機器の場合、それ以外にも情報アクセシビリティを満たす方法があります。それが個々の利用者のニーズに合わせて設定を変えられるようにする。あるいはすべての利用者のニーズをカバーする一連の機器またはサービスを提供する。 今の設定を変えられるというのは、次のスライドから実例をご紹介しますので、一連のほうを先にお話しすると、まさに携帯電話がそうです。NTTドコモがらくらくホンを提供しています。NTTドコモの利用者全員がらくらくホンを使っているわけではありません。ある人は、スマートフォンを使い、ある人は他の携帯電話を使っています。ドコモ利用者の1割くらいはらくらくホンを使っているわけです。いろんな種類の携帯電話があれば、僕はこれ、私はこれが使いたいというニーズに合わせて提供できればいい。それも情報アクセシビリティを満たす重要な方法の1つです。 さて、それでは利用者のニーズに合わせて設定を変えられるというのは、具体的にどういうことか、次にお話しします。 今、キャッシュカードにはICがついていますね。これが増えています。挿入するICカードに利用者のニーズを記録すれば、券売機やATM端末には対応できます。 例えば、私は普通の文字でよい、という場合はATMに差し込むと黄色い画面で青い色で「預入」と表示される。白黒反転で地の色を逆転させてほしいと要求すれば、青い地に白い文字で「預入」と表示され、黒い文字を見るより見やすくなります。でももっと文字を大きくしてほしいと言えば、そうもできる。英語にしてくださいという場合、英語で読みたいと入れれば、depositと表示される。 どういう使用言語がいいか、どういう文字サイズやコントラストや速度を希望しているか、どういう音量や速度を希望するか、どんな入出力方法か。あるいは、グズグズしてると時間切れになるが、タイムアウトになる時、どこまで待ってほしいかも入力しておけばいい。或いは指紋の照合が必要なら、指紋がない人、指が欠損している人には操作できないですが、バイオメトリック照合するなら、網膜の模様をと指定しておけばいいわけです。 こうすれば、みんなが使う券売機やATMでも、その人が差し込んだ瞬間だけ、そのニーズに対応できるわけです。実はこれは、ATMに負担がかかりますが、それは、一番最初に話したシアトルの会社のOSがほとんどのATMに載っていますので、OSの機能でほとんどカバーできます。 既にISOで標準化の最終段階に入っていますが、2008年の6月に日本の有志の方々が提案したところ、欧州諸国が圧倒的に支持して下さったそうです。 どうしてか、というとスウェーデンとかドイツなど北のほうに住む人は、夏休みにイタリアやスペインに行きます、暑いところにいって、銀行でお金を引き出そうとカードを入れても、どれが預け入れかどうか分からない。イタリアではドイツ人が分からない。言語に問題を抱えていた人が、「僕はドイツ語の表示がほしい」とICカードにそういう情報を入れておけば、イタリアのATMでもその場でドイツ語表記にできるという話をしたら、凄くよろこび、どんどん標準化が進んでいるそうです。 そうすると日本語表記を望んでいる男が、ヨーロッパの中で、こことここで使ったなど、僕が旅行してることが認識されてしまうが、利用者のニーズを個人の認識に利用してはいけない。障害の種類そのものをデータ要素としないということで、標準化が進んでいます。来年には成立の見込みです。 これが成立したとして、どうやって普及したらいいでしょうか。 課題は普及です。シナリオにはいくつかあって、シナリオ1は、障害の特性に応じたもの、障がい者制度改革推進本部の基本方針に則っていると認定し、住民票などの自動発行機で利用することです。シナリオ2は、銀行なら全銀協がありますが、そこでみんなに審議してもらい、合意を取って、すべてのATMに装備するのがシナリオ2。シナリオ3は、企業が差別化に活用すること。 我が銀行のATMは使いやすいですよ、我がコンビニATMを使うと、文字が大きくなったり音声で案内するインターフォンの位置もご案内しますよ。そうすればもしかするとコンビニ銀行の利用者が増えるかもしれません。 シナリオ1が王道ですが、僕はシナリオ3に踏み出すビジネスセンスが欲しいと思っています。実際に「変身」カードと勝手に呼んでいますが、あるコンビニ銀行にご説明に伺ったところ、「これはすばらしいので是非やりたいですが……」その後が致命的ですが、「我がコンビニ銀行の利用者の95%が他の銀行の利用者です。便利だと思ってくれる人がすごく限られるのでまだ、導入しない」と言われました。我がコンビニ銀行はこんなに使いやすいので大手の銀行はやめましょうと宣伝したほうがいいと思いますが。そういうビジネスセンスが求められると思います。 ということで、前のセッションはWebのアクセシビリティの技術の話でした。僕はそうではなく政治の話をしています。 この時間で、情報アクセシビリティへの政策的な関心が、高まってきたこと、とりわけ民主党政権でその動きが加速したことをお話ししました。ユーザビリティガイドラインについては、府省が既に実行しなくてはいけない状況です。いわゆる原口さんのタスクフォースとか、障がい者制度改革推進本部での議論は、中間段階なので、法律になるには1年〜3年かかると思います。でも、数年のうちに企業は対応を求められるので、CEATEC で展示されているような企業は、是非いまから準備されるのがいいと僕は思います。 上意下達のわが国では、何でもかんでも、政府だよりになる傾向がありますが、企業はビジネスチャンスだと思って、速やかに行動したほうがいいと僕は思います。 先ほども言いましたが、最初に市場投入した製品が、市場を制覇するというのが現実です。携帯型音楽プレイヤーとか、タッチパネル式のスマートフォンとかでアメリカの会社の製品が市場を牛耳っているのはご存じの通りです。そこの展示ホールを見ると、それにそっくりのタッチパネル式のスマートフォンも展示されていますが、なかなか元気がでない、なぜなら先行者優位の市場があるからです。だから1年遅れは致命的です。是非、企業の皆さまがた、真剣に情報アクセシビリティについて考えて取り組んでいただければと思います。 非常にいろんな話をしましたが、政治分野で、今どういう具体的な話があるかのご説明をこれで終わります。どうもありがとうございました。 /山田先生、どうもありがとうございました。 数分時間があります、ご質問ある方? それでは、今一度大きな拍手をお願いします。 これをもちまして、情報通信アクセシビリティセミナーを終了いたします。本日の資料は情報通信アクセス協議会のホームページにアップしますので、そちらをご覧ください。