(公開レビュー)第X部:電気通信機器JIS素案 2004/11/15 (高齢者・障害者等配慮設計指針− 情報通信における機器,ソフトウェア及び サービス−第X部:電気通信機器) まえがき この規格は,工業標準化法第12条第1項の規定に基づき,■■原案作成団体名■■(@@団体略称@@) から,工業標準原案を具して日本工業規格を制定すべきとの申出があり,日本工業標準調査会の審議を経 て,■■主務大臣名■■大臣が制定した日本工業規格である。 JIS X 8341-Xには,次に示す附属書がある。 附属書1(規定)固定電話機の基本機能と配慮事項 附属書2(規定)携帯電話機の基本機能と配慮事項 附属書3(規定)ファクシミリの基本機能と配慮事項 附属書4(規定)テレビ電話機の基本機能と配慮事項 附属書5(参考)固定電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント(PDF版をご覧ください) 附属書6(参考)携帯電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント(PDF版をご覧ください) 附属書7(参考)ファクシミリの基本機能に関する障害別配慮ポイント(PDF版をご覧ください) 附属書8(参考)テレビ電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント(PDF版をご覧ください) 附属書9(参考)高齢者・障害者の心身機能等の特性と問題点 附属書10(参考)他の規格との位置付けについて 附属書11(参考)関連規格 JIS X 8341の規格群には,次に示す部編成がある。 JIS X 8341-1 高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス− 第1部:共通指針 JIS X 8341-2 高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス− 第2部:情報処理装置 JIS X 8341-3 高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス− 第3部:ウェブコンテンツ 目 次 ページ 序文 1 1. 適用範囲 2 2. 引用規格 2 3. 定義 2 4. 基本原則 2 5. 企画・開発・設計における要件 2 5.1 開発プロセス 3 6. 共通要件 4 6.1 操作に関する原則 4 6.2 用語・表記に関する原則 10 6.3 身体の安全に関する原則 11 6.4 情報セキュリティに関する原則 12 6.5 コンテンツの保護に関する原則 12 6.6 設置・接続・設定に関する原則 12 6.7 代替手段に関する原則 13 6.8 インタフェース仕様の標準化と公開に関する原則 13 7. サポートに関する要件 13 7.1 取扱説明書 13 7.2 電気通信アクセシビリティ情報の公開 14 7.3 教育 14 7.4 サポート窓口の設置 15 附属書1(規定)固定電話機の基本機能と配慮事項 16 1. 固定電話機の基本機能と配慮事項 16 1.1 固定電話機の基本機能  16 1.2 基本的な配慮事項 16 2 操作ボタン及びテンキー 16 3 送受話器 16 4 液晶ディスプレイ等の表示装置 16 5 印刷された表示 16 6 受話音 16 7 着信音(メロディ,リンガー等) 17 8 報知音及び音声ガイダンス 18 9 動作の確認 18 10 使用準備 18 附属書2(規定)携帯電話機の基本機能と配慮事項 19 1. 携帯電話機の基本機能と配慮事項 19 1.1 基本的な配慮事項 19 2. 本体の形状 19 2.1 形状及びバランス 19 2.2 片手での開閉 19 2.3 机上での操作 19 2.4 本体据え置き 19 2.5 ハンズフリー 19 2.6 ストラップ 20 2.7 卓上ホルダ 20 3. ボタン,キー,及びスイッチ 20 4. 液晶ディスプレイ等の表示装置 20 5. 印刷された表示 21 6. 音声読み上げ 21 7. 報知音と音声ガイダンス 21 8. 受話音 21 9. 動作の確認 22 9.1 状態の確認 22 9.2 動作の通知 22 10. 外部インタフェース 22 10.1 外部入力機器との接続 22 10.2 外部表示機器との接続 22 附属書3(規定)ファクシミリの基本機能と配慮事項 23 1. ファクシミリの基本機能と配慮事項 23 1.1 ファクシミリの基本機能 23 1.2 基本的な配慮事項 23 2. 操作ボタン及びテンキー 23 3. 「スタート」,「ストップ」及び「コピー」ボタン 23 4. 液晶ディスプレイ等の表示装置 23 5. 操作部形状 23 5.1 原稿挿入口 24 5.2 原稿ガイド 24 5.3 原稿排出口及び記録紙排出口 24 5.4 記録紙の確認 24 5.5 メンテナンス用カバー 25 5.6 インク及びロール紙などの取り付け 25 6. 報知音及び音声ガイダンス 25 7. 動作の確認 25 附属書4(規定)テレビ電話機の基本機能と配慮事項 27 1. テレビ電話機の基本機能と配慮事項 27 1.1 テレビ電話機の基本機能 27 1.2 基本的な配慮事項 27 2. テレビ電話機特有の操作ボタン及びテンキー 27 2.1 「通話開始」「テレビ電話開始」「切断」ボタン 27 3. リモコン 27 4. 液晶ディスプレイ等の表示装置 28 5. 映像 28 6. カメラ 28 7. ハンズフリー 28 8. 動作の確認 29 9. 設置及び設定 29 附属書5(参考)固定電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント 30 附属書6(参考)携帯電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント 32 附属書7(参考)ファクシミリの基本機能に関する障害別配慮ポイント 37 附属書8(参考)テレビ電話の基本機能に関する障害別配慮ポイント 40 附属書9(参考)高齢者・障害者の心身機能等の特性と問題点 42 序文 42 1. 高齢者・障害者の特性 42 1.1 視覚 42 1.2 聴覚 42 1.3 触覚 43 1.4 手の動き 43 1.5 筋力 43 1.6 下肢の動き,筋力及び車椅子の使用 43 1.7 身体構造 44 1.8 認知及び記憶 44 1.9 発声 44 1.10 体格 44 1.11 障害の重複 44 1.12 先天的障害と中途障害 45 2. その他の問題点 45 2.1 アレルギー 45 2.2 文化及び言語の差異と初心者 45 附属書10(参考)他の規格との位置付けについて 46 1. 本規格の位置づけ 46 2. 上位規格との関係 47 3. 他の個別規格との関係 47 4. 海外の規格との関係 48 5. その他の規格との関係 48 附属書11(参考)関連規格 49 解説 ヒューマンファクターとは 50 解説 51 日本工業規格(案) JIS X 8341-X:0000 高齢者・障害者等配慮設計指針− 情報通信における機器,ソフトウェア及び サービス−第X部:電気通信機器 Guidelines for older persons and persons with disabilities- information and communications equipment,software and services- Part X: Telecommunications equipment 序文 この規格は,主に高齢者,障害のある人々及び一時的な障害のある人々が,電気通信機器を利用す るときのアクセシビリティを確保,向上するための指針として,JIS Z8071(高齢者及び障害のある人々の ニーズに対応した規格作成配慮指針),JIS X 8341-1:2004(高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信にお ける機器,ソフトウェア及びサービス−第1部:共通指針)に基づいて作成されたものである。 移動体通信やインターネットなどの情報通信技術のめざましい発展により,高齢者や障害者を含む多く の人々が,日常的に電気通信サービスを利用するようになってきた。これらは,従来の音声を中心とした 通信から,電子メール,ウェブコンテンツの閲覧,テレビ電話など,様々なメディアの複合的な通信に拡 大してきており,一面として電気通信のバリアフリー化にも貢献している。 その一方で必然的に生じる電気通信機器の多機能化や複合化,小型化によって,新たなバリアを生む可 能性もあり,電気通信機器を企画・開発・設計するときに,高齢者や障害のある人々に配慮することの重 要性が増してきている。 この規格は,主に高齢者,障害のある人々及び一時的な障害のある人々が,様々な電気通信サービスを 利用する際に使用する電気通信機器のアクセシビリティを確保,向上するために配慮すべき事項について 規定している。 本規格は,電気通信機器以外の電気通信に関する設備,及び電気通信サービスは対象としていない。 なお,電気通信アクセシビリティを確保するためには,利用者が直接操作する電気通信機器に対する配 慮だけでは解決が困難で,電気通信機器以外の電気通信に関する設備や,それらの使用方法としてのソフ トウェア等を含んだ電気通信サービス全体で解決すべき課題もある。 さらに本規格は,電気通信機器の中でも,利用者が家庭や職場で,あるいは個人で携帯して使用する電 気通信機器を主な対象として規定している。また,既存の機能が複合化した電気通信機器,公衆用や特殊 用途の機器,電気通信サービスを利用することが主たる目的ではないがネットワークに接続して使用する ことが可能な電気通信機器などについても,適用できるように策定した。 1. 適用範囲 この規格は,主に高齢者,障害のある人々及び一時的な障害のある人々(以下,高齢者・ 障害者という。)が電気通信機器を利用する際のアクセシビリティを確保し,向上させるため, これらの機器を企画・開発・設計するときに配慮すべき事項について規定する。 備考 複合した新概念の製品について 従来の電気通信機器に当てはまらない新しい概念の複合製 品が開発されているが,それらの製品群も,この規格に従うことが望ましい。ただし,今後そ れら特定製品群に関する規格類が制定された場合は,その規格を参照する。 2. 引用規格 次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成 する。これらの規格のうちで,発行年を付記してあるものは,記載の年の版だけがこの規格の規定を 構成する。発行年を付記していない引用規格は,その最新版(追補を含む。)を適用する。 JIS X 8341-1:2004 高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及び サービス−第1部:共通指針 3. 定義 この規格で用いる主な用語の定義は,JIS X 8341-1:2004 高齢者・障害者等配慮設計指針− 情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス−第1部:共通指針 によるほか,次による。 a) 電気通信機器 電気通信に関する設備の中において,電気通信サービスの利用者が直接操作する機器。 b) 電気通信アクセシビリティ 主に高齢者・障害者が電気通信機器及び電気通信サービスを支障なく操 作又は利用することが可能であること。 c) 電気通信サービス 電気通信に関する設備を用いて利用者に提供される便益。 4. 基本原則 電気通信アクセシビリティを確保し,向上させるために,すべての電気通信機器が守らな ければならない基本原則を次に示す。 a) 電気通信機器を企画,開発,設計及び提供するときは,その基本機能を特定の感覚機能,身体機能, 又は身体構造に依存せず,可能な限り高齢者・障害者が操作又は利用できるようにする。 参考 感覚機能,身体機能,及び身体構造の詳細は,附属書9(参考)高齢者・障害者の心身機能等 の特性と問題点を参照する。 b) 電気通信機器が単独では電気通信アクセシビリティを確保できないときは,オプション製品と他の製 品,高齢者障害者支援技術,或いは電気通信サービスと組み合わせて電気通信アクセシビリティを確 保できるようにする。 c) 提供する電気通信アクセシビリティに関わる機能の実現に際しては,利用者の心身の安全性を確保す る。 d) 提供する電気通信アクセシビリティに関わる機能の実現に際しては,情報セキュリティを確保する。 e) 知的能力や記憶などの認知機能に過度の負担をかけることなく,可能な限り電気通信機器を利用でき るようにする。また,文化の差異並びに言語の違いがある場合,及び初めて操作・利用する場合にお いて,可能な限り電気通信機器を利用できるようにする。 5. 企画・開発・設計における要件 電気通信機器の電気通信アクセシビリティを確保・向上させるため には,電気通信アクセシビリティ開発者は,電気通信機器がこの規格に規定する要件に配慮して企画・ 開発・設計しなければならない。 また,経営者・開発責任者は,アクセシブルな電気通信機器の企画・開発・設計に十分な意識をもち, 具体的な電気通信アクセシビリティに関する方針を持たなければならない。 備考 電気通信アクセシビリティ開発者とは,アクセシブルな電気通信機器,ソフトウェア及びサービスを 企画・開発・設計する個人,組織,及び企業を指す。 5.1 開発プロセス 電気通信アクセシビリティを確保・向上させるためには,本規格の全般的な方針を 理解した上で,以下に定義される基本方針と開発プロセスに関する活動を実施し,このプロセスを目標 達成まで繰り返すことが望ましい。 5.1.1 基本方針 a) 開発製品が対象とする高齢者,障害者等を開発プロセスに参加させる。 b) 操作手順ごとの配慮必要の有無と配慮内容を把握する。 c) 利用者の要求する項目を配慮した製品仕様を決定する。 d) 開発及びユーザ等による評価を繰り返す。 5.1.2 開発プロセスに関する活動 a) 利用の状況の把握 開発製品が対象とする高齢者,障害者等の心身機能等及び機器利用に関する知識, 経験,要望等を把握する。 高齢者や障害者は機器を利用する際,環境による影響や制限を受けることが多いので,対象とする高 齢者や障害者が機器を利用する際の環境を把握する。 操作手順に沿ったチェックリストを作成し,対象とする利用者が機器を利用するために配慮すべき事 項を整理,検討,確認などを行う。 例 附属書5(参考)固定電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント,附属書6(参考)携帯電話機の 基本機能に関する障害別配慮ポイント,附属書7(参考)ファクシミリの基本機能に関する障害別配慮 ポイント,附属書8(参考)テレビ電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイントに示す個別の機器に 関する“基本操作に関する障害別配慮ポイント”の表は,代表的な電気通信機器の基本機能に関する 基本操作を手順に従って並べ,利用者が操作する際の,心身機能等の特性に応じた配慮の必要性の有無 をチェックしたものであり,企画,開発,設計段階で検討を行う際の標準的手法の一例として示した ものである。 b) 利用者と情報アクセシビリティ開発者の要求事項の把握 開発製品が対象とする高齢者,障害者等の 利用者の範囲を特定する。 対象とする利用者間での要求項目の優先順位を設定する。 対象とする利用者が基本機能を利用できることを確認するために,操作手順に沿ったチェックリス トで配慮事項の整理,検討,確認などをする。 関係する法律や基準等で示される要求項目を把握する。 c) 設計による解決案の作成 本規格に記載の具体的な配慮要件,解決のための例や参考事項,人間工学 や認知工学等の既存知識を利用する。 シミュレーション,モデル,モックアップ等を使用し解決案を具体化する。 d) 要求事項に対する設計の評価 対象とする利用者層にプロトタイプを提供し評価を受ける。 評価結果をプロトタイプにフィードバックし解決案の改善を行う。対象とする利用者と電気通信アク セシビリティ開発者が要求する仕様が達成されたことを確認する。 6. 共通要件 電気通信機器において配慮すべき共通要件は以下による。また,固定電話機,携帯電話機, ファクシミリ及びテレビ電話機の4つについては,共通要件に加えて機器個別に配慮すべき要件を, 附属書1(規定)固定電話機の基本機能と配慮事項,附属書2(規定)携帯電話機の基本機能と配慮 事項,附属書3(規定)ファクシミリの基本機能と配慮事項,附属書4(規定)テレビ電話機の基本 機能と配慮事項 に示す。 6.1 操作に関する原則 6.1.1 レイアウト レイアウトは次による。 a) 操作ボタン,キー,電源スイッチなどは,利用者の思考過程や行動特性,操作の順番を考慮してわか りやすく,また,操作しやすく,誤入力しないように配置しなければならない。 参考1. 視覚障害,加齢による視力低下などのために,操作ボタン,キー,電源スイッチなどの位置が見 にくい場合がある。 参考2. 筋力低下,麻ひ(痺),手の震え,不随意運動などのために,操作ボタン,キー,電源スイッチ などを正確に押すことが難しい場合がある。 b) 操作ボタンが多数ある場合は,視覚や触覚で識別しやすくしなければならない。 例 形,位置及び色等で機能別にグループ化する。 参考1. JIS Z8071:2003 高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針 参考2. 視覚障害,加齢による視力低下,指先感覚の麻ひ(痺)や皮膚感覚の鈍化のために,操作ボタン, キー,電源スイッチなどの位置及び機能がわかりにくい場合がある。 c) 画面内に表示される操作ボタン類やテキストなどは,利用者の思考過程や行動特性,操作の順番を 考慮してわかりやすく配置しなければならない。 参考1. 利用者の視線は,一般に左上から右下に向かって移動する。画面内のボタンやテキストは,左から 右へ,上から下に配置するとわかりやすい。 例1. ディスプレイ部のテキストやコントロールをボタン類で選択・操作する場合は,それぞれの配置だけ でなく総合的に配置を考慮する。 参考2. 加齢などによって記憶力が低下している場合,操作手順や画面の内容を正確に記憶することが困難な 場合がある。 例2. 操作手順や画面の内容を記憶していることがそれに続く操作に必要な場合には,それまでに行った 操作手順を表示したり,画面内容を再提示したりする。 参考3. スクリーンリーダは,表示画面上の配置とは無関係に,ソースプログラムに記述された順番で読み上 げることがある。 6.1.2 保持 機器全体もしくはその一部を手で保持して操作する機器は以下による。 a) 手で保持しやすいように,形状,材質,重量バランスなどに配慮しなければならない。 b) 手で保持した状態で,操作しやすくなければならない。 c) 左右いずれの片手だけで操作できなければならない。 d) 手で保持しなくても操作できることが望ましい。 6.1.3 操作 操作は次による。 a) 操作の一貫性 操作手順には,利用者の思考過程や行動特性を考慮して,わかりやすく一貫性をもた せなければならない。 参考1. 類似した機器で使い慣れた操作と大きく変更がなければ,操作を新たに理解・記憶しなくても,容易 に類推して操作することができる。 参考2. 操作手順が従来の機器と異なる場合であっても,インタフェースの改善によって操作性を向上できる 場合がある。 参考3. 加齢などによって記憶力が低下している場合,操作手順や画面の内容を正確に記憶することが困難な 場合がある。 参考4. 身体障害を補完する支援機器を利用する場合,操作効率が低下する場合があるので,一貫性があると 操作を効率的に行える。 例1. 片手だけでも一貫して入力できる。 例2. 音声合成を利用する場合,音声のみで一貫して情報が取得可能とする。 例3. メニュー対話方式を利用する場合,一貫して操作できる。 参考5. JIS Z8524:1999 人間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業−メニュー対話 b) 誤操作の防止 視覚,聴覚などの感覚機能,筋力などの身体機能,指の形などの身体構造,文章の理 解力などの認知機能の程度によらず,誤操作しないように配慮しなければならない。 例1. 各種の操作キーがある場合には,視覚的にわかりやすくするために,操作キーの配置,配色,コント ラスト,形状の変更,各操作キーに説明文字を印刷するなどの配慮をして設計する。 例2. 利用者に応答を求めるときには,簡潔でわかりやすい表現を用い,文字であれば読みやすい大きさの 文字を用いる。音声であれば,明瞭な口調で,聞取りやすい音量などに配慮して設計する。 例3. 利用者が,画面の文字サイズ,配色,コントラスト,音声ガイダンスや報知音の音量,速度などを, その機器本体又は補助手段を用いて変更できるように設計する。 例4. 視覚に障害がある利用者には,操作の基準となる位置のキーに凸記号表示を付けたり,キーに触れる とそのキーの名称や機能の読み上げを行うなど,触覚又は音声で正しいキーがわかるように設計する。 例5. 用紙やインクリボン等の消耗品の補充や交換,周辺機器,装置は正しく設置できるようにする。 また,方向性のあるものは正しい方向でしか,設置,挿入できないように設計する。 例6. 緊急通報等の機能を提供する場合は,誤操作を防止するように配慮する。(脚注:長押しはない方が 望ましい。高齢者は長押ししやすい。) c) 誤操作の取り消し 誤操作はできるかぎり復旧できるようにしなければならない。 例1. 複数回の操作を1回ずつ取り消し,操作前の状態に順に戻れる機能をもつ。 例2. 誤操作が取り消しできないときは,利用者に操作の確認を求める。 例3. 階層メニューの選択を誤ったときに,初期メニューに戻ることができる機能をもつ。 d) 初期状態への復帰 操作の途中でも,簡単な操作で初期状態に戻ることができるようにしなければな らない。 例 メニュー操作中に,操作がわからなくなった場合,初期メニューに戻ることができるようにする。 e) 確認機能 基本操作については,視覚,聴覚など複数の感覚に対応した確認機能を提供しなければな らない。 例1. 以下の確認機能を提供する。 ・電気通信機器が使用できるかどうかの確認 ・回線が利用できるかどうかの確認 ・電気通信機器が使用できなくなることが予見できる場合,その内容の告知 ・意図した入力ができているかの確認 ・操作結果の確認 参考1. 情報が視覚的に表示されているだけでは,視覚障害や画面を見ることのできない利用環境においては, その内容を把握できない場合がある。また,情報が音声だけで告知されているだけでは,聴覚障害,騒 音環境及び音を出力できない利用環境においては,その内容を把握できない場合がある。モードが変化 することを複数の手段で提供されていることは,多様な利用環境,記憶や認知に関して障害のある利用 者にとっても有効である。 例2. 電源を入れ操作可能となった場合,画面表示以外に音声や振動で知らせる手段を提供する。 例3. 電池切れの可能性を知らせるために,電池の消費状況は,画面表示以外に音声や振動でも確認できる。 例4. 数値しか入力できない入力エリアに誤って文字を入力したような場合のエラーメッセージは,単に報知 音を出すだけでなく,聴覚に障害のある利用者でも認知可能な手段で提供する。 例5. 画面に警告メッセージを出した場合,それが音声や振動などにより視覚に障害のある利用者に対しても 理解できる。 例6. 通話が可能な状態であるかどうかを音声だけでなく,振動や視覚的にも識別できるようにする。 例7. モードの変化を示す報知音はオン時間0.5秒,オフ時間0.2秒のパターンを5回繰り返す。 参考2. JIS S0013:2002 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の報知音,JBMS-71:2004 事務機器− 報知音 参考3. 使用可能ではない状態とは,電源が入っていない状態,回線が使用できない状態又は,別の動作を実行 中で操作を受け付けない状態などが考えられる。 f) 開始及び終了 電気通信機器の使用開始及び終了は,利用者自身によって操作できるようにしなければ ならない。 参考 電気通信機器の使用開始と終了操作を,利用者が独力でできない場合がある。 例 電源スイッチの位置,大きさ,形,操作方法などに対して配慮する。 g) 異常時の操作 異常が発生した場合でも,できるかぎり利用者自身によって操作可能な状態に復帰でき るようにしなければならない。 例 電源をオフにしてから再度オンすることで初期状態にもどる。 参考 強制終了又は再起動を行うことによっても電気通信機器に悪影響がなく,異常になる操作の前の状態に 復帰できるようにする。 h) 時間制限 一定の時間内に利用者から入力を求める際に,できる限り利用者が制約時間の調節ができる ようにしなければならない。又は,時間的な制約がある旨を事前に告知しなければならない。 参考 加齢などによる認知・理解力の低下,視力低下による画面の見えにくさ,筋力低下,麻ひ(痺),手の 震え,不随意運動などのために,応答の入力に時間がかかる場合がある。 例1. 情報提示,入力確定に時間制限を設けない。 例2. 入力した電話番号を確認してから発信できる機能を有する。 i) 出力の調整 音響出力,振動出力,画面点滅などの出力は,高齢者・障害者にも出力レベル,程度等を 調整できるようにしなければならない。また,その出力を知覚・認知できない利用者にも調整できるこ とが望ましい。 参考 聴覚障害のある利用者の場合,電気通信機器から大きな音が出ていて周囲へ迷惑を与えていてもわから ないことがある。視覚障害のある利用者にはわからないが,画面の点滅は周囲の人の気を散らすことも ある。振動も周囲への悪影響のない程度にする必要がある。このような状態が障害のある利用者にもわ かり,周囲へ悪影響がないように調整できるようにする必要がある。 6.1.4 ボタン,キー,及びスイッチ ボタン,キー,及びスイッチは以下による。 a) 操作ボタン,キー,電源スイッチなどは操作しやすい大きさ,形状にしなければならない。 参考1. 筋力低下,麻ひ(痺),手の震え,不随意運動などのために,操作ボタン,キー,電源スイッチなどが 操作しにくい場合がある。 参考2. JIS Z8071:2003 高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針 b) 類似した形状や色の操作ボタン,キーが多数ある場合は,それらを識別できるよう視覚や触覚による手 がかりを付加しなければならない。テンキーがある場合は,“5”に凸点をつけなければならない。 参考1. 視覚障害,加齢による視力低下及び指先感覚の麻ひ(痺)や鈍化のために,操作ボタン,キー,電源ス イッチなどの位置がわかりにくい場合がある。 参考2. JIS S0011 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の凸記号表示 参考3. 「5」の凸点は他のボタンを予測するための基準になるため,ボタンの中央部に凸点を配置することが 有効である。 c) 操作ボタン,キー,電源スイッチなどを入力できたことが,視覚的表示だけでなく音などできるだけ多 様な手段で,確認できなければならない。 参考1. 指先感覚の麻ひ(痺)や鈍化のために,操作ボタン,キー,電源スイッチの入力ができたことが感覚的 に確認しにくい場合や,視覚障害,加齢による視力低下のために操作ボタン,キー,電源スイッチの位 置や入力確定の状態,キーリピートの様子などがわからない場合がある。 例1. キー入力確定時に音,音声などをフィードバックできる機能を設ける。 例2. 入力した結果がディスプレイ等の表示により確認できる。 例3. 入力を確認する報知音(入力確認音)はオン時間0.1秒とする。 例4. 入力の無効を示す報知音(入力無効音)はオン時間0.1秒,オフ時間0.1秒,オン時間0.5秒とする。 参考2. JIS S0013:2002 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の報知音,JBMS-71:2004 事務機器− 報知音 例5. 入力した数字を合成音声等で読み上げる。 参考3. 視覚障害,加齢による視力低下で画面表示が見えにくいと,ボタンを押すたびにその状態が替わる機能 は,現在の状態を確認することが難しい場合がある。 例6. 音の種類を変えるなどによって現在のオン/オフの状態を識別できるようにする。一般には,画面上に アイコンなどを用いて表示するか,機器本体にランプを設けるなどするが,それに加えて,視覚障害の ある利用者には音声で提供することも必要である。 d) キー,ボタン及びスイッチを短い時間間隔で二度押しした場合でも,利用者が2回目以降の入力を無効に 設定できる機能を付加することが望ましい。 参考 筋力低下,麻ひ(痺),手の震え,不随意運動などのために,押したキーを再び押し,2回以上入力して しまう場合がある。 例 キー入力を無効とするまでの時間を最大2秒まで調整可能にする。 e) キー,ボタン及びスイッチを押し続けた際にキーリピート機能が生じる場合,利用者がその設定を変更 できる機能を付加することが望ましい。 参考1. キーリピート機能とは,キーを押し続けることによってキーを複数回押したのと同じく複数個の入力を 可能にする機能である。 参考2. 筋力低下,麻ひ(痺),手の震え,不随意運動などのために,押したキーを短時間で離すことができず, キーリピート機能によって2個以上の文字が入力されてしまうなどの場合がある。 例1. キーリピートの時間間隔を調整したり,禁止したりできる。 参考1. キーリピート機能の設定条件には次のものがある。 −キーリピートの有効・無効 −キーリピートが開始するまでの時間 −キーリピートで2回目以降のキーが入力される時間間隔(リピート率) 例2. 文字キーではキーの反復入力を無効にし,矢印キーではキーの反復入力を有効にしたい場合などがある ので,任意のキーごとに有効・無効を指定できるようにする。 f) 特定のキーに複数個のキーの機能をまとめて登録できることが望ましい。 参考 筋力低下,麻ひ(痺),手の震え,不随意運動などのために,複数のボタン操作は時間がかかる。 例 ボタン一つであらかじめ登録した相手先に自動的に発信できる(短縮ダイアル機能) g) 基本操作に用いるキー,ボタン及びスイッチは,義肢,マウススティックなどの自助具によってできる だけ操作できるようにしなければならない。 例1. 凹型のボタンを提供すると,自助具を用いて操作しやすくなる。 例2. 手の震え,不随意運動などによって,細かな操作ができない場合は,外付けの大形の入力装置が有効で ある。 例3. 筋力低下などのために,指を動かせる範囲が狭い場合は,ディスプレイ内に表示されたキーボードから 文字及び記号を入力できるオンスクリーンキーボードが有効である。 参考 静電式のタッチパネルは,自助具で操作できないことがある。 h) 入力操作にタッチパネルを用いる場合は,手の震えや不随意運動をもつ利用者にも押しやすく,できる だけ視覚に頼らず操作できるようにしなければならない。 参考1. 視覚障害,加齢による視力低下などのために,タッチパネルのボタンやキーの場所がわからない場合が ある。 例1. ボタンやキーを通常よりも大きく表示する。 例2. キー入力確定時に音,音声などをフィードバックできる機能を設ける。 参考2. 手の震え,不随意運動などのために,押したいキー以外のその他のキーに触れただけでキー入力が確定 されてしまい誤入力する場合がある。また,筋力低下のため,キーを一定時間以上押すことができず, 押したいキーに触れたとしても,キー入力が確定しない場合がある。 例3. キーリピートが不要に生じないよう,入力間隔時間を調節できる。 6.1.5 表示装置 表示装置は以下による。 a) 視覚的に表現されている情報は,視覚以外の感覚によってもその情報をできるだけ取得できるようにし なければならない。 例 テキスト情報を合成音声で読み上げたり,メールの着信を振動で伝える。 b) 文字(記号を含む)のサイズ,フォント,行間,文字間隔及び配色などは利用者が変更できることが望 ましい。 参考 弱視,加齢による視力低下などのために,ディスプレイ内に表示される文字,ボタン,アイコンなどが 小さくて見にくい場合がある。 c) 色によって表現されているすべての情報は,利用者の色覚特性によらずその情報を得られるようにしな ければならない。 参考1. 視覚障害,加齢による視力低下や水晶体の黄変,混濁などのために,ディスプレイ内に表示される背景, 文字,ボタン,アイコンなどは配色によっては見づらい場合がある。 参考2. JIS Z8513:1994 人間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業−視覚表示装置 参考3. 配色については,JIS Z 8518による。フラットパネルに関しては ISO 13406-2による。 d) 輝度とコントラストが調整できなければならない。 参考1. 視覚障害,加齢による視力低下や水晶体の黄変,混濁などのために,ディスプレイ内に表示される背景, 文字,ボタン,アイコンなどの輝度やコントラストによっては見づらい場合がある。 参考2. JIS Z8513:1994 人間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業−視覚表示装置。 参考3. 数値については,JIS Z 8513 による。フラットパネルに関しては ISO 13406-2による。 例 バックライト機能があると,照明が暗い環境下でも見やすい。 e) 照明や外光の表示部への写りこみや反射によって,できるだけ画面が見づらくならないようにしなけれ ばならない。 参考1. JIS Z8513:1994 人間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業−視覚表示装置 参考2. 視覚障害,加齢による視力低下や水晶体の黄変,混濁などのために,利用者の見えやすさの程度は多様 であり,ディスプレイ内に表示される情報の配色やコントラストによっては見づらい場合がある。特に 低照明下では顕著である。 6.1.6 音声及び報知音 音声及び報知音は以下による。 a) 報知音は,聴覚以外の感覚によってもその情報をできるだけ取得できるようにしなければならない。 例 報知音出力時に画面表示したり,振動したりする。 b) 基本操作に関わり音声ガイダンスで提示される情報は,視覚的にも表示しなければならない。 参考1. 情報が音声だけで告知されているだけでは,聴覚に障害のある利用者,騒音環境及び音を出力できない 利用環境においては,その内容を把握できない場合がある。視覚的にも情報が提供されていることは, 記憶や認知に関して障害のある利用者にとっても有効である。 参考2. 視覚及び聴覚とも利用しにくい場合(低照明で騒音環境など)では,触覚を活用する振動も効果的であ る。 c) 音量の変更ができるようにしなければならない。 参考1. 聴覚障害や加齢による聴力の低下などのために,小さな音量では情報を聞きづらい場合がある。 参考2. 音を出力しにくい静かな環境ではミュート(消音)できると,周囲の迷惑にならない。 例 音量は,できるかぎり広い範囲で調整可能にする。 参考3. JIS S0014:2003 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の報知音−妨害音及び聴覚の加齢変化を 考慮した音圧レベル d) 音質(周波数特性)をできるだけ変更できなければならない。 参考 聴覚障害や加齢による聴力の低下などのために,高音域が聞きづらい場合がある。 e) 音声再生の速度は調整できることが望ましい。 参考 聴覚障害,学習障害及び加齢による聴力の低下などのために,音声の再生速度を遅くする,適当なところ で間をとる,一次中断して内容を把握した後に再開する,などすると内容が理解しやすくなる場合がある。 逆にスクリーンリーダを使用している場合,できるだけ速い音声再生が好まれることもある。 f) 音声ガイダンスの音声は聞きなおせることが望ましい。 参考 聴覚障害や加齢による聴力の低下によって聞き取りづらい場合,聞きなおせると内容が理解しやすくなる。 g) 報知音には,聞き取りやすい周波数を用いなければならない。 参考1. JIS S 0013 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の報知音 参考2. 聴覚障害や加齢による聴力の低下によって,報知音の周波数が高すぎたり低すぎたりすると,情報を聞き づらい場合がある。 6.2 用語・表記に関する原則  6.2.1 一般的な用語・表記の使用 専門用語,外来語及び略語を多用せず,わかりやすい表現を用いなければ ならない。 例 専門用語,外来語及び略語を使う場合は,用語集を用意すると理解を助ける。 6.2.2 刻印・印刷表示 刻印・印刷表示は以下による。 a) 機器に刻印・印刷表示する文字や記号は見やすくしなければならない。 参考1. 弱視,加齢による視力低下などのために,機器に刻印・印刷表示された文字,ボタン,アイコンなどが 小さくて見づらい場合がある。 例 文字や記号の見やすさには,大きさ,フォント,コントラスト,配色,形などが関係する。 b) 色だけで表現されているすべての情報は,利用者の色覚特性によらずその情報を得られるようにしなけれ ばならない。 参考1. 視覚障害,加齢による視力低下や水晶体の黄変,混濁などのために,機器に刻印・印刷表示の配色によっ ては見づらい場合がある。 例1. 色の違いによって表現している情報にはテキストを付記する。 例2. 前景色と背景色との組合せは,十分なコントラストを与える。 c) 刻印・印刷表示は対象とする操作部の近くに表示しなければならない。 参考1. 視覚障害,加齢による視力低下及び皮膚感覚の鈍化のために,表示やボタンの位置や機能がわかりづらい 場合がある。 参考2. 視野が狭いために,情報を一度に見られず誤認識する場合がある。 参考3. 認知の観点から,操作を担うボタン,キー,スイッチなどと,説明を担う刻印・印刷表示が近くに位置 していると操作がわかりやすい。 d) 刻印・印刷表示されたテキストは,適切な長さでわかりやすく表現しなければならない。 参考1. 認知能力が低下すると,長文や複雑な文章を理解することが困難になる場合がある。 参考2. 視野が狭いために,情報を一度に見られず誤認識する場合がある。 e) 専門用語,外来語及び略語を多用せず,わかりやすい刻印・印刷表示をしなければならない。 6.2.3 図記号及びイラストレーションの使用 利用者が理解しやすく一貫性のある図記号及びイラストレーシ ョンを用いなければならない。 6.3 身体の安全性に関する原則  6.3.1 安全性の確認 利用者が不用意な操作や動作を行っても,利用者の安全及び健康に悪影響を与える動作 をしてはならない。 例1. 利用者が触る可能性のある箇所は,鋭角にしない。 参考1. 視覚障害,低照明環境などで機器を手探りで操作する場合にも有効である。 例2. 受話音量が大きすぎて,聴覚系に障害を与えることがないようにする。 例3. 報知音又は音声ガイダンス出力時に画面の一部を点滅させたり,エラーメッセージなどの画面情報表 示時に,報知音や音声ガイダンス等でその状況を知らせたりするようにする。 例4. 視覚及び聴覚両方に障害がある場合に対応できるようにするためには,振動など触覚を通して情報を 提示する機能が必要である。 例5. 利用者が誤って危険な作業を行うと予見されることについては,複数の手段で警告する。 例6. インクリボンやトナーカートリッジの交換時を手探りで行っても,怪我をしないようにする。 例7. 機器を安全に停止する。 参考2. 視覚に障害があり手探りで操作する必要がある場合にも,利用者が認識できる手段で事前に操作上の 注意・警告を提供してあれば,利用者は,操作時の危険を回避できる。 6.3.2 光源性てんかんへの配慮 画像,光などを点滅させる場合は,光源性てんかん(癲癇)による発作など を誘発させないように,点滅条件を配慮しなければならない。 参考 光の明滅によって光感受性発作(光源性てんかん)を誘発することがある。20Hzの時間周波数にピーク があり,特に赤と青とを交互に点滅することは,光感受性発作を誘発しやすい。利用者の安全性に関 することであるので最大限の配慮が必要である。 6.3.3 電磁ノイズ等への配慮 電気通信機器が発生する電波及び電磁ノイズ等の電磁干渉(EMI: Electromagnetic Interference)によって,利用者に安全及び健康に悪影響を与えないようにしな ければならない。 参考1. 携帯電話機からの電波を補聴器が受信してしまい,雑音が聞こえてしまう場合がある。 参考2. 携帯電話機からの電波は,植込み型心臓ペースメーカ及び植込み型除細動機の機能に影響を及ぼす可 能性があるが,装着部位から22cm程度離せば安全が高まる。 参考3. 医用電機機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針(平成9年3月27日 不要電波問題対策協議会策定) 6.3.4 アレルギー及び有毒物質に関する配慮 利用者が操作・接触する箇所には,アレルギーをひきおこす, あるいは毒性のある材料を用いないことが望ましい。用いる場合には,利用者に材料に関する情報を 開示しなければならない。 例 アレルギーを引き起こす素材としてはニッケル,クロム,一部のゴム等がある。 6.4 情報セキュリティに関する原則  6.4.1 情報漏えい 情報のセキュリティを確保したアクセシブルな操作方法を提供しなければならない。 参考 情報セキュリティに配慮しないで音声化を行うと,第三者にパスワード,個人情報などの重要な情報 が盗まれる可能性がある。 6.4.2 利用者の識別手段に対する代替手段 利用者の識別及び端末の操作許可にバイオメトリックスを使用 する場合は,利用者の身体的な特徴に頼らない代替の識別手段を選択できるようにしなければならない。 参考 指紋認証,アイリス(虹彩)認証,顔認証などの認証方式を使用する場合は,暗証番号が入力できる などの代替の手段を用意することが考えられる。 例 指紋認証が不可能な利用者がいることに配慮する必要がある。 6.5 コンテンツの保護手段に関する原則  6.5.1 利用の権利 著作権などを理由にデータを保護する場合でも,利用する権利を認められた利用者にと って利用可能にしなければならない。 参考1. 現在の著作権法では,公表された著作物から点字出力のための電子化点字ファイルへの変換及び公開 は認められている(平成12年改正著作権法第37条:公表された著作物は点字によって複製することが できる。公表された著作物は電子計算機を用いて点字を処理する方式によって,記録媒体に記録し, 又は公衆通信を行うことができる)。 参考2. 文化庁では著作権者が自分で著作権の自由使用を認める場合,“障害者OK”のマークをつけることを 勧めている。 このマークは文化庁のウェブサイトから自由にダウンロードできる。 例 視覚障害のある利用者は,画面に表示された文章を音声出力などで利用したい場合があるので,音声 合成ソフトウェア等を用いて音声出力可能なコンテンツを用意するか,代替手段を提供する。 6.6 設置・接続・設定に関する原則 設置・接続・設定は以下による。 a) 製品の組み立てや取り付け操作は,簡単でわかりやすくなければならない。 b) 設置が容易な構造であり,配線などの接続がしやすくなければならない。 c) 操作によって設置位置から簡単に動いたり転倒したりしてはならない。 例 固定するための金具やねじ穴等をつける。 d) 電源コードやコネクタ類は接続しやすく,また不用意に外れてはならない。 例 着脱する可能性のある端子などは,正しい向きで挿入・取出しができるように,配色,コントラスト 及び形状を配慮する。 e) トレー等の付属品や電池は,取り付け位置・方法がわかりやすく,間違った方向には取り付けられ ないようにしなければならない。 f) 時刻の設定や名前,電話番号等の登録方法がわかりやすくなければならない。 参考 a),b),c),d),e)とも 筋力低下,麻ひ(痺),手の震え,不随意運動などのために,電源コー ドやコネクタ類の接続や着脱が難しい場合がある。また,視覚障害,加齢などによる視力低下のため に,それらの位置及び着脱の向きがわかりづらい場合がある。 g) 利用者が行う消耗品の交換作業などは,利用者自身によってできるようにすることが望ましい。 例 バッテリーの充電,電池の交換,紙の補給,インクリボンの交換などの作業を利用者ができるよう にする。 6.7 代替手段に関する原則 代替手段は以下による。 a) 高齢者・障害者支援技術をできるだけ利用できるようにしなければならない。 参考 筋力低下,麻ひ(痺),手の震え,不随意運動などのために,ボタン,キー,電源スイッチの操作 が難しい場合が ある。このような場合には同等な機能をもつ外付けの支援機器が有効である。 例1. 手の震え,不随意運動などによって,細かなキー入力操作ができない場合は,大形のキーボードが 有効である。 例2. 筋力低下,麻ひ(痺)などによって手の動かせる範囲に制限がある場合は,小形のキーボードが有 効である。 例3. 重度の肢体不自由などのためにボタンが押しづらい場合は,足などで操作する大形スイッチ,身体 のわずかな動きで操作するマイクロスイッチ,呼気スイッチなどが有効である。 b) a)に関する機器を接続した場合,本体の機能(ボタン,キー,及び電源スイッチ等)と併用できる ことが望ましい。 参考 介助者が入力操作などをサポートするとき,利用者に適合させた特別なキーボードでは,効率よく 操作できない場合がある。 例 特別なキーボードが接続されている場合でも,標準のキーボードからも入力できるようにしておく。 6.8 インタフェース仕様の標準化と公開に関する原則 インタフェースの仕様の標準化と公開は以下に よる。 a) 支援機器等の外部接続のための入出力インタフェース等は,その仕様をできるだけ公開しなければ ならない。 参考 代替キーボード,スイッチなど支援機器を設計・開発するためには,外部接続機構のハードウェア 仕様及びソフトウェア仕様の公開が不可欠である。 b) 外部接続のための入出力インタフェースは,メーカー間で広く使われているインタフェース仕様を 使用することが望ましい。 参考1. 代替キーボード,スイッチなどを外部接続するための入出力機器のインタフェース仕様にはメーカ ー間で広く使われているものを採用することによって,機器選択の幅を広げることができる。 参考2. 外部接続する入出力機器の新しいインタフェース仕様を,今後,メーカー間で広めようとする場合に は,この限りではない。 7. サポートに関する要件  7.1 取扱説明書 製品の取扱説明書は,障害に応じたメディアをできるだけ複数用意しなければならない。 参考1. 電子文書は特別な条件,追加の経済的負担なしに提供する。視覚障害や認知障害のある利用者は印刷 された文書を見ることが困難な場合があるため,スクリーンリーダで読み上げたり,点字データに 変換したり,拡大印刷できるように,印刷物と同等の電子文書を提供することが有効である。 例1. 視覚障害者には図やイラストの説明を言葉で補った電子文書,点字又は録音図書による取扱説明書 を提供する。 例2. 高齢者にも読みやすい大きな文字を用いたわかりやすい取扱説明書を提供する。 参考2. JIS S0032:2003 高齢者・障害者配慮設計指針−視覚表示物−日本語文字の最小可読文字サイズ 推定方法 例3. 基本操作を説明した簡易版の取扱説明書を提供する。 7.2 電気通信アクセシビリティ情報の公開 電気通信アクセシビリティ情報の公開は次による。 7.2.1 公開の対象 電気通信アクセシビリティに関する情報公開は,できる限り多くの製品に対して実施 しなければならない。 例 附属書5(参考)固定電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント,附属書6(参考)携帯電話機 の基本機能に関する障害別配慮ポイント,附属書7(参考)ファクシミリの基本機能に関する障害別 配慮ポイント,附属書8(参考)テレビ電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント,に基づいて 製品を評価した結果を公開する。 7.2.2 公開の方法 電気通信アクセシビリティに関する情報は,高齢者・障害者を含むより多くの利用者 にアクセシブルな方法で公開しなければならない。 参考1. 電気通信アクセシビリティ情報が公開されていると,利用者が自分の障害に応じた機器を選択する 際に役立つ。 参考2. 複数の企業により製造又は販売される製品においては,当該企業の少なくとも一社がアクセシビリ ティ情報を公開する。 例 公開する情報を,音声ブラウザで読み上げられやすいHTMLで提供する。 7.3 教育 7.3.1 流通経路への支援 製品の電気通信アクセシビリティに関する情報は,関係する販売店,情報サー ビス企業及び支援者などへ提供しなければならない。 例1. 利用者が,目的,環境,障害の程度などに適合した電気通信アクセシビリティ製品を購入し,効果 的に利用するために,製品に関する様々な情報(製品仕様,他社製品との組合せの可否,Q&A,使い 方に関するノウハウ,留意事項など)を提供する。 例2. 購入するとき,すべての利用者が最適な製品選択ができるように,販売店に,利用者の視覚,聴覚 などの感覚機能,体格,筋力などの身体機能,文章の理解力などの認知機能の程度に対する製品の 対応情報を周知しておく。 7.3.2 利用者への支援 セミナーなど利用者へ教育の機会が提供される場合は,受講者の心身機能等の特 性に配慮した対応をしなければならない。 例1. セミナーを利用者に向けて提供する場合には,多様な利用者を想定し,テキストについては音声化, 点字化又は拡大印刷が可能なように電子データを用意する。 例2. また,テキスト及び口頭による説明においては,専門用語,外来語及び略語を多用せず,できるだ け分かりやすい表現を用いる。 例3. それらを使う場合においては,用語集を用意するなど理解を助けるように配慮する。 7.4 サポート窓口の設置 a) 製品のサポート窓口は,利用者の多様性に備えて複数の手段での情報提供ができるように配慮しな ければならない。また,障害のある人と十分なコミュニケーションが取れるように配慮しなければ ならない。 1. 聴覚障害・言語障害がある場合,電話による問い合わせがむずかしいため,ファクシミリや電子メ ールなどが効果的である。 参考2. 視覚障害がある場合,ホームページでの情報の掲示だけでは不十分なため,電話が効果的である。 参考3. 窓口の担当者は製品についてだけではなく障害や情報保障についても深い理解をもち,障害のある 利用者と十分にコミュニケーションできるようにする。 参考4. 製品サポート窓口は,製品のもつアクセシビリティ機能及び互換性情報についての問い合わせに対 応できるようにする。 b) 製品サポートを行う際に知りえた,障害の状態などを含む利用者の個人情報を保護しなければなら ない。 c) アクセシビリティ機能が利用者の個別のニーズを満たしているかを確認するために,製品を試用で きることが望ましい。 附属書1(規定)固定電話機の基本機能と配慮事項 1. 固定電話機の基本機能と配慮事項 1.1 固定電話機の基本機能 “音声通話”を固定電話機(据え置き,壁掛け,コードレス電話,IP電話 などを含む)の基本機能と位置付ける。基本機能の操作の流れと障害別配慮の関係については,附 属書5(参考)固定電話機の基本操作に関する障害別配慮ポイントを参照する。 1.2 基本的な配慮事項 基本的な配慮事項は6. 共通要件を参照する。 a) コードレス電話では,形状が携帯電話機等に類似している機種の場合,必要に応じて,附属書2(規 定) 携帯電話機の基本機能と配慮事項も参照する。 2 操作ボタン及びテンキー 操作ボタン及びテンキーに関しては,6.1.4 ボタン,キー及びスイッチ を参照する。 3 送受話器 送受話器は,次による。 a) 持ちやすい形状で,滑りにくく,重量バランスの良いものでなければならない。 b) 送受話器の向きや,送話器と受話器の位置をわかりやすくしなければならない。 c) 送受話器を保持しなくても通話ができなければならない。 例 ハンズフリーで通話ができる。 参考 音声認識などにより,ボタン操作無しでもスピーカーホン状態になり,発信及び応答等ができると, 上肢に障害がある場合でも固定電話を利用できるようになる。さらに,例えば車椅子等,移動に 不自由がある場合でも同じように利用しやすくなる。 4 液晶ディスプレイ等の表示装置 ディスプレイを備える場合は,6.1.5 表示装置を参照する。 5 印刷された表示 印刷された表示は,6.2.2 刻印・印刷表示を参照する。 6 受話音 受話音は,次による。 a) 受話音量を調整できなければならない。 b) 通話中でも音量の調整が容易でなければならない。 c) 通常より大きいレベルに音量を設定できる電話機では,次の通話時に音量を自動的に初期状態に戻す 機能を備えなければならない。 d) 現在の音量レベルが容易に確認できなければならない。 参考 固定電話機に関係がある音量増幅の基準を以下に示す。 ・CES?Q003-2(情報通信ネットワーク産業協会)  電話機通話品質標準規格 IP電話端末(ハンドセット) ・FCC規定(47 CFR 68.137(a)) ・米国リハビリテーション法508条 第1194部第23条 通信製品 ・FCC第68部 e) 利用者の聴覚特性に応じた機能を提供できることが望ましい。 例1. 音質(周波数特性)を調整できるようにする。 例2. 高齢者等が聞きやすくするために,話速を変えられるようにする。 例3. 一部の難聴者(伝音性等)や周囲がうるさい場合にも聞きやすくするために,骨伝導を用いる。 f) 補聴器及び人工内耳等にノイズを誘発させてはならない。 参考 デジタル方式のコードレス電話が補聴器及び人工内耳等に影響を与える場合がある。 g) 補聴器の誘導コイル(Tモード)に対応しなければならない。 参考 補聴器の誘導コイルで外部磁界をピックアップし,その信号を増幅してイヤホンで再生するTモードと いう補聴器の機能がある。 ・IEC 60118-1 Ed. 3.1:1999 (b) Hearing aids - Part 1: Hearing aids with induction  pick-up coil input ・JIS C 5512 補聴器 ・米国TIA規格  ANSI/TIA/EIA-504-A-1997  Telecommunications-Telephone Terminal Equipment-Magnetic Field and  Acoustic Gain Requirements for Handset Telephones Intended for use by the Hard  of Hearing 注. 上記規格には補聴器の誘導コイルに与える受話器のヒヤリングエイドコイルから発生する磁界の強さに 関する規定が含まれている。 h) 補聴器や人工内耳の外部入力に対応しなければならない。 例1. 人工内耳スピーチプロセッサ用の電話機アダプタを電話機との間に挿入するため,電話機の送受話器 プラグは脱着式プラグを使用する。 例2. 電話機の送受話器に対応した外部接続インタフェースを用意する。 i) 受話音を増幅できる場合は,音漏れに配慮しなければならない。 例 密着性の高い受話部にする。 参考1. 受話音を拡大すると音漏れが大きくなり,周囲に迷惑をかけたり,守秘性が保てなかったりする場合が ある。 参考2. 誘導コイル又は外部出力端子を備えることも有効である。 j) 適切な側音(送話器で話した音声が,受話器を通して自分の耳で聞き取れる)を入れなければならない。 参考1. 側音がないと,例えばTモードにした補聴器(マイク入力がオフにされる)を装用した聴覚障害者は, 自分の声を聞くことができなくなり,発話しにくくなる。側音を挿入することで,自分の声を受話器の 誘導コイルを通じて聞くことができるようになる。 参考2. ITU-T P.310 7 着信音(メロディ,リンガー等) 着信音(メロディ,リンガー等)は,次による。 a) 着信音の音量等を調整できなければならない。 例1. 標準の音量よりも大きくできる。 例2. 基本周波数の高低や音色等が変えられる。 b) 着信状態を視覚でも確認できなければならない。 例 鳴動時に発光し,視覚でも着信がわかる。 c) ミュートできなければならない。 8 報知音及び音声ガイダンス 着信音(メロディ,リンガー等)以外に報知音及び音声ガイダンスを 発生する機能を有する場合は,6.1.6 音声,及び報知音を参照する。 9 動作の確認 動作の確認は,次による。 a) 回線の状態が,聴覚と共に視覚でも確認できなければならない。 b) 相手先番号通知が利用できる場合は,視覚と共に聴覚でも通知された内容が確認できなければなら ない。 10 使用準備 使用前の準備に関する開梱,設置,接続,設定に関しては,6.6 設置・接続・設定に関 する原則を参照する。 附属書2(規定)携帯電話機の基本機能と配慮事項 1. 携帯電話機の基本機能と配慮事項 1.1 携帯電話機の基本機能 “音声通話”,“電話帳登録”,“メール送受信”,“ウェブ閲覧”, “充電”を携帯電話機の基本機能と位置づける。基本機能の操作の流れと障害別配慮の関係について は,附属書6(参考)携帯電話機の基本操作に関する障害別配慮ポイントを参照する。 1.2 基本的な配慮事項 基本的な配慮事項は,6. 共通要件を参照する。 2. 本体の形状  2.1 形状及びバランス 形状及びバランスは,次による。 a) 持ちやすい形状で,滑りにくく,重量バランスの良いものでなければならない。 b) 収納しやすいように,アンテナなどの突起物は無い方が望ましい。またカバンやポケットから出し 入れがしやすい形状に配慮することが望ましい。 参考1. 手の不自由な利用者,高齢者等は,ポケットから出し入れする場合,突起物があると,ひっかかった りして取り出しにくい場合がある。 2.2 片手での開閉 折り畳み型及びこれに準じる形状の携帯電話機では,左右いずれの片手でも容易に 開閉できなければならない。 例1. ワンプッシュボタンで開くことができる。 例2. 折り畳み形状の場合,開きやすくするため合わせ目に指先が入る程度のすきまをあける。 2.3 机上での操作 机の上に置いた状態でも,安定してキー入力等の操作ができなければならない。 参考1. 片手が不自由な利用者は,机上に置いて片手で操作をする場合がある。 参考2. 折り畳み型及びこれに準じる形状の携帯電話機では,開いた状態で机上に置いても安定してキー入力 ができる。 2.4 本体据え置き 車載アダプタや充電台などに本体を据え置き固定して使用できることが望ましい。 参考1. 手に麻痺や緊張があると,本体を保持することがむずかしい場合がある。また,車椅子の一部に携帯 電話機を固定して使う場合もある。 参考2. 着信があった場合に,自動的に通話に移行できる機能があると利用の手助けになる。 2.5 ハンズフリー 本体を持たずに通話ができなければならない。 参考1. テレビ電話機能を使用する場合には,ハンズフリーができると手話を伝えるときなどに有効である。 ハンズフリーにした場合に,表示部やカメラの向きや角度を調整できると良い。 参考2. 本体にハンズフリー機能がない場合でも,イヤホンマイクセットを利用することにより通話は可能と なる。 2.6 ストラップ ストラップは,次による。 a) ストラップが取り付けられなければならない。 参考1. ストラップを使用すると,筋力が弱い場合などに電話機を落として破損することを防ぐことができる。 参考2. ストラップを使用すると,片手で操作しやすくなる。 b) ストラップの取り付け位置は複数あることが望ましい。 参考1. ストラップの取り付け位置が複数あると,利用者の使用状況や特性に応じて最適な場所が選択できる。 参考2. 携帯電話機に複数のストラップの取り付け位置があると,上肢に障害にある利用者が,携帯電話機を ぶら下げた場合に,安定して使用できる場合がある。例えば,携帯電話機上部の左右端にワイヤーの 両端が取り付け可能であれば,携帯電話機をぶら下げた場合に,携帯電話機が回転することなく安定 して耳にあてることができる。 2.7 卓上ホルダ 卓上ホルダは,次による。 a) 確実に携帯電話機に充電するために,卓上ホルダへの着脱が容易にできなければならない。 b) 不用意に動いたり,転倒しにくい構造にしなくてはならない。 3. ボタン,キー,及びスイッチ ボタン,キー,及びスイッチは,6.1.4 ボタン,キー及びスイッチを 参照する。 a) 左右いずれの片手でも入力操作できなければならない。 b) 通話の開始と終了のキーは,視覚と共に触覚でも他のキーと区別できなければならない。 参考1. 視覚障害や加齢による視力低下があると,印刷文字が見えにくい場合がある。基本機能である通話の 開始と終了キーは,複数の手段で,認識できるとわかりやすい。 参考2. ボタンの形状の違いや,ボタンの周囲にそれとわかる小さな突起をつけるなどで区別する。 c) 複数の接点が一体となっているボタンには,押下方向を示す矢印等の目印をつけなければならない。 参考 手の不自由な利用者,操作の慣れない初心者及び高齢者は,複数の接点をもつボタンの操作方法がわか らない場合がある。 d) 頻度が高く操作手順が多いものは,ショートカット操作等による代替操作を用意しなければならない。 参考1. 多くのボタンを押す操作は,手順が覚えにくく,誤操作を誘発する場合がある。 参考2. ワンタッチダイヤルで発信できる。 e) 長押し操作は,聴覚,視覚,又は触覚的に容易に確認できることが望ましい f) 長押し操作には,代替手段を提供することが望ましい。 参考1. 自助具を用いたり,筋力が弱いと,長押し操作がむずかしい場合がある。 g) 手に不自由のある利用者,操作の慣れない初心者及び高齢者でも効率的に入力できる手段を提供しな ければならない。 参考 辞書登録,予測変換機能等が搭載されていると容易な入力が実現できる。 4. 液晶ディスプレイ等の表示装置 液晶ディスプレイなどの表示装置は,6.1.5.表示装置を参照する。 a) アイコン等の表示サイズはできるだけ変更できなければならない。 例 電池残量,電波状態などの重要なアイコンを確認しやすくする。 b) 文字の大きさを変更できるようにしなければならない。 c) 画面の明るさやコントラストをできるだけ変更できなければならない。 参考 周囲の明るさや利用者の使用状態によって,明るさやコントラストを変更できないとディスプレイが 見づらくなる。 5. 印刷された表示 印刷された表示は,6.2.2.刻印・印刷表示を参照する。 6. 音声読み上げ 音声読み上げは,次による。 a) 表示された情報は,音声でも確認できることが望ましい。 例 音声合成機能を用いて,ディスプレイ上に表示された文字等を読み上げる。 b) 音声読み上げ機能が搭載される場合は,入力した情報を音声でも確認できることが望ましい。 例 音声合成機能を用いて,漢字入力時の変換候補文字等を読み上げる。 7. 報知音と音声ガイダンス 報知音と音声ガイダンスは,6.1.6.音声,及び報知音を参照する。 8. 受話音 受話音は,次による。 a) 周囲の騒音や個人の聞きやすさに応じて音量を変えることができなければならない。また,通話中でも 音量の調整が容易でなければならない。 参考 ITU-T P.313によると,音量は公称値から12dB以上増幅できるように規定されている。 b) 利用者の聴覚特性に応じた機能を提供できることが望ましい。 例1. 音質(周波数特性)を調整できるようにする。 例2. 高齢者等が聞きやすくするために,話速を変えられるようにする。 例3. 一部の難聴者(伝音性等)や周囲がうるさい場合にも聞きやすくするために,骨伝導を用いる。 c) 補聴器の誘導コイル(Tモード)に対応していることが望ましい。 参考1. 補聴器の誘導コイル(Tモード)に対応することで,補聴器を利用している聴覚障害者は,周囲の雑音 の影響を軽減することができる。 参考2 . FCC Acts to promote accessibility of digital wireless phones to individuals with hearing disabilities. 参考3 . ANSI C63.19-Method of measurement for hearing aid compatibility with wireless communications status. 参考4 . ANSI C63.20-Limits for hearing aid compatibility with wireless communications. 参考5 . 補聴器の誘導コイル(Tモード)に対応することで,補聴器を利用している聴覚障害者は,周囲の雑音 の影響を軽減することができる。 d) 補聴器や人工内耳等にノイズを誘発しないことが望ましい。 参考1. CDMA方式でないデジタル方式(TDMA方式)の携帯電話機は,補聴器及び人工内耳等に雑音による影響 を与える場合がある。 参考2. CDMA方式の伝送方式の携帯電話機では,補聴器への雑音が少ない。 e) 適切な側音(送話器で話した音声が,受話器を通して自分の耳で聞き取れる)を入れることが望ましい。 参考1. 側音がないと,例えばTモードに対応した補聴器(マイク入力がオフにされる)を装用した聴覚障害者 は,自分の声を聞くことができなくなり,発話しにくくなる。側音を入れることで,自分の声を受話器 の誘導コイルを通じて聞くことができるようになる。 参考2. ITU-T P.310参照。(側音マスキング定格STMR:10dB〜15dB) f) 音声を,文字などの他のメディアに変換できることが望ましい。 参考 通話している際の音声を音声認識機能を用いて文字に変換できると,聴覚障害者に有効である。 9. 動作の確認  9.1 状態の確認 状態の確認は,次による。 a) 視覚に頼らずに電波状態を確認できることが望ましい。 例1. 圏外や電波の状態を報知音,音声ガイダンス,振動などで知らせる。 例2. 通話中に電波状態が悪い場合に報知音,音声ガイダンス,振動などで知らせる。 b) 視覚に頼らずに電池残量を確認できることが望ましい。 例 通話前又は通話中に電池残量が少ないことを報知音,音声ガイダンス,又は振動などで知らせる。 c) 視覚に頼らずにロック状態及びマナーモードを確認できることが望ましい。 例1. スイッチの物理的な状態で識別可能とする。 例2. 振動や音声でロック状態を確認できるようにする。 d) 着信状態を視覚でも確認できなければならない。 例 鳴動時に発光し,視覚でも着信がわかる。 参考 発光箇所が携帯電話機を置いた際にどの方向からでも見えるとわかりやすい。 e) 視覚に頼らずに充電状態を確認できることが望ましい。 例 充電の開始や終了を報知音,音声ガイダンス,振動などで知らせる。 9.2 動作の通知 動作の通知は以下による。 a) 振動により着信,及び受信を容易に知らせることができなければならない。 例1. 容易に着信や受信がわかるように,振動パターンや強さを変更できるようにする。 例2. 携帯電話機とは別に,振動する子機がワイヤレスで接続できるようにする。 10. 外部インタフェース 外部インタフェースに関する共通的な配慮事項は6.7 代替手段に関する原則, ならびに6.8  インタフェース仕様の標準化と公開に関する原則を参照。 10.1 外部入力機器との接続 テンキーやボタンには,外部入力機器との接続による代替手段を提供すること が望ましい。 参考 小型のテンキーやボタンは,不随意運動のある利用者や,細かい動作が苦手な利用者には操作がむず かしい。 10.2 外部表示機器との接続 液晶表示には,外部接続機器との接続による代替手段を提供することが望ま しい。 参考1. テレビ電話機能を使用する場合には,聴覚障害者が手話により会話する際に唇の動きや指先の細かい 動きが伴うため,大きな画面で見られると有効である。 参考2. ウェブ閲覧,メール閲覧,機能操作等において大きな画面で操作が行えると,高齢者や弱視等の障害 がある利用者にとって有効である。 附属書3(規定)ファクシミリの基本機能と配慮事項 1. ファクシミリの基本機能と配慮事項 1.1 ファクシミリの基本機能 “送信”,“受信”,“コピー”,“消耗品などの交換”をファクシミリ の基本機能として位置づける。音声通話機能については,附属書1(規定)固定電話機の基本機能と 配慮事項を参照する。基本機能の操作の流れと障害別配慮の関係については,附属書7(参考)ファク シミリの基本操作に関する障害別配慮ポイントを参照する。 1.2 基本的な配慮事項 基本的な配慮事項は,6.共通要件を参照する。電話をかける機能,受ける機能に 関しては,附属書1(規定)固定電話機の基本機能と配慮事項を参照する。 2. 操作ボタン及びテンキー 操作ボタン及びテンキーに関する共通的な配慮事項は,6.1.4 ボタン, キー及びスイッチを参照する。 3. 「スタート」,「ストップ」及び「コピー」ボタン 「スタート」,「ストップ」及び「コピー」 ボタンは,次による。 a) 記載文字が見やすくなければならない。 例 ゴシック書体を使用し文字高さ3.0mm以上で明度差4.0以上とする。 参考1. JIS S0012:2000 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の操作性 参考2. 加齢による視力低下した利用者や弱視の利用者は,小さい文字が見にくい場合がある。また,加齢や 色覚特性によって微妙な色の差が識別しにくくなる。 b) 視覚と共に触覚で他のボタンと区別できなければならない。 例1. 「スタート」ボタンの中央部分に凸点(直径1.5〜2.0mm,高さ0.5〜0.8mm)を設ける。 参考1. JIS S0011:2000 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の凸記号表示 例2. 「ストップ」ボタンの中央部分に凸バー(直径1.5〜2.0mm,高さ0.5〜0.8mm,長さは幅の5倍 以上)を設ける。 参考2. 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の凸記号表示 c) 押下したことが視覚と共に触覚や聴覚でも確認できなければならない。 例1. 明確なクリック感やストローク量でわかりやすい。 参考1. 筋力低下,麻ひ(痺),手の震え,不随意運動などのために,指先の触覚の感度が低下すると, 物表面の質感やクリック感などの細かな変化が感じ取りにくくなる。 例2. 押下を確認する報知音(入力確認音)はオン時間0.1秒とする。 参考2. JBMS-71:2004 事務機器−報知音 4. 液晶ディスプレイ等の表示装置 液晶ディスプレイ等の表示装置については,6.1.5 表示装置を 参照する。 5. 操作部形状  5.1. 原稿挿入口  a) 視覚と共に触覚でも原稿挿入口がわからなければならない。また,記録紙挿入口もある場合には, 原稿挿入口を区別して識別できなければならない。 b) 原稿の挿入方法がわかりやすい構造,形状でなければならない。 参考 加齢にともない新しいことが覚えにくくなる。さらに,集中力が低下し持続的な作業ができなかっ たり,事前の操作を忘れてしまったりといった問題がある。 c) 原稿をセットしたことが,視覚と共に聴覚でも確認できなければならない。 例 原稿セットを確認する報知音(入力確認音)はオン時間0.1秒とする。 参考 JBMS-71:2004 事務機器−報知音 d) 原稿を裏表どちらの向きで挿入すればよいか,視覚とともに触覚でも識別できることが望ましい。 例 触覚で識別できる図記号を用いる。 5.2. 原稿ガイド 原稿ガイドは,次による。 a) 原稿サイズの表示が見やすくなければならない。 例 ゴシック書体を使用し文字高さ3.0mm以上で明度差4.0以上とする。 参考1. JIS S0012:2000 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の操作性 参考2. 加齢にともなう視力低下で近くのものが見にくくなるとともに微妙な色の差が識別しにくくなる。 b) 原稿ガイドの操作部(つまみ)は,持ちやすく手首の回転を必要とせずに,できるだけ抵抗なく動か なければならない。 参考 加齢にともない,手指の細かな動きができなくなるとともに,関節の可動範囲が狭くなることで操作 しやすい位置や範囲が制限される。 c) 原稿ガイドの位置決めが視覚と共に触覚でもできなければならない。 d) 原稿ガイドの操作部(つまみ)は表面が滑り難く加工されていなければならない。 5.3. 原稿排出口及び記録紙排出口  a) 視覚と共に触覚でも排出先がわからなければならない。 b) 原稿や記録紙が取りやすい構造,形状でなければならない。 例1. 排出口に受け皿が用意されていると,原稿や記録紙が取りやすい。 例2. ロール紙の場合には,容易に切り取りやすくする,又は自動的に切り取る。 参考 片手でロール紙を切り取る場合がある。 5.4. 記録紙の確認  a) 記録紙がセットされたことが,聴覚でも確認できなければならない。 例 記録紙セットを確認する報知音(入力確認音)はオン時間0.1秒とする。 参考 JBMS-71:2004 事務機器−報知音 b) 記録紙がないことが,聴覚でも確認できなければならない。 例 記録紙がなくなったことを,ディスプレイ等に表示するとともに,報知音や音声ガイダンスにより 提示する。 参考 JBMS-71:2004 事務機器−報知音 5.5. メンテナンス用カバー a) 開閉方法がわかりやすい構造,形状でなければならない。 例 開ボタンの位置,操作方法が表示や形状でわかりやすい。 参考 加齢にともない新しいことが覚え難くなる。さらに,集中力が低下し持続的な作業ができなかったり, 事前の操作を忘れてしまったりといった場合がある。 b) 開閉の確認が視覚や聴覚でも確認できなければならない。 例 カバー開閉完了時のクリック感や機械的なクリック音により確認できる。 c) 不用意に開閉しないようにしなければならない。 参考 利用者が意図せず閉じると,怪我をすることがある。 d) 適度な力で操作できなければならない。 参考 加齢にともない筋力や体力が低下し十分な力が出せなくなる。そのため,操作を持続するのが困難で あったり,操作に痛みを伴ったりする場合がある。 5.6. インク及びロール紙などの取り付け インク及びロール紙などの取り付けは,次による。 a) 開閉方法がわかりやすい構造,形状でなければならない。 参考 加齢にともない新しいことが覚えにくくなる。さらに,集中力が低下し持続的な作業ができなかったり, 事前の操作を忘れてしまったりといった問題がある。 b) 取り付け方法及び方向がわかりやすい構造,形状でなければならない。 例 方向性を持った形状の場合には,異なる方向では入らないようにする。 c) 手探りでも怪我をしないような形状でなければならない。 例 利用者が触る可能性のある箇所は,鋭角にしない。 d) 取り付けたことが,触覚と共に視覚や聴覚でも確認できなければならない。 例 取り付け完了時のクリック感や機械的なクリック音。 6. 報知音及び音声ガイダンス 報知音及び音声ガイダンスは6.1.6 音声,及び報知音を参照する。 7. 動作の確認 動作の確認は,次による。 a) 送信の確認が視覚でもできなければならない。 例1. 送信終了を示す報知音(終了音)はオン時間1秒とする。 参考 JBMS-71:2004 事務機器−報知音 例2. 送信結果が画面やプリントで確認できる。 b) 着信(ファクシミリとその電話)の区別が聴覚でもできなければならない。 例 ファクシミリは自動着信(無音)で,電話の場合は呼び出し音が鳴るように設定できる。 c) エラー内容の確認が聴覚でもできなければならない。 例1. 「ファクシミリ送信エラー」や「紙詰り処理」「インクやトナーなどの補給,交換」の要求を示す 報知音(強注意音)は,オン時間0.1秒,オフ時間0.1秒の5回繰り返しパターンを5回鳴動する。 参考1. JBMS-71:2004 事務機器−報知音 例2. 「記録紙切れ」「原稿取り忘れ」を示す報知音(弱注意音3)はオン時間0.5秒,オフ時間0.2秒の5回 繰り返しパターンを4回鳴動する。 参考2. JBMS-71:2004 事務機器−報知音 d) コピー終了の確認が聴覚でもできなければならない。 例 コピー終了を示す報知音(終了音)はオン時間1秒とする。 参考 JBMS-71:2004 事務機器−報知音 附属書4(規定)テレビ電話機の基本機能と配慮事項 1. テレビ電話機の基本機能と配慮事項 1.1 テレビ電話の基本機能 お互いに相手の映像を見ながら通話する機能をテレビ電話機の基本機能と位置 付ける。その他の該当する機能については,附属書1(規定)固定電話機の基本機能と配慮事項又は附 属書3(規定)ファクシミリの基本機能と配慮事項を参照する。基本機能の操作の流れと障害別配慮の 関係については,附属書8(参考)テレビ電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイントを参照する。 参考 テレビ電話機は,固定電話機と同様な形状をした固定電話機型,テレビの上などに置くセットトップ型, 又は携帯電話機の形状を持った携帯電話機型に大別される。 1.2 基本的な配慮事項 基本的な配慮事項は6.共通要件を参照する。 a) 固定電話機型又はセットトップ型では,附属書1(規定)固定電話機の基本機能と配慮事項を参照する。 b) 携帯電話機型では,附属書2(規定)の携帯電話機の基本機能と配慮事項を参照する。 2. テレビ電話機特有の操作ボタン及びテンキー ボタン及びキーに関する共通的な配慮事項は,6.1.4 ボタン,キー,及びスイッチを参照する。更に,テレビ電話機特有の操作ボタンについては,次による。 2.1 「通話開始」「テレビ電話開始」「切断」ボタン a) 専用のキー又はボタンにて操作する場合には,記載文字,及びアイコンなどの表示が見やすく,ボタン の区別が容易でなければならない。 参考 視覚障害,加齢による視力低下のために,表示やボタン類の位置及び機能が分かりづらい場合がある。 b) 触覚で他のボタンと区別できなければならない。 参考1. 指先感覚の麻ひ(痺)や鈍化のために,キー,スイッチ類及びボタン類の入力ができたことが感覚的に 確認しにくい場合及び,視覚障害のためにキー,スイッチ類及びボタン類の位置並びに入力確定の状態, キーリピートの様子などがわからない場合がある。 参考2. JIS S0011:2000 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の凸記号表示 c) 操作できたことが聴覚でも確認できなければならない。 例 入力した結果がディスプレイ等の表示によるほか,報知音などで聴覚での確認ができる。 3. リモコン 上記2.テレビ電話機特有の操作ボタン及びテンキーに加え,テレビ電話機を操作するリモ コンについては次による。形状等については,6.1.2保持を参照する。 a) 手に持った時に,信号の発信部が自然にテレビ電話機本体の方を向くような形状であることが望ましい。 b) ボタン及びキーの識別ができることが望ましい。 c) ボタンを押下した感触が認識できなければならない。 d) 画面上のメニューをリモコンで操作する場合は,容易に操作できることが望ましい。 e) ワンタッチダイヤル及びカメラ位置のプリセット等の簡単操作ボタンが用意されていることが望ましい。 4. 液晶ディスプレイ等の表示装置  a) 主に操作に使用する液晶ディスプレイ等の表示装置については,6.1.5. 表示装置を参照する。 b) 送信,又は受信した映像を表示するためのCRT,液晶ディスプレイ等のテレビモニターは,内蔵の ものだけではなく,大画面などにも対応できるように,出力インタフェース(Video OUT,又はRGB など)を持っていることが望ましい。 5. 映像 映像は,次による。 a) 手話等の視覚情報によりコミュニケーションする場合を考慮して,フレームレート,解像度が適切に 設定できなければならない。 例 手話の動きをよりよく読み取るために,フレームレートを上げて受信した画像を滑らかにしたり, 解像度を上げて,手の形を詳細に読み取ったりする必要があるが,回線の速度に応じて,このバランス を適切に保つよう,それぞれを調整できるようにする。 b) 映像を録画・再生できることが望ましい。 参考 録画した映像は再生速度を調節できると,手話を読み取りやすくなる。 c) 映像と音声を同期させなければならない。 6. カメラ カメラは,次による。 a) 携帯電話機型以外のタイプでは,通常の撮影用カメラ以外にも,外部カメラの入力を最低1系統は持つ ことが望ましい。 参考 書類などを近接撮影して,拡大して送れると情報が読み取りやすい。 b) カメラの撮影範囲(ズーム)及び方向(パン/チルト)などを変更できなければならない。 参考1. 映像で手話を伝えるには,上半身,両手が映る必要がある。 参考2. 視覚に障害のある利用者が,テレビ電話機を用いて文字や色などの視覚的な情報を相手に伝えて, かわりに情報を読み取ってもらうことができる。 c) 携帯電話機型を除き,b)の機能は相手側からもコントロールができなければならない。また,この機能 は,必要に応じて禁止できなければならない。 参考1. 視覚に障害のある利用者との通話のときに,障害のない利用者がカメラをコントロールすることによって, より的確に情報を把握することができる。 参考2. 事前に確認した撮影範囲以外を,相手に見てほしくない場合には,禁止できることが必要になる。 d) 被写界深度の浅いレンズを持ったカメラを使用する場合には,オートフォーカス(自動焦点)が設定 できなければならない。 参考 障害のある利用者は,被写界深度の浅いレンズを使用したカメラでは,焦点を正しくあわせることが 困難な場合がある。 e) オートアイリス(自動露出)の機能が設定できなければならない。 参考 障害のある利用者は,自動露出機能がないと,露出を適切に調整することが困難な場合がある。 7. ハンズフリー  ハンズフリーでの通話ができなくてはならない。 参考 テレビ電話機では,ハンズフリーができると手話を伝えるときなどに有効である。 8. 動作の確認 a) 通話の開始前及び通話中に,送出する映像がテレビモニターで確認できなければならない。 b) ビデオ映像入力を複数備えた機器の場合,テレビモニターを確認しなくても,どの映像入力機器(カ メラ)が選択されているかが触覚又は聴覚でもわかるようにすることが望ましい。 参考 視覚に障害のある利用者が,テレビ電話機で相手にどの映像入力機器から送信されているかを 知ることができる。 c) 撮影している方向が,触覚でも判断できることが望ましい。 参考 視覚に障害のある利用者が,テレビ電話機で相手にどの方向の映像を送っているのかを知るこ とができる。 d) カメラのズーム量が,触覚又は聴覚で確認できることが望ましい。 例 ズームアップ・ズームダウンの操作が,報知音などで聴覚での確認ができる。 9. 設置及び設定 設置及び設定は,サービスマンが設置する場合を除いて6.6 設置・接続・設定に関す る原則を参照する。 附属書5(参考)固定電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント  個別機器の「基本操作に関する障害別配慮ポイント」は,代表的な電気通信機器の基本機能に関す る代表的基本操作を手順に従って並べ,利用者が操作する際の,心身機能等の特性に応じた配慮の必 要性の有無をチェックするものであり,企画,開発,設計段階で検討を行う際の標準的手法の一例と して示したものである。  表中のマスで灰色に塗りつぶされた個所は,横軸の心身の機能等に対して縦軸に記載された操作が 何らかの配慮を必要とすることを示している。  具体的な配慮要件や解決のための例,参考事項等は本文を参照し,対象とする利用者の障害の程度 により選択する。  操作の手順に従って見ていくと,一連の操作が可能であるかを確認することができる。一部でも未 配慮な操作があると,その障害を持つ利用者はその端末機器を利用することが困難となる可能性がある。  チェックの基準は主たる操作方法に何らかの問題がある場合にチェックを行い,具体的基準は次に よる。 (1)視覚・・・表示や操作部を見る等の視覚による操作情報取得を必要とする場合にチェック (2)聴覚・・・音声ガイダンスや報知音,機械的動作音等の聴覚による操作情報取得や受話を必要とする場合 にチェック (3)触覚・・・触覚で操作部の状態やクリック感等の操作情報取得を必要とする場合にチェック (4)器用さ,操作(力の制御)・・・指先等の微妙なコントロールや位置決めを必要とする操作の場合にチェック (5)筋力(力の強弱)・・・物を持つ,動かす,ボタンを押す等の筋力を必要とする入力操作の場合にチェック (6)発声・・・通話や発話による入力操作を必要とする場合にチェック (7)知的能力と記憶・・・認知機能を使用する場合にチェック (8)文化言語の違い・・・表示が日本語や英語,絵文字のみの場合にチェック (9)アレルギー(接触)・・・操作時機器に触る場合にチェック 附属書9(参考)高齢者・障害者の心身機能等の特性と問題点 この附属書(参考)は,本体及び附属書(規定)に関連する事柄を補足するもので,規定の一部ではない。 序文 この附属書(参考)は,高齢者・障害者の感覚機能,身体機能,又は身体構造の特性に関する理解を 促進するための事項を解説したものであり,規定の一部ではない。 この附属書では,高齢者・障害者が電気通信機器を利用する際に生ずる一般的な問題点に基づいてそれら の特性について解説する。本附属書で示された参考は,あらゆる問題点を網羅したものではなく,代表的な 問題点を列挙したものであり,実際に電気通信機器の設計に使用する場合には,本規格で定められた設計プ ロセスやユーザ評価などをあわせて行うことが必要である。とりわけ,重複障害や高齢者の特性を評価する 際には,以下で述べられた複数の問題が同時に発生することに留意が必要である。 1 高齢者・障害者の特性 1.1 視覚  1.1.1 特性及び問題点 視覚障害とは,視覚にかかわる機能が低下,もしくはまったく無い状態をいう。視 覚障害には,まったく視力がない状態,眼鏡等による矯正ができないか,それらを用いても視力が弱く見え づらい状態,通常の明るさでもまぶしくて見づらい状態,色の組み合わせが識別できない状態,視野が狭い (狭窄)している状態,視野をさえぎる浮遊物がみえるなど,様々な特性がある。また,視力には問題は無 いが運動障害による振戦のために表示部を注視できないなどの問題もある。視覚の代替手段として点字が用 いられる場合があるが,視覚障害のある利用者のうち点字を利用できる人は少数である。 1.1.2 加齢による影響 加齢にともない,近点距離(ピントが合せられる最も近い距離)が延長し,近くを 見るときの視力(近見視力)が徐々に低下する。また,水晶体が混濁,黄変することで,色弁別能力が低下 し近似明度差,彩度差の区別が難しくなる。この水晶体の混濁による光の拡散で,視野周辺に輝度の高いと ころがあると不快なグレアを感じやすくなる。さらに,明暗に順応する速度が低下するとともに,薄暗い所 での視力が低下する。 1.2 聴覚 1.2.1 特性及び問題点 聴覚障害とは,聴力がほとんど無いか,又は聞こえづらい状態をいう。聴覚に障害 がある場合,音の大きさが大き過ぎても小さ過ぎても聞こえにくい場合が多い。音の聞こえは,聞き取りや すい周波数帯域や音の大きさによって左右され,また,耳鳴りによって聞きにくい状態になる場合もある。 主に内耳以降に障害がある場合,補聴器を装用しても音声の聞き取り能力の改善には限界がある。生まれな がらに又は幼少時から聴覚障害のある利用者には,手話を主なコミュニケーション手段とする人が多い。こ のような人々にとって,日本語は第二の言語になるため,複雑な文章の理解が困難な場合がある。 1.2.2 加齢による影響 加齢にともない,多くの場合高音域を中心に聴力低下が徐々に始まり,50代でも 3KHz以上の周波数帯に低下が現れ始める。その結果,例えば高音域成分の強い子音が聞き取り難くなり聞き 間違いが多くなる。また,ひずんだ音声や雑音に埋れた音声の聞き分けが難しくなり,聞き易い音の範囲が 狭くなる。 1.3 触覚 1.3.1 特性及び問題点 触覚の障害とは,脳疾患などにより触覚がない,又は触覚を感じにくい状態をいう。 表面の小さな突起や材質の違いなどを指先などで感じ取ることができない,温度を感じられないために火傷 をしてしまう,怪我をしても気がつかないなどの問題がある。また,自助具や義肢等を用いている場合には, 触覚に頼った操作がしづらい。 1.3.2 加齢による影響 加齢にともない,指先などの触覚の感度が低下し,物表面の質感やクリック感など の細かな変化が感じ取り難くなる。また,熱さや,痛みに対する感覚も低下し反応も遅くなるので火傷や怪 我をしやすくなる。 1.4 手の動き 1.4.1 特性及び問題点 肢体不自由の状態では,腕が所定の位置まで動かせない,動かせるが安定させられ ない,指の動きに制限があり操作しづらい,あるいはできないといった問題がある。また,対麻痺のように 手指の運動には問題のない利用者もいるし,片麻痺の場合は,右手,あるいは左手の動きのみに制約が生じ ることがある。脳性麻痺等の場合には,アテトーゼや不随意運動があり細かな動作が困難な場合が多い。一 般に,反応速度が低下してすばやい操作ができない,細かな操作がむずかしいといった問題がある。 1.4.2 加齢による影響 加齢にともない,手指の細かな動きができなくなるとともに,反応時間や動作速度, ダイアルつまみやレバーなどを調節する速度が遅くなる。また,関節の可動範囲が狭くなることで操作しや すい位置や範囲が制限される。さらに,疾病等により手の動きが制限されたり,麻痺などにより片手でしか 操作できなかったりする場合がある。 1.5 筋力 1.5.1 特性及び問題点 筋ジストロフィー症では,細かな手指の動きは可能だが可動できる範囲が狭く筋力 が著しく弱くなる。また,ほとんど筋肉が動かなくなる筋萎縮性側索硬化症などがある。これらの疾患では, 筋力の低下によってボタンを押すことやスライドスイッチなどを操作することができなくなる問題がある。 1.5.2 加齢による影響 加齢にともない,筋力や体力が低下し十分な力が出せない,操作を持続するのが困 難であったり,或いは痛みを伴ったりする場合がある。また,加齢によって筋力の弱ってきた利用者は,重 いものを持ち続けること,また一定の動作を続けることが困難になることがある。握力や背筋力等の筋力は 20歳前後をピークに加齢とともに低下し,60歳代後半では10歳代前半と同程度となる。 1.6 下肢の動き,筋力及び車いすの使用 1.6.1 特性及び問題点 下肢に障害があると,歩行が困難な場合や,歩行は可能だが補助手段を必要とする 場合もある。補助手段としては,手すり,杖,歩行補助車,車いす,電動車いすなどがある。杖等の補助手 段を用いて立ったまま電気通信機器等を利用する場合は,片手でしか操作できなかったり,体幹の保持が困 難で寄りかかったり,或いは手すり等で保持したりする必要がある。また,車いすを利用する際は,車いす の高さや寸法の制限を受けるために,設置方法によってはディスプレイが見づらい,操作ボタンに手が届か ないといった問題がおきることがある。 1.6.2 加齢による影響 加齢による筋力の衰えにより,上記と同様な問題点が発生することがある。 1.7 身体構造 1.7.1 特性及び問題点 手指に欠損があると,小さなボタンを操作することが難しい,複数のボタンを同時 に操作する,或いはより複雑な操作が困難であるといった問題が発生する。また,義肢を用いる場合には, 触覚によるフィードバックが得られないなどの問題がある。 1.8 認知及び記憶 1.8.1 特性及び問題点 認知とは,情報の統合や整理及び処理のことである。認知に障害のある状態とは, 記憶や知的能力にかかわる障害があることをさす。これらの障害があると,表記されている言葉の意味が理 解できなかったり,理解できてもまたすぐに忘れてしまったりするなどの問題がある。また,直前の操作を 忘れてしまったりして機器操作の手順を正確に追えないなどの問題もある。さらに,取扱説明書に書かれて いることが理解できないといった問題などがある。 1.8.2 加齢による影響 加齢にともない,情報を理解,処理するための流動性知能は20歳前後をピークに 徐々に低下するが,語彙や概念,知識等の学習経験などによって獲得される結晶性知能は50歳代でも上昇し, 高齢になっても衰え難い。一方,長期記憶は加齢による変化は少ないが,想起障害を起こしやすく度忘れや 固有名詞が思い出し難くなるとともに,短期記憶も30歳代半ばから低下し新しいことが覚え難くなる。さら に,集中力が低下し持続的な作業ができなかったり,事前の操作を忘れてしまったりといった問題がある。 1.9 発声 1.9.1 特性及び問題点 発声の障害とは,まったく言語を発声できない,又は発声をスムーズに行えない状 態をいい,主に次の3つの原因がある。言葉を発するのに要する器官の形態に異常があり発声が困難な場合, 筋肉が随意に動かせないために発生する運動性溝音障害,脳の損傷により言葉が出なくなる言語障害などで ある。また,生まれつきもしくは幼少時から聴覚に障害のある利用者は,音声を耳で聴いて学習することが 困難であるため,一般的な発音とは異なることが多く,不明瞭な場合もある。また,自身の発している声の 大きさが分かりにくいため,必要以上に声が大きくなってしまう場合がある。 1.9.2 加齢による影響 加齢にともない,発声器官に障害が出てきて発声が困難になったり,思っているこ とが自由に発声できなくなったりする場合がある。 1.10 体格 1.10.1 特性及び問題点 体格とは人体の全体としての定性的な特徴を現すもので,具体的には,人体の部位 の寸法の全体的な特徴をいう。操作部の設置位置や高さなどが適切でないと,長時間の操作に支障をきたし たり,操作が困難だったりする場合がある。 1.10.2 加齢による影響 加齢にともない,関節可動域の低下や姿勢が変化することで操作し易い位置や高さ の範囲が狭くなる。 1.11 障害の重複 1.11.1 特性及び問題点 重複障害とは,視覚と聴覚あるいは聴覚と手の動きといったように,2つ以上の障 害を併せ有する場合をさし,先に示した個々の障害に対する問題点が重複することで,さらにその支障が大 きくなることも多い。 1.11.2 加齢による影響 加齢にともなう変化は身体機能の重複した低下であり,視覚,聴力,触覚,手の動 き,筋力,認知等全般にわたるものであるが,変化の程度は個人差が大きく,機能によるバラツキも多い。 個々の機能低下は大きくない場合でも,例えば視力の低下,聴覚の低下,筋力の低下等が重複しているため に,端末機器等を用いる際に代替的な手段やメディアを十分に活用することができず,操作や利用が困難に なることがある。また,障害者の加齢による身体機能低下にともなう代替機能の低下も大きな問題である。 1.12 先天的障害と中途障害 1.12.1 特性及び問題点 先天的に障害がある場合,あるいは若くして障害をもった場合には,その機能を代 替するために別の感覚器官や身体機能が発達し,それらを用いることで同等な活動を行える場合がある。こ れらの代替的な機能に着目すると,有効な代替手段を提供できることがある。一方,中途障害の場合にはこ ういった代替の身体機能などを十分に発達できない場合が多く,両者に対する配慮は異なることがある点に 留意する。 1.12.2 加齢による影響 加齢に伴う身体機能の低下は典型的な中途障害であるが,若年者の中途障害とは内 容や程度が異なることが多く,代替手段もそれに応じた配慮が必要となる。 2 その他の問題点 2.1 アレルギー 2.1.1 特性及び問題点 アレルギーには接触,気道,食物といった原因がある。 2.2 文化及び言語の差異と初心者 2.2.1 特性及び問題点 文化及び言語の差異と初心者における特性及び問題点は障害ではないが,障害や加 齢による影響と同様な問題が発生することがある。異なる文化的背景を持つ人は,暗黙の了解事項や習慣を 身につけていない場合があり,電気通信機器の操作方法を適切に理解できないことがある。初心者も,不慣 れで十分な知識がないために,操作が分かりにくい,表示された文字やアイコン等の意味をつかめないこと がある。日本語を十分に習得していない人は,日本語,とりわけ漢字を理解することがむずかしい。 附属書10(参考)他の規格との位置づけについて この附属書(参考)は,本体及び附属書(規定)に関連する事柄を補足するもので,規定の一部ではない。 1. 本規格の位置づけ 高齢者・障害者に関係するJIS規格は以下の図に示すように3階層から構成されている。 すでに4つのJIS規格が公示されており,情報通信機器を対象とした本規格は,それらのJIS規格に続くも のである。 第1層目は“基本規格”として位置づけられるものでJIS Z 8071になる。これは,高齢者や障害者のため の規格,ガイドラインを作るための指針を示す規格である。内容的には,@規格作成の過程において考慮す べきことをフローチャートとして記されている。A具体的に配慮すべき事項を包装,材質などの「配慮領域」 を縦軸に,感覚,身体,認知,などの身体特性を横軸にとるマトリックス形式でわかりやすく表している。 第2層目は“グループ規格”と呼ばれるもので,パソコン,携帯電話機,ソフトウェア,サービスなど情 報処理機器・サービス全般を網羅する共通の指針になる。具体的にはJIS X 8341-1「高齢者・障害者等配慮 設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス−第1部:共通指針」(以下,共通指針という。) として2004年5月20日に公示された。 第3層目は“個別規格”と呼ばれるもので,製品分野ごとの個別の設計規格である。パソコンなどの情報 処理装置を対象にしたJIS X 8341-2「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェ ア及びサービス−第2部:情報処理装置」(以下,第2部という。)が2004年5月20日に公示された。また, ウェブコンテンツや電子マニュアルなどを対象にしたJIS X 8341-3「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報 通信における機器,ソフトウェア及びサービス−第3部:ウェブコンテンツ」(以下,第3部という。)も2004 年6月20日に公示された。本規格はこの第3層に該当する。 2. 上位規格との関係 本規格は,基本的に上位規格である共通指針に準拠している。その上で,あらゆる電気通信機器に適用す る要件を共通要件とし,携帯電話機など機器固有の要件をそれぞれ附属書(規定)として記述した。本規格 では共通指針の内容を各項目で引用することはしていないが企画・開発・設計する際の規格として参照する ことを期待する。 なお,JIS原案を作成するにあたって,第1層目のJIS Z 8071:2003「高齢者及び障害のある人々のニーズ に対応した規格作成配慮指針」に準拠して作成されている。附属書5(参考)固定電話機の基本機能に関す る障害別配慮ポイント,附属書6(参考)携帯電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント,附属書7(参 考)ファクシミリの基本機能に関する障害別配慮ポイント,附属書8(参考)テレビ電話機の基本機能に関 する障害別配慮ポイントは,JIS Z 8071:2003「高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮 指針」の“7.アクセシブルデザインを確実にするため,規格作成時に配慮すべき要素の表”を参考に作成し たものである。 3. 他の個別規格との関係 本規格と第2部は,規格としての目的を同じくする兄弟関係にある規格で,互いに関連性が強くその内容 も非常に似ている。 たとえば,規格の目的をあらわす序文を見ると,本規格では「この規格は,主に高齢者,障害のある人々 及び一時的な障害のある人々が,電気通信機器を利用するときのアクセシビリティを確保,向上するための 指針として,JIS Z8071(高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針)に基づいて作成 されたものである。」と記述している。第2部の序文で“情報処理機器”と記されていることを除けば,その ほかの文言はまったく同じである。情報処理機器と電気通信機器は情報化社会における必要不可欠な両輪で あり,両規格とも「暮らしやすい情報化社会の実現」という同じ目的に向かって規定されたことを考えると, 序文が同じ表現になることも当然である。 具体的に機器に求める要件についても近いものが多い。これは本規格を策定する際,先に公示された第2 部の基本方針を踏襲したことによる。以下に基本方針を示す。 1)要素技術別にまとめる。  規格の対象者は,情報処理機器・サービスを提供する側の発注者,企画・設計・開発者,サポート担当者 など幅広い。その対象者に理解しやすいよう,また,情報処理装置や電気通信機器を構成する多様な要素 技術の担当者が,各技術の開発に具体的に役に立つようにした。これは新しい技術にも対応できる。 2)実効性が高いよう項目は必須要件と推奨要件にわける。  高齢者・障害者等が現状の情報処理機器や電気通信機器を利用する上で問題があり,それを改善すること の効能が大きい項目を選定することが重要である。さらに現行技術で対応可能であることや対応に必要な 工数が過大でないことも考えあわせ,それを“必須”要件とした。また,現行技術では実現が難しいが今 後の技術の進展などで対応が可能と考えられるものは“推奨”要件とした。 3)わかりやすい例示や参考をできるだけ付記する。  情報処理機器や電気通信機器に求める要求内容だけでなく,高齢者・障害者が利用する際の問題点や背景 をできるだけ付記した。これによって企画・設計・開発者の理解を助けるとともに,現行技術を組み合わ せたり新技術によって例示以上の良い対応方法が検討されることも期待した。 4)企画から保守・運用までのプロセスを考慮する。  使いやすい情報処理機器や電気通信機器の製品化には,利用者の多様な身体特性や機器使用時の問題点な どについて企画段階でよく理解し,かつ情報処理機器や電気通信機器提供後のフォローや次の製品開発へ のフィードバックが不可欠である。そこで,規格への対応レベルを維持するために企画・設計段階から保 守・運用時まで幅広い工程で考慮することが重要と考えた。 このように両規格は類似点が多く,本規格を理解する際に第2部は参考になる。 4. 海外の規格との関係 国際規格としては,高齢者・障害者のための規格やガイドラインを作るための指針として,2001年に発行 されたISO/IEC Guide71(Guidelines for standards developers to address the needs of older persons and persons with disabilities)が有名であるが,これは日本がISO総会で提案,その後, 議長国としても主導的な役割を果たして2001年にISOで標準化されたもので,2003年に前述のJIS Z 8071 として公示されたものである。 そのほか,ISO/TS16071(ソフトウェアのアクセシビリティに関するISO標準)は,米国ANSI案,北欧指 針,通産省の情報処理機器アクセシビリティ指針をベースとして策定されたもので,本規格策定に際しても, その内容を参考にした。また,米国リハビリテーション法508条も調査した。 5. その他の規格との関係 (社)ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)においてオフィスの複合機などを対象にした業界 規格がすでに公開され,現在それをJIS規格にするために原案策定中である(2004年10月現在)。 附属書11(参考)関連規格 この附属書(参考)は,本体及び附属書(規定)に関連する事柄を補足するもので,規定の一部ではない。 JIS Z 8071:2003 高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針 JIS X 8341-2:2004 高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービ ス−第2部:情報処理装置 JIS S 0011:2000 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の凸記号表示 JIS S 0012:2000 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の操作性 JIS S 0013:2000 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の報知音 JIS S 0014:2000 高齢者・障害者配慮設計指針−消費生活製品の報知音−妨害音及び聴覚の加齢変化を 考慮した音圧レベル JIS S 0032:2003 高齢者・障害者配慮設計指針−視覚表示物−日本語文字の最小可読文字サイズ推定方 法 JIS Z 8513 人間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業−視覚表示装置の該当事項 JIS Z 8518 人間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業−表示色の要求事項 JIS Z 8524 人間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業−メニュー対話 JIS Z 8530 人間工学−インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス 解説 ヒューマンファクターとは 人間工学は,人間と機械(システム)との相互関係を科学的に分析し,人間の種々の特性を考慮した,製 品設計,作業設計,環境設計等を行っていくための学問体系を示す。ここでいう人間の特性とは,各身体部 位の特性(動き方や筋力など),生理的特徴(生理反応),心理的特徴(思考や感性),能力などなど種々のも のを指す。 人的特性という意味でよく用いられるヒューマンファクターは,Meister(1971)によると ・ 機械・設備を有効に使用することに影響する諸要因 ・ システムを動かしていく上で,どういうスキルをもつ人が必要かといった人的諸要件 ・ 人間が機械・設備を使用する際の行動特性と,それらによるシステムへの影響 ・ 働く人の行動,健康,やる気などにシステムが及ぼす影響 といったことを意味する。また,ヒューマンファクターズと言う場合は,単に人間に関わる要因群という意 味ではなく,ヒューマンファクターを議論する学問体系という意味合いを持っている。 人間工学とヒューマンファクターズとは,このようにほぼ同義であるが,次のように見ることもできる。 人間工学は,ユーザと機械・製品との関係,さらにそのつながりに焦点をあて,比較的ミクロな視点によ る研究(いわゆる人間工学に対する一般的イメージとして定着している部分)と,作業者と機械・製品だけ でなく,作業者をとりまくシステムや組織・社会までを対象とし,そこにおける人間に関わる諸要因を総合 的に評価するといったマクロ的な視点に立った研究に分けられる。ヒューマンファクターズは,この後者の 部分を中心としている。 特に,事故防止など安全の向上を目的として,事故やインシデントなどの原因となった種々の人的要因(ヒ ューマンファクター)やヒューマンエラーを評価・分析する場合は,ヒューマンファクター研究,ヒューマ ンファクターズ,と言われる。日本でも,化学プラント,発電プラント,航空機,鉄道などで安全に関わる 人的事象を分析し,その対策を講じる活動をヒューマンファクター研究として称し,その成果を積んでいる。 (それらの業界や企業におけるヒューマンファクターと名の付く部署や委員会などは,それぞれの分野にお けるヒューマンエラーの防止を目的としている)。最近では,医療現場や各種工場など,ヒューマンエラー防 止に対する活動が求められる分野でも,ヒューマンファクターの検討が盛んになっている。また,安全だけ でなく,品質管理やサービス管理などの問題に対しても,ヒューマンファクターズの視点で評価し,改善を 図ることが増えてきている。 このようなヒューマンファクターに関わる研究では,人間工学分野だけでなく,心理学,社会学など種々 の専門分野の研究者が関わっており,学際的な色合いは濃い。逆に言えば,ヒューマンファクターズでは, 従来の人間工学の知見だけではなく,幅広い識見が求められる。 これからの人間工学的研究は,このようなヒューマンファクターズの流れ,すなわち,より総合的見地か らそのシステム・組織・環境・社会を人間という視点から議論し,安全・品質・サービスなど様々な要件を よりよい方向に改善していくことが求められる。 さらに,そこで言う人間(機械・製品のユーザ)の特性を幅広く捉え,利用する可能性のあるユーザすべ てにとって高いユーザビリティが実現できるようにしなくてはいけない。健常者のみならず,高齢者や障害 者まで,利用者すべての使いやすさ,快適さなどを満足させるための設計(ユニバーサルデザイン,ユーザ 中心設計:Human Centered Design)を支援することが,最近の人間工学・ヒューマンファクターズにおける 重要なテーマの一つとなっている。特に,障害者,高齢者の特性は,従来の人間工学の基本的な知見には合 致しないことも多く,インタフェース設計やアクセシビリティなどでは,健常者とは異なる視点での補填・ 展開も必要である。 JIS X 8341-X:0000 高齢者・障害者等配慮設計指針− 情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス− 第X部:電気通信機器 解 説 この解説は,本体及び附属書に規定・記載した事柄,並びにこれらに関連した事柄を説明するもので,規格 の一部ではない。 この解説は,財団法人日本規格協会が編集・発行するものであり,この解説に関する問合せは,財団法人日 本規格協会へお願いします。 1. 制定の趣旨  主に高齢者や障害のある人々,病気や事故などによって一時的に障害のある人々に支障なく操作できる電 気通信機器を提供するための配慮設計指針を示すことがこの規格の目的である。しかし,身体能力,感覚能 力及び認知能力の低下の程度は,極めて多様であり,アクセシビリティの程度を一律に決めることは難しく, 規格化になじまない場合もあり得る。そこでこの規格は,高齢者・障害者等が電気通信機器を使用する場合, その基本機能のアクセシビリティを確保することを目指すが,本体に支援機器を接続することによってアク セシビリティを確保する場合も想定している。 2. 制定の経緯   2.1 社会的背景 情報通信技術のめざましい発展・普及により,すべての人々がその生活や仕事の面において日常的に電気 通信を利用する機会が増えてきている。一方,社会を構成する人々の人口比率においては,高齢化が急速に 進展している。さらに,厚生労働省の調査によれば,視覚や聴覚など身心に障害を有する人々も人口比率か らみると増加の傾向である。 このような社会的背景において,電気通信機器を提供する場合には,高齢者・障害者に配慮した設計配慮 が当然重要になってくる。 近年,電気通信機器は高齢者や障害を持つ人々にとって非常に利便性の高い必需品となってきている。例 えば,メール機能の付いた携帯電話機は聴覚に障害のある人々にとっては日々の生活において欠かせないも のとなっている。また,ファクシミリなどの文字伝送通信が聴覚障害者の情報交換を支えていることも電気 通信機器の有用性を示すものの一つであろう。 しかし,これらの電気通信機器の利用においては,未だ問題が多い。例えば,高齢者や障害者等が携帯電 話機や携帯電話機を経由したインターネットを利用する率は,パソコンを利用する場合に比較するとまだま だ低いといわれている。この原因は,パソコンであれば適切なサポート技術を使用すれば利用可能になる場 合が多いからである。しかし,携帯電話機のような個別機能の通信機器では,そのような支援技術を効果的 に利用することが現状の段階では出来ない場合が多いからである。また,視覚や聴覚の機能が低下した高齢 者は新しい概念の機器や新しい機能を進んで利用しない傾向があることも指摘されている。 このような高齢社会・高度情報社会の中にあって,主に高齢者や障害のある人々,病気や事故などによっ て一時的に障害のある人々に支障なく操作できる電気通信機器を提供するための配慮設計指針を示すことは 非常に意義が大きいといえる。 2.2 標準化の動向  電気通信機器をできるだけアクセシブルに設計するために,指針や規格の策定や法制化に関する動きが国 内外で活発になってきている。 2.2.1 日本におけるアクセシビリティと標準化活動 わが国では,高齢者・障害者を含む全ての人々が電気通信機器及びサービスを支障なく円滑に利用できる ようにする,いわゆるアクセシビリティを確保・向上するための活動を,情報通信アクセス協議会(旧電気 通信アクセス協議会)が推進している。 同協議会では,平成2001年1月に施行された「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」, また2002年12月に改正された“障害者基本計画”における「障害者に使いやすい情報機器の開発・普及の 促進,障害者に配慮した情報通信機器の各省庁等による調達努力等が高齢者や障害者施策の基本的方針」な どを受け,電気通信機器及びサービスを企画・開発・設計・評価等をおこなう際のアクセシビリティ向上の ためのガイドライン(第1版:2002年4月)を制定した。さらに同協議会では,社会情勢や機器の高度化に 対応し,この第1版を改定し第2版を2004年5月に改定した。本規格の骨子は,この「高齢者・障害者等に 配慮した電気通信アクセシビリティガイドライン第2版をベースに作成されている。 一方,2000年9月には,日本工業規格の国内標準機関である情報技術標準化研究センター(INSTAC)の 元に”情報バリアフリー実現に資する標準化調査研究委員会”が設置された。また2001年4月には,(社) 電子情報技術産業協会(JEITA)において「アクセシビリティ標準化対応専門委員会」が設置され,関連部門 が相互に連携をとって情報分野のアクセシビリティガイドラインの策定が進められてきた。このなかで,「高 齢者・障害者等配慮設計指針」はすでに下記のものが制定され,3つの階層構造となっている(本規格附属 書7参照)。 階層の最上位は,「JISZ8071:高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針」で,2003 年6月に策定された。この規格は,日本からISOに原案が提案され,ISOのガイド71としてISO/IEC規格と なりそれと整合を取る形でJIS化されたものである。 中間層は,ガイド71の下に,すべての情報通信機器・サービスを対象とする「JISX8341-1高齢者・障害者 等配慮設計指針−情報通信における機器・ソフトウェア・サービス−第一部:共通指針」であり,2004年5 月に策定された。 最下層は,それぞれの業界ごとに対応した機器等の個別規格や指針から構成される。本規格“高齢者・障 害者等配慮設計指針−情報通信における機器・ソフトウェア・サービス−第X部電気通信機器”(JIS X 8341-1)もこの階層に該当し,既に第2部:情報処理機器,第3部:ウエッブアクセシビリティが制定され ている。 2.2.2 海外の標準化動向  米国のリハビリテーション法508条は,1998年に強制力をもつように改正され,2001年6月から強制力が 発効した。連邦政府及び連邦政府から何らかの形で援助を受けている組織は,障害のある人の雇用の有無に かかわらず,今後購入するすべての情報通信機器は障害者のアクセシビリティを配慮したものにしなければ ならない。連邦政府の援助はすべての州政府が受けており,更には州を通して多くの組織が援助を受けてい る。この508条対象製品と対象以外の製品を分けて設計することはコスト上昇にもつながることから,米国 情報通信関連企業はすべての製品にアクセシビリティ機能を搭載してくるものと思われる。米国はさらにカ ナダなど北米各国にも同様の処置を取るように働きかけるとともに,ISOなどにも国際規格として採用する ように呼びかける準備を進めている。このような動きに対応して,我が国やISO,欧州標準化3団体(CEN, CENELEC, ETSI)でも規格化の作業が進められている。これまでのISOの活動は,主にソフトウェア中心で あるが,情報アクセシビリティを実現するためには,ハードウェアやサービス,コンテンツなども含め総合 的視野のもとで検討を行うべきであろう。 一方欧州では,CEN/CENELECがアクセシビリティ関連の指針を作るためのガイドラインであるガイド71 をCEN/CENELEC Guide 6として制定し,更にセクタガイド及び個別規格の策定作業に入っている。また,ISO に対しても積極的に提案を始めており,多くの加盟国からも注目を集めていることから,わが国でも今後こ れらの動向に注意を要する状況になってきている。 3 規格作成の基本方針と構成  3.1 基本方針 2.2.2でも述べたように,本規格は,「高齢者・障害者等に配慮した電気通信アクセシビリティガイドライ ン第2版をベースにし,工業標準化法に従って原案作成にあたった。以下に,規格作成における基本方針を あげる。 (a) 本規格は,本体及び附属書で構成する。本体では各機器の共通的な配慮要件を記述し,附属書(規定) では機器個別に配慮すべき要件を詳細に記述する。個別機器としては,我々の生活のなかで最も基本的 で重要な電気通信機器として,固定電話機(含IP電話機),携帯電話機,ファクシミリ及びテレビ電話 機の4つとする。 (b) JIS Z8071“高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針”の考え方と,セクタガ イドラインJIS X 8341-1(高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及び サービス−第1部:共通指針)を基本に,国内外の関連規格・指針類を総合的に考慮する。 (c) 配慮要件の概念などは共通指針(第1部)で述べられているので,これらの重複をなるべくさけ,電気 通信機器に関する規格としてできるだけ詳細で具体的な規格とする。 (d) 各項目の要求レベルについては,原則として,実現されないと基本機能を使うことができない利用者が いると判断される項目は「必須」,その他の項目は「推奨」とする。ただし,「必須」項目の中でも,技 術的あるいは経済的に全ての機器に対して実現が困難な項目については「できるだけ実現しなければな らない」という表現とする。 (e) 新しい概念の電話機・ファクシミリや,既存の機能が複合化した電気通信機器についてもできるだけ適 用できるような規格とする。なお,今後,個別製品群に関する規格類(JISや業界規格等)が制定され た場合はそれを参照にすることとする。 (f) 多様な心身機能等の特性に配慮することは,高齢者や障害のある利用者だけでなく,一般の利用者にと っても,騒音下での利用等,有効になる場合があることにもできるだけ例示等で触れる。 (g) 各機器の基本機能が高齢者や障害のある利用者に使えることを確認するために,配慮すべき要件ととも に,機器の企画・開発・設計に関するプロセスについても言及する。 (h)製品の購入や使用する際に必要な各種サポート情報の提供に関しても,この規格に含める。 (i) 販売店等におけるサポートに関する配慮項目も重要な要件であり,問い合わせ窓口などについても言及 する。 (j) 各項目の具体的実現方法は,規格本文では原則明示しない。なお,既存の規格にあるものは開発の参考 になるため,参考や例に付記する。 (k) 技術の進歩が早い製品・技術に関しても対応できるように,できるだけ参考等で説明を加える。 (l) 電気通信機器を利用する場合,機器に対する配慮だけでは十分ではなく,電気通信サービスに関しても 十分な配慮が必要である。しかし,日本工業規格は機器に関する要件を定める規格であるため,本規 格では電気通信機器に必要な配慮要件のみを記述する。 (m) 機器別の基本操作に関する障害別配慮ポイントを作成し,製品に反映すべきポイントを容易に理解で きるようにする。 3.2 本規格の構成 3.2.1 目的 本規格では,高齢者及び障害のある人を含む身体能力,知覚能力及び認知能力の低下したすべての人が, 電気通信機器を使用する場合におけるアクセシビリティ及び使いやすさを向上させることを目的としている。 3.2.2 適用範囲 高齢者と障害のある人を含む身体能力,知覚能力及び認知能力の低下したすべての人に対し,電気通信機 器を使用する場合,アクセシブルで使いやすい電気通信機器を設計・開発する場合,及び購入に際する要求 仕様の策定や評価方法の策定の指針について規定している。また,新しい概念が次々と出現し,個々の製品 の境界の定義が困難な状況でもある。例えば,携帯電話機などでは,メール機能に加えて,ラジオやテレビ あるいはテレビ電話に相当するような機能を有するものまで製品化されている現状である。このような対応 規格が制定されていない領域の電気通信機器等に対しても,これらの機器の開発や評価に際してこの規格が 参考になり得るものと考えている。 3.2.3 全体構成 規格の構成は,「本文」と「附属書」の2部から成り,企画設計時にあたって利用しやすい構成とした。以 下に全体構成を示した。 <本文> 序文 1 適用範囲  2 引用規格  3 定義  4 基本原則  5 規格・開発・設計・評価における要件  6 操作・利用に関する基本的要件  7 機器に関する基本要件  8 サポートに関する要件 <附属書> 附属書1(規定)固定電話機の基本機能と配慮事項 附属書2(規定)携帯電話機の基本機能と配慮事項 附属書3(規定)ファクシミリの基本機能と配慮事項 附属書4(規定)テレビ電話機の基本機能と配慮事項 附属書5(参考)固定電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント(PDF版をご覧ください) 附属書6(参考)携帯電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント(PDF版をご覧ください) 附属書7(参考)ファクシミリの基本機能に関する障害別配慮ポイント(PDF版をご覧ください) 附属書8(参考)テレビ電話機の基本機能に関する障害別配慮ポイント(PDF版をご覧ください) 附属書9(参考)高齢者・障害者の心身機能等の特性と問題点 附属書10(参考)他の規格との位置付けについて 附属書11(参考)関連規格 本文では,序文に始まり,第1章:適用範囲,第2章:引用規格,第3章:定義,第4章:基本原則,第 5章:企画・開発・設計・評価における要件,第6章:共通要件,第7章:サポートに関する要件の7章か ら構成され,主に電気通信機器に共通な要件及びサポートに関して述べている。 附属書1〜4(規定)では,固定電話機,携帯電話機,ファクシミリ及びテレビ電話それぞれ個別の基本機 能とその配慮事項を詳細に述べている。 附属書5〜8(参考)では,機器別の「基本操作に関する障害別配慮ポイント」を付けた。これは,機器別 の基本操作の開始から終了にいたる手順を詳細に表形式でまとめたものであり,設計開発する過程において 障害別の配慮要件をチェックする際に非常に有用となるものである。 附属書9〜10(参考)では,高齢者・障害者の心身機能,身体構造の特性と問題点及び他の規格との位置 付けについても述べ,開発設計する祭の参考となるように配慮した。 設計者は,製品の設計から完成までの各過程において本規格を熟読し,機器完成途中の段階においても使 用者の生の意見を聞き,それを積極的に機器の改良に役立てていただきたい。 4 審議中に特に問題になった事項 4.1 電気通信サービスに関すること: 電気通信サービスについての配慮要件を規格に盛り込むことに関して,使用者から種々の意見があり議論 を重ねた。 電気通信機器で通信を行うためには,電気通信に関する設備とそれを制御し支えるシステムやサービスが 欠かせない。現在,こうした電気通信機器におけるデータの送受信方式には様々のものがある。例えば,携 帯電話機を例にとると,音声電話の場合は各通信事業者により通信方式が異なっても,互いに通話できるよ うな仕組みがシステムに組み込まれ,通信方式や通信事業者の違いを意識しないで遅延なく通話できる方式 になっている。この例に見るように,互換性や即時性が,音声以外の媒体(例えば文字や画像など)の送受 信でも保たれていないと,音声を使用できない人たちは通信に支障をきたすことになる。またこうした問題 は,電気通信機器単独では解消されない問題であり,電気通信に関する設備の構成や種々のサービスによっ て互換性を確保しなければならない場合が非常に多い。このような観点から,今回定めた本規格が有効に生 かされるためには,システムやサービスにおける電気通信事業者間の互換性や即時性が保たれる必要がある。 以上のような電気通信サービスに関する議論を踏まえ,次のような結論を得た。すなわち,電気通信に関 するサービスは工業標準化法に馴染まないことから今回は本規格に盛り込まない。しかし,電気通信機器個 別の配慮要件のみでは実際の機器使用に際しては不十分であることはだれも認めるところであり,また特に 高齢者・障害者等にとって重要課題でもある。従って,下記の「懸案事項」にも述べるように,電気通信サ ービスに関する要件に関しては,国際電気通信連合(ITU)に指針として盛り込む形で提案を行される。 4.2 各要件に対する規格の「必須」と「推奨」に関すること: 配慮要件を規定する際の要求強度について議論があった。すなわち,ある配慮要件について「〜について 配慮しなければならない:必須要件」と「〜について配慮することが望ましい:推奨要件」である。これに 関して,機器の実現性の容易さ及び使用者の要求度合いをレベル分けして,必須と推奨を客観的に振り分け る等の意見も出され議論を重ねた。議論の結果,次の結論に至った。すなわち,基本方針の項目(d) のように “各項目の要求レベルについては,原則として,実現されないと基本機能を使うことができない利用者がい ると判断される項目は「必須」,その他の項目は「推奨」とする。ただし,「必須」項目の中でも,技術的あ るいは経済的に実現が困難な項目については「できるだけ実現しなければならない」という表現とする”こ とになった。 なお,各要件をどのように実現するかは設計者が判断するものであり,本規格におけるすべての「必須要 件」を反映することを求めているわけではないことが議論され確認された。 5 懸案事項 先の 4.1 でも述べたように,電気通信サービスに関する要件は,工業標準化法に馴染まないことから本規 格から除外することとなった。しかし委員会では,電気通信サービスのアクセシビリティに関してもその重 要性を十分に理解するとともに,高齢者・障害者等にとって必要不可欠な項目であることを確認した。した がって今後は,本規格の普及啓蒙活動と平行して,国際標準化に向けた取り組みを積極的行っていくことと なった。具体的には,電気通信サービスに関する要件に関しては,国際電気通信連合(ITU)に対して指針と して盛り込む形で提案される。 6 原案作成委員会の構成表